テイムと仲間達の意味
「ああ、羨ましい。あのラパンちゃんのもふもふ以上の毛に毎晩埋もれて寝ているなんて〜〜!」
もう一度叫んだリナさんに、俺だけじゃなく皆も笑う。
「それで、もう一回地下洞窟へ行ってギイと出会ったんだっけ」
さすがに、ギイの変身能力については言えないので、適当に誤魔化しておく。
「ああ、確かそんなだったな。面白そうなメンバーだったんで、せっかくだから俺もご一緒させてもらう事にしたんだよ」
笑ったギイに俺も笑って頷く。
「その後もクーヘンの戦力強化の為に、サーバルとジャガーを俺の従魔達に協力して確保してもらってテイムして、やっぱり俺も欲しいって叫んで、結局俺も両方テイムしたんだっけ」
「ああ、そうだったな」
駆け寄って来たソレイユとフォールを撫でる俺を見て、ハスフェル達が笑っている。
「その後、もう一度地下迷宮へ行って、俺が自分で確保してブラックラプトルをテイムしてもらったんだ」
笑ったギイの言葉に、俺はあの時の事を思い出してちょっと遠い目になったよ。
「ハスフェルとギイの二人がかりで、俺とクーヘンがやったみたいに後ろからブラックラプトルの背中に飛び乗って、そのまま首を締めて目を塞いだんだよ。どれだけブラックラプトルが暴れても、しがみついた二人を振り解けなくて、結局諦めて大人しくなったところで俺がテイムしたんだったよな」
顔を見合わせて笑う俺達を見て、リナさんは何やら考えている。
「それで、その後ハンプールへ行って早駆け祭りに参加したんですよ。ちょうどその頃、オンハルトの爺さんも仲間になったんだっけ」
「ああ、そうだったな。騒ぎが大きくなりすぎてお前らが郊外へ避難していた時に、祭り見物に来た俺の仲間達と一緒に合流したのだったな」
オンハルトの爺さんの言葉に、俺も笑って頷く。
「祭りが終わって旅に出る時に合流した仲間達が全員揃ってスライムが欲しいって言うもんだから、調子に乗ってあちこち移動してレインボースライムを集めたんです。そうだ。リナさんもよかったら集めてみてください。きっと楽しいですよ」
「それは楽しそうですね。是非やってみたいです」
目を輝かせる彼女に、俺は慌てて一日にテイム出来る数の上限がある事も伝えておく。
「それは知ってます。実を言うと一度死にかけた事がありますからね」
驚く俺に、彼女は自嘲気味に笑って首を振った。
「ウサギのジェムモンスターは人気があったんです。だからまとめてテイムしようとしたら、十匹目で急に苦しくなって、突然意識を失ってその場に倒れたんです。目が覚めたら丸一日経ってました。守ってくれた従魔達がいなかったら、あのまま創造主様のところへ戻っていたでしょうね」
「うわあ。それはまた無茶な事を」
俺の叫びに、彼女も苦笑いしている。
「その時に、どうやら一度にテイム出来る数には上限があるらしいと身をもって思い知りましたからね。それからは、気をつけていましたから気絶する事は無かったですよ」
「いやいや、気絶で済んでラッキーですって。下手したら心臓止まりますから。俺は心臓止まりかけたんですからね」
揃って頷くハスフェル達を見て、リナさん一家が呆れている。
「それはまた無茶をしましたね。でも、生きていて良かったですね」
「本当ですよね。命は大事にしないと」
大真面目に言った俺の言葉に、全員揃って苦笑いしながら何度も頷いたのだった。
「その後に大人数で行ったのが、新しく発見した地下迷宮でね。これは本当に死にかけたんだよ。主に俺が」
顔を覆った俺の言葉に、ハスフェルとギイとオンハルトの爺さんが揃って吹き出す。
「新しい地下迷宮? ええ、それは何処にあるんですか!」
目を輝かせるアルデアさんとアーケル君。何その食い付きっぷりは。
「いやあ、しかしこれがとんでもない場所でね」
笑ったハスフェルが、持っていた地図を広げて彼らに見せる。
ギルドで売っている地図に、自分で描き込んだもので、当然あの地下迷宮の場所には印が入っている。
「ですが、今行っても中に入れませんよ」
「おや、入るのに条件があるんですか?」
地図の位置を確認していたアルデアさんの言葉に、揃って吹き出したハスフェルとギイが、あのとんでもない、全冒険者に喧嘩売ってるであろう地下迷宮の仕組みと中にいる恐竜達の強さを詳しく説明した。ついでに最下層が完全に水没していて、攻略するには水の術と風の術の最高位が絶対条件である事も付け加えておく。
「ええ、誰かが最下層を攻略すると、その度に迷宮が閉じて新たに作り直されるですって!」
「しかも、最下層が完全に水没してたって……親父、幾ら何でもそりゃあ俺達でも無理だよ」
顔を覆ったアーケル君の叫びに、アルデアさんも遠い目になってる。
そんな親子を見ながら、アーケル君は父親であるアルデアさんを親父って呼ぶんだ。と、妙な所で感心していたのだった。
それから新しい酒をグラスに注ぎ、最初のホテルハンプールでの夕食の時にギルドマスター達が言ってた、カルーシュの街で巻き込まれたタロンとファルコの誘拐事件とその顛末をかいつまんで話した。
三人はもう途中から笑い過ぎて、揃って机に突っ伏して泣きながら笑ってたよ。
俺達も、途中からは話しながら一緒になって遠慮なく大笑いしたよ。改めて思い出してみたら、あれほど馬鹿馬鹿しい事件もそうは無いよな。
「その後もまあ色々あって、行った場所が飛び地だったんです」
飛び地の存在は知っていても、そうある場所じゃ無いらしい。当然その事を知ってるリナさん一家の目の色が変わる。
「だけど、とんでもなく硬いイバラと蔓に覆われた深い森の奥です。そう簡単に行ける場所ではありませんよ。行くなら、それらを排除する方法が必要です」
そう言いつつも、ハスフェルは地図を示してアルデアさんに場所を教えている。
まあ、彼らなら行けると踏んでの事なんだろう。
そのあたりは俺にはさっぱりなので、彼の判断に任せておく。
「そこではこの子達をテイムしたんですよ」
笑ってそう言い、ハリネズミのエリーやお空部隊の子達を順番に紹介してやる。
「それで、その飛び地でランドルさんとバッカスさんに出会いました」
「ああ、じゃあ彼が乗っていたカメレオンオーストリッチは飛び地の子ですか。それにしても、よくあんな強力なジェムモンスターをテイム出来ましたね」
リナさんの言葉に、彼が十年以上もの間偶然テイムしたスライム一匹をこっそり従魔にしていた事。テイムの仕方が分からず、従魔登録こそしていたものの、テイマーと名乗っていなかった事も話した。
「だけど彼は、俺がちょっとやり方を教えただけで、自力でカメレオンガラーをテイムしたんだ。その結果、スライムとカメレオンガラーの見事な連携で、あのカメレオンオーストリッチをテイムしたんだよ」
俺がランドルさんから聞いた、どうやってあれをテイムしたかって話には、リナさんだけじゃ無く、アルデアさんとアーケル君までもが揃ってポカンと口を開けて聞いていたのだった。
そしてまた考え込むリナさん。
そう、俺や他の魔獣使い達も、どれだけ仲間達や従魔達の手を借りてテイムを行ってきたか。
きっとこの話は彼女の頑なな考えを変えるきっかけになるだろう。
そして、カルーシュ山脈の奥地で出会った、セーブルとヤミーの一件だ。
彼女の反応を考えながら、俺はグラスの酒を飲み干してから続きを話し始めたのだった。