大量購入と俺の主食発見!
「おお、相変わらず賑わってるなあ」
到着した朝市の通りは、文字通り人と物であふれていた。
しかも、さすがは収穫の秋。新鮮な野菜や根菜類や果物をはじめ、ありとあらゆるものがそれぞれの店に山盛りに飾られていた。川沿いの街なので、川魚を売っている店も何軒もある。
「よし、バイゼンまでとは言え三人も増えるんだから食料は多めに買っておかないとな」
小さくそう呟いて、まずは手近な店を見に行った。
マックス達を連れて歩いていると、もうすっかり有名人になった俺に向かってありとあらゆる店の人達が、それこそ満面の笑みで呼びかけておすすめの品物を見せてくれる。
苦笑いしつつも、俺はとにかく目についた品物をひたすら買いまくった。
そして大量に買った品物をせっせと鞄に詰め込むのもここではもうすっかり見慣れた光景になったらしく、皆、苦笑いしつつも素知らぬ顔をしてくれていた。
まあ、そう考えたら有名人になるのも悪くないかも……。
「よおし、まあ朝市での買い物は、これくらいで勘弁してやるとするか」
朝市の通りを端から端まで歩いた俺は、そう呟いて通ってきた道を振り返った。
「じゃあ後は主食のパンと肉、それから乳製品だな」
ハイランドチキンやグラスランドチキン、それから他にも従魔達が狩って来てくれた野生肉はあるけど、普通に店で売っている牛や豚、それから鶏の肉も欲しい。って事でそのまま別の通りへ向かい、ここでもいろんな肉やソーセージやウインナー、ハムや生ハムなどの加工品を始め、牛乳やチーズも大量に買い込ませて頂いたよ。
それと、嬉しい発見があった。
たまたま入ったこじんまりしたパン屋で、何故か炊き立てのご飯が売っていたのだ。他に、おにぎり各種も並んでいて俺のテンションは跳ね上がったね。
驚いて聞いてみたところ、ご主人がカデリーの街の出身なんだそうで、他にもこの街にいるカデリー出身の人達のために、ここではパンと一緒に炊き立てのご飯も販売しているんだそうだ。
ああ、もっと早くこの店を知りたかった。
俺がご飯が大好きなんだって話をするとすごく喜んでくれて、まとめ買いしたいのでどれくらい売ってくれるかと尋ねると、今炊いてあるご飯を全部売ってくれると言われて俺の方が焦ってしまった。
ご飯は炊き上がるまでそれなりに時間がかかる。全部はちょっと無茶だよって。
「ええ、俺は嬉しいですけど、他の人が買いに来たら困りませんか?」
売ってくれるのはありがたいんだけど、主食を買い占めるのはちょっと気が引ける。しかし、ご主人は笑って首を振った。
「お気になさらず。常連の皆様なら、ケンさんがご飯が大好きで全部買って行ってくれたんだって言えば、絶対に大喜びしてくれますよ。いくらでも炊きますから、気にせずどうぞ持っていってください」
そこまで言われたら固辞するのも失礼だろう。って事で有り難く買う事にした。
まずは炊き立てのご飯を大量に受け取り、それ以外にも、おにぎり各種も山ほど出してきてくれたので、もう遠慮なくありったけ買わせていただきました。
多めにお金を払った俺は、ちょっとガッツポーズになる。
ご飯の在庫がそろそろ無くなってきていたんで、炊かなきゃダメだと思っていたんだよ。
しかも、もっと買いたいとお願いしたところ相談の結果、収穫祭の後にまたご飯を大量購入させてもらう事になった。
小さな店のように見えるので、手間を取らせて申し訳ないと思っていたら、実はご飯の専門店でもある事がわかった。
何と聞くところによると、収穫祭の時には毎回おにぎりの屋台を出すらしいんだけど、その際にはこことは別の通りにご飯炊き専用の工場があって、そこで一日中ひたすら米を炊くらしい。もちろん、早駆け祭りの時にも同じく屋台を出しているのだそうで、毎回同じ人達に来てもらって大量の米を炊いているらしい。
要するに、全員がカデリー出身の米炊きのプロ。
しかもここで使っているお米は、全てカデリーから西アポンを経由して川沿いに運ばれて来た、カデリー産のお米なんだって。
一大産地から運ばれてくるお米を、その土地出身の人が炊く。そりゃあ美味しくないわけがない。
って事で、主に俺の主食が大量に確保された。よしよし。
その後は、揚げ物用の油や、塩をはじめとした配合調味料やコーヒー豆なんかも見つけ次第購入。
とにかく、もう良いだろうと思えるまで大量に買い込んで回った。
「さて、そろそろこんなもんだろう。じゃあマントを受け取りに行くか」
そう言って大きく伸びをした俺は、マックス達を連れてマントを注文した店のある通りへ向かった。
しかし、その途中に見つけた雑貨屋で立ち止まった俺は、そこで売っていた固形石鹸と、恐らく竹製と思われる大きめの敷物を見つけて購入した。聞いてみると、これは主に台所や水場などの水回りに敷くものらしい。
ここにはそれ以外にも、いかにもお風呂で使えそうなサイズの木製の手桶や小さな丸椅子、それに脱衣籠に使えそうな大きめの籠まであったので、喜んでセットで購入させてもらった。
よし、これで俺のお風呂ライフが充実するぞ。
その後、到着した服屋で、お願いしていたマントを引き取った。
一応羽織って確認させてもらったんだけど、さすがはプロ。本当にファルコの止まり木は出せるようになっているのに、穴を開けた部分を隠すように生地を上手く重ねていて雨が入らない仕様になっている。
お金は全部払ってあったのでそのままお礼を言って品物受け取り、ちょっと考えて祭壇に敷いていたのと同じサイズのバンダナや、それ以外にも大きめの布を何枚かまとめて購入させてもらった。
これなら風呂敷がわりにもなりそうだし、こういう大判の布は使い勝手が良いんだよな。
「さて、買い物はこんなもんだな。じゃあクーヘンの店をちょっと覗いて、それからシャムエル様お目あてのお菓子屋の屋台へ行くか。円形広場まで行って店に顔を出さないのも失礼だろうからさ」
そう言って小さく笑った俺は、そのままクーヘンの店へ向かう事にした。