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母の思いとシャムエル様

「ああ、こいつ最高だ。俺も従魔が欲しいよ〜〜!」

 またしてもセーブルに乗せてもらったアーケル君は、皆で街へ向かう坂道を駆け下りながらご機嫌でそう叫んでいる。

 別に彼になら何かテイムして譲ってやっても良いかと思ってるんだけど、ここは俺がでしゃばる場面じゃあないよな。

 横目でチラ見すると、ニニの背中に乗ったリナさんはそんなアーケル君を見て無言で何か考え込んでいる。

 まあ、ようやく従魔達と正面から付き合い直す決意をしたばかりだ。ここは親子で落ち着いてからゆっくり相談して貰えば良いよな。



「アーケル、不用意な事を言うんじゃない。譲られた従魔との付き合いは、我々であってもそれこそ一生になるんだぞ」

「当たり前じゃん。そんなの分かってるよ。俺、いつも馬を買う度に思ってたんだ。もっと長生きしてくれたら良いのにって。馬の寿命は短いって頭では分かってても、やっぱり……別れるのは辛いよ」

 最後は小さな声でそう言って、手を伸ばしてセーブルを撫でる。さすがの長命種族の感想に、俺は苦笑いするしかなかった。

「俺なら絶対に大事にする。ケンさんがやっていたみたいに、従魔達とくっついて寝たい。どうして俺にはテイマーの才能が無かったんだろう」

 悔しそうなアーケル君の呟きに、俺は、いつの間にか現れて肩に座っていたシャムエル様を見た。

「ううん、微妙だねえ。才能自体は無い訳じゃあないよ。だけどなんて言うか……何かがその才能が開花するのを塞いでるみたいに感じるねえ」

「ええ、ドユコト? 塞いでいるって何が?」

 すると、シャムエル様は首を傾げながら短い腕を組んだ。

「うん、分かるのは、間違いなく彼女が関係しているっぽいって事だね」

 そう言ってニニの背に乗っているリナさんを示す。

「だからとにかく、まずは彼女が自分の意思でしっかりと従魔をテイムして、立ち直ってからもう一度改めて見てみるよ。私にもよく分からないけど、多分、自分の子にはテイマーになって欲しくないっていう、母親である彼女の無意識の制限が、彼にかかっているんだと思うね」

「へえ、そんな事ってあるんだ」

 驚いてそう呟くと、シャムエル様は小さく笑いながら頷いた。

「そうだよ。母親の力って、時には私の思惑なんて飛び越えてしまうくらいに強くて……そして悲しいくらいに優しい。私は、これまでもたくさんの命の繋がりを見てきた。だからこそ、どの子も皆愛しく思う。精一杯生きている命は、本当に美しいからね」

 声はいつもの普通の声だったけど、ちょっと神様っぽいその言葉に、何だか俺の胸までいっぱいになってきて、ちょっと出かけた感動の涙をグッと飲み込んだのは内緒だ。

「じゃあ、まずは郊外へ出て、彼女に何かテイムさせてみるか」

「そうだね。良いんじゃない」

 尻尾の手入れを始めたシャムエル様を見て、俺は小さく頷いた。

 一応こう見えても創造神様だもんな。シャムエル様が良いって言ってくれたら、何だか全部上手くいくような気がしてきて、俺はまたちょっと出そうになった涙を飲み込んだ。



「ねえ、それよりさあ」

 小さな手で俺の頬をぺしぺしと叩きながら、何やらシャムエル様が言いたげに俺を覗き込む。

「何? どうかしたか?」

 驚いて、シャムエル様を見ると、目を輝かせたシャムエル様は尻尾を振り回しながらくるりと回った。

「今日はクーヘンの店には寄らないの?」

「いや、今日は屋台で飯を食ったら朝市へ行って減ってきている野菜とか乳製品とか調味料とかを買って、服屋でマントを引き取ってからちょっと他にも買い物するつもりなんだ。何、クーヘンの店で何かあるのか?」

 ちょっと心配になってそう尋ねる。

 もしかして、俺は知らないけどクーヘンの店でまた何か問題でも起こっていたら大変だからな。

「いや、そういう訳じゃあないんだけどさあ……」

 何やら、歯に物が挟まったみたいな言い方をされて、こっちの方が気になってくる。

「ええ、一体何があるんだよ。そんな言い方されたら気になってしょうがないじゃないか」

 すると、誤魔化すように上を向いたシャムエル様は、チラッと俺を見てからこう言ったのだ。

「あの、すっごく美味しかった全部巻きを売っていたお菓子屋さんがね、また何か新しいお菓子を出してるみたいな気がするんだよねえ。だからさあ……」

「要するに、新作お菓子を買いに行けと、そう言う事だね」

「まあ平たく言えば、そうなる、かな?」

「平たく言おうが山盛りに言おうが、そういう事だろうが」

 笑ってもふもふの尻尾を突っついてから、ちょっと考える振りをする。

「まあ、良いんじゃないか。お菓子は俺が作るより専門家に任せる方がずっと良さそうだしさ。じゃあ、先に俺の用事を済ませてからでも良いよな?」

「もちろん大丈夫です!」

 一気に嬉しそうになるシャムエル様のもふもふ尻尾をもう一度突っついてから、俺はそろそろ人が一気に増えてきた通りを見て、速度を落として通り抜けていった。相変わらず大注目だけど、気にしない、気にしない。




 到着した広場で、それぞれ好きに買い込んで広場の端で食べる。

 俺の今日のメニューは、いつものタマゴサンドが二切れと野菜サンド、それから串焼きの店で鶏肉の塩焼きを二本買ってきた。今日は郊外へ出る予定なので、朝はしっかり食っておく作戦だ。

 マイカップにたっぷりのコーヒーを淹れてもらい、まずはシャムエル様にタマゴサンドを丸ごと一つ渡してやる。

 ついでにコーヒー屋に空になっているピッチャーを渡して、食べている間にあるだけコーヒーを淹れてもらう。

 座ったマックスの足にもたれかかった俺も、のんびりと買ってきたサンドイッチを食べながら串焼きを齧る。

 串焼きの最後の一つを口に入れた俺は、残りのコーヒーを飲み干してから、マックスの頭の上でコーヒーカップホルダー役をしてくれていたサクラに渡して綺麗にしてもらい、サクラごとそのまま鞄の中に放り込んだ。

 ちなみに鞄の中にはアクアが、そしてベルトの小物入れには人数の減ったレインボースライム達が入っている。

 それからコーヒー屋に行って、お金を払ってピッチャーを引き取ってくる。

「じゃあ、食ったから朝市へ行ってくるよ。また後で」

「はい、いってらっしゃい」

 リナさん達にも声をかけてから、手を振ってくれたリナさん達に手を振り返した俺は、従魔達を連れて朝市の開催している通りへ向かって歩いて行ったのだった。

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