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新作ケーキとまとめ買い

「おお、こっちも相変わらず繁盛してるなあ」

 到着したクーヘンの店は、相変わらずの盛況っぷりを見せていた。

 表には途切れる事なく何人もの人が並んでいるし、人員整理の為のポールも店の前にまだ立てられている。

 そして、少し離れたところから店を眺めていると、俺に気付いた並んでいた人達がまた伝言ゲームを始めてくれて、すぐにクーヘンが店から出てきてくれた。自動呼び出し機能は健在だったようです。



「おはようございます」

 笑顔でそう言いながら走ってくるクーヘンに、何だか申し訳なくなる。

「おはよう、相変わらず大繁盛みたいだな」

「はい、おかげさまで忙しくしてます。あれ、今日はお一人ですか?」

 ハスフェル達の姿が見えない事に気付いて、周りを見たクーヘンが不思議そうにしている。

「ああ、俺は朝市に寄ってから来たから、今はあいつらとは別行動中だよ。いや用事があったのは広場の屋台の方で、せっかく近くまで来たからクーヘンの店の様子もちょっとのぞいて行こうかと思っただけ。忙しいのに手を止めさせて悪かったな」

「ああ、そうだったんですね。それなら丁度良かった。ちょっと渡したいものがあるので、屋台の買い物が終わったら、もう一度店に顔を出していただけますか」

「ああ、そうなんだ。了解。それじゃあ先に買い物を済ませてくるよ」

 手を上げたクーヘンが、そう言って店に戻るのを俺は笑って見送る。

 長い付き合いだから、俺が屋台に用事があるって言っただけで何をしに来たかバレてるって、ちょっと笑える。



 クーヘンの姿が見えなくなるまで見送り、俺はそのまま隣の広場にある屋台へ向かった。



 シャムエル様ご希望の、あのお菓子屋さんをまずは探す。

「ああ、いたいた。さて、何があるのかな?」

 見覚えのある屋台を見つけて少し遠くから確認する。

「新作って、あの真ん中にあるデカいホールケーキの事か?」

 大きめのガラスドームの中にどどんと置かれたそれは、以前買ったデコレーションケーキよりも背が高く、全面に渡って生クリームが塗られているだけの、白いタワーみたいなケーキだった。

「ううん、白いのが生クリームなのは分かるけど、以前買ったデコレーションケーキとはどこが違うのかな? 見ただけでは違いが分からないぞ」

 首を傾げていると、俺に気づいた店主さんが嬉しそうに目を輝かせるのが見えて思わず吹き出す。

「あぁあ、見つかっちゃったよ。仕方がないから行くとするか」

 笑ってそう呟き、シャムエル様を肩に乗せたまま店に近付く。



「おはようございます。あの、新作のシフォンケーキです。試食がありますので、どうぞよかったら食べてみてください」

 そう言って、小皿に乗せた小さなケーキに楊枝を突き刺したのを出してくれた。

「おう、じゃあ頂きます」

 一口サイズなんだけど、右肩のシャムエル様が目を輝かせてそれを見ている。

 手に取ったそれを、俺は食べるふりをしてそのまま右肩にいるシャムエル様の前に持って行く。

 一瞬で無くなったそれを口元へ戻し、俺は素知らぬ顔で食べた振りをした。

『美味しい〜〜! ふわふわで最高〜〜! お願いだから買ってください〜〜!』

 大興奮したシャムエル様の声が頭に響き渡り、思わず飛び上がりそうになって、咳をして誤魔化した。

「うん、これは美味しいですね……」

『ねえ、店の奥の冷蔵庫にもまだある! 他に種類がないのかも聞いてください!』

 これまた興奮したシャムエル様の声が聞こえて、吹き出しそうになったのをもう一回咳き込んで誤魔化したよ。

「ああ、大丈夫ですか」

 俺が試食のケーキに咽せたと思ったらしい店主が、そう言いながら慌てている。

「すみません、大丈夫です」

 そう言いながら、一礼して鞄から水筒を取り出して飲んでおく。

「あはは、失礼しました」

 鞄に水筒を戻してから、改めてケーキを見る。

「ええと、今食べたのってこれですよね」

「はい、新作のシフォンケーキです。ふわふわなのが特徴ですから過剰なデコレーションをせずに、クリームだけで口当たりを楽しんでいただけるようにしました」

 目を輝かせる店主さんのその説明に、俺はちょっと考える振りをする。

「ええと、味の種類はこれだけですか?」

「こちらのバニラ味と、他にココア味と紅茶味、それからコーヒー味があります」

 ちょっとドヤ顔になる店主さんを見て、俺はにっこりと笑った。

「ええと、また買い占めさせていただいてもよろしいですか?」

「ありがとうございます。きっと喜んでいただけると思っていたんです。ああ、今日は全種類作って来て良かった」

 最後の小さな呟きは恐らく独り言のつもりだったんだろうけど、俺のよく聞こえる耳にはちゃっかり聞こえてたよ。

 って事で、店主さんが新作ケーキを包んでくれている間に、シャムエル様がまた焼き菓子を欲しがったので選んでおいてもらい、後でまとめて頼んで包んでもらった。

 それにしてもお菓子の種類ってすごくたくさんあるんだな。

 多分、全部の材料がバターと砂糖と小麦粉と卵だと思うんだけど、あと何がどう違うからこんなに種類が出来るのかなんて俺にはさっぱりだよ。

 いやあ、お菓子作りも奥が深いねえ。



 包んでもらったケーキをせっせと収納して、シャムエル様が選んだ焼き菓子も包んでもらった俺は、改めてクーヘンの店に差し入れ用の焼き菓子を、お願いして色々取り合わせて包んでもらった。

「ありがとうございました」

 満面の笑みの店主さんに見送られた俺は、笑って手を振りかえしてそのままジュース屋さんにも立ち寄り、空いていたピッチャーに、またお任せでジュースを入れてもらった。

「まあ、せっかくだからここでもちょっと買っとくか」

 ジュースを収納した後にそう呟き、以前も買ったパン屋さんやおにぎり屋さんにも顔を出し、まとめて色々と買わせてもらった。

「うん、三人も増えたんだからな。作り置きの食料は余裕を持って確保しておかないとな」

 さっきのお菓子屋さんにおまけでもらった、割れたクッキーを一口だけ齧って、あとはシャムエル様に渡してやる。

「わあい、サクサクだね」

「確かに美味しい。さすがだなあ。俺が作ったのと全然違うよ」

 嬉しそうにクッキーを齧るシャムエル様を見て、俺も同じ事を思っていたので笑ってそう答える。

 それから興奮してもふ度がアップしている尻尾を突っついた俺は、差し入れのお菓子を手にクーヘンの店へ向かったのだった。

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