快適な目覚めと本日の予定
「うああ、めっちゃ気持ち良かった。よし、明日街へ行ったら石鹸と足元用の濡れても大丈夫な敷物と脱衣籠を探すぞ」
湯船から出た俺は、そう言って大きく伸びをした。足の先から頭の先までゆっくり温まった身体は、快適そのものだ。
「ご主人綺麗にしま〜す!」
湯船から飛び出してきたサクラが、一瞬で俺を包み込んで水気を取ってくれる。
「ありがとうな。ううん、湯上がり用のタオル代わりの布は要らなかったな」
苦笑いしつつ、風呂場を出てすぐのところに置いてあった服を着る。
「おやおや、ずいぶんと気持ちよさそうですね。そんなに良かったですか」
笑ったベリーの声に振り返った俺は満面の笑みで大きく頷いてサムズアップしたよ。
「最高だったよ。この世界にも風呂があって俺は嬉しいね。湯で温まると血行が良くなるし、疲れも取れるから良いんだぞ」
「知識としては知っていますが、ケンタウルスにもそういった習慣はありませんね。でも、スライムちゃん達はそのお風呂が気に入ったみたいですね」
いつの間にか戻って来ていたベリーが、すっかりぬくぬくになった俺を見て、そんな事を言って笑っている。
それから、ベッドの横に敷いた絨毯に箱座りする猫みたいに軽々と足を曲げて座り収まる。それを見て、セーブルと狼コンビのテンペストとファインがその隣に並んで転がった。
「それじゃあおやすみ」
三匹も手を伸ばして順番に撫でてやり、あちこちで転がって寛いでいた猫族軍団も順番に撫でてやる。
「ご主人、手があったかい!」
ヤミーが嬉しそうにそう言って、俺の手に大きな頭を擦り付けて来る。
「おう、湯上がりだからな」
胸元に潜り込んでくるタロンを抱いたまま、お空部隊も順番に撫でてやったよ。
「はあ、じゃあ湯冷めしないうちに俺も寝るか」
水分補給に冷やしてあった麦茶をぐいっと飲んでから、マックスとニニが先に行って待機してくれている部屋に備え付けの巨大なベッドへ向かう。
「それでは今夜もよろしくお願いしま〜す」
いそいそとニニの腹毛に潜り込み、寝るためのベストポジションを探してゴソゴソと寝返りを打つ。無事に収まったところで、背中側にラパンとコニーが巨大化して収まり、タロンが俺の腕の中にするりと潜り込んで来た。
フランマと他の猫族軍団は、どうやらベリーのところへ行ったみたいだ。
って事は、今夜のベリーは熊と狼と猫族の猫団子状態じゃん……何その、もふもこパラダイス。
絶対にベリーは喜びの余り笑み崩れてると思うぞ。
小さく笑った俺は、胸元のタロンを抱きしめる。
「ご主人、すごくあったかいです」
タロンが甘えるようにそう言いながら、ものすごい音で喉を鳴らしている。ちょっと振動が響いてるレベルだよ。大丈夫か?
しかも、その音を聞いてニニまで一緒になって喉を鳴らし始めた。
「ああ、良い音だなあ……」
うっとりとその二重奏に聞き惚れていると、笑ったベリーが部屋の照明を指を鳴らしただけで一瞬で全部消してくれた。
「ありがとうな。それじゃあ、おやすみ……」
「はい、おやすみなさい」
寝ぼけながらも挨拶すると、優しいベリーの声が聞こえる。小さく欠伸をしてベッドにあった大判の毛布を引き上げて被り目を閉じる。
そのまま俺は、気持ち良く一瞬で熟睡していた。
ううん、相変わらず寝付きの良さは表彰してもらえそうなレベルだよなあ……。
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
こしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「ふあぁ……うん、起きるよ」
翌朝いつものモーニングコールチームに起こされた俺は、大きな欠伸をしながら返事をして猫みたい伸びをして起き上がった。
「あれ、目覚めがいつもより良いぞ」
まだ若干寝ぼけてはいるが、今までみたいに体が全く動かないなんて事は無い。
「ううん、だけど寝ぼけてる感じは、こっちの方が上っぽいなあ、何がどうなってるんだ? だけどやっぱり眠いぞ〜」
もう一度欠伸をしてから、ニニの腹毛に再度倒れ込む。
「こら、ご主人。起きてください。今日は朝市に行くんでしょう?」
笑ったニニにそう言われて、まだ眠いのを我慢してもう一度起き上がった。
「おはよう。寝起きの感じはどう?」
座った膝の上に、いつものテンションのシャムエル様が現れる。
「おはよう。おう、まだちょっと眠いけど意外に簡単に起きられたなあ」
「よしよし、上手くいったみたいだね」
満足そうに腕を組んでそんな事を言われてしまい、俺はちょっと遠い目になったね。
「まあ、何をやったのかなんて言われても、俺には分からないもんな。起きられるんなら良いって事にしておこう」
って事でいつものごとく、疑問は全部まとめて明後日の方角にぶん投げておく。
風呂場の隣にあった部屋に備え付けの水場で顔を洗い、スライム達を水槽に放り込んでやる。
集まってきたお空部隊と狼コンビとマックスは、スライム達が吹き出す噴水で大喜び水浴びをし始めた。
「ほどほどにな。あとはちゃんと綺麗にしておいてくれよ」
「はあい、もちろんです〜!」
楽しそうにザバザバと水を撒き散らす従魔達を見て、笑いながらベッドへ戻って身支度を整える。
『おはよう。もう起きてるか?』
ハスフェルからの念話が届き、ちょうど剣帯を締め終えた俺は顔を上げた。
『おう、おはようさん。今準備出来たところだ。今朝はどうする? 俺は朝市を見たいから出来れば早めに街へ行きたいんだけどなあ』
『ああ、それなら皆でこのまま出かけて屋台で食うとするか。リナさん一家も、もう起きてるみたいだしな』
『良いな、じゃあそれで行こう』
ギイの提案に笑って頷き、話がまとまる。
それからまた、アルファとベータとゼータにはベリー達と一緒に行ってもらい、断崖絶壁の青銀草と薬草集めを担当してもらう事になった。
「さてと、それじゃあ行きますか」
いつもの鞄を背負って従魔達と一緒に廊下へ出る。
「おはようございます。朝はこのまま街へ出て屋台で食おうかって言ってたんですが、構わないですか?」
廊下にちょうど出て来ていたリナさん一家と合流して、そう言ってみる。
「ええ、もちろんです、我々もだいたいいつもそんな感じですからね」
「じゃあ飯食ったら一旦解散して自由行動にします。俺は用事を済ませて来ますから、バッカスさんの店で合流して狩りに出かけましょう」
「了解です。私達もいくつか買いたい物があるので、あとで合流すれば良いですね」
話しながら全員揃って外に出て戸締りをする。
「それじゃあ、今日はどの子に乗りますか?」
振り返った俺の言葉に、リナさん一家がまたしても大喜びしていたのだった。