俺の今までの話
「最初の俺の従魔であるニニは、元は俺の故郷で別の人が見つけて面倒を見ていた子なんです。それに、マックスも同じで、俺の知り合いの方が亡くなった時に譲ってもらった子なんですよ」
驚くリナさん達に自慢気に笑った俺は、ニニとマックスを交互に抱きしめてやる。
「ああそうか。確か言ってなかったな。ええとその前に一つ。今更改めての自己紹介と言うか、ちょっと俺の今までの話を聞いてください……俺は、いや俺達は同年代って訳では無いんですが、全員が同郷なんですよ」
「おや、では外へ出て知り合ったわけですか」
リナさんの隣で一緒に話を聞いていたアルデアさんの言葉に、俺達は顔を見合わせて頷く。
「どちらのご出身なんですか?」
話の流れ上、リナさんがそう尋ねてくれる。
「影切り山脈の樹海出身なんです」
簡単に言った俺の言葉に、リナさん達が三人揃って目を見開く。
「まあ、その辺りの詳しい話はまたいずれ。それでリナさんが最初に俺の事を勘違いする原因になったって言ってた、レスタムの街。ちょうどその頃に俺は、まあ色々あって故郷を後にして生まれて初めて外の世界へ出たばかりでした。それで、一番近くにあったレスタムの街で、冒険者として登録したところだったんです。つまり、ニニとマックスは樹海から連れて来た子達なんですよ」
「ああ、それならあの巨大さも分かります。樹海では通常の魔獣でさえも、大きさも強さも桁が違うと聞きますからね」
アルデアさんの言葉に、リナさんとアーケル君が壊れたおもちゃみたいにうんうんと頷いている。
「ちなみにその時の俺の従魔は、マックスとニニ、それからスライムのアクアとサクラ、オオタカのファルコ、それからこの子。グリーンビッグパイソンのセルパン。それだけでしたね」
机の上に跳ね飛んで来たアクアとサクラを撫でてやり、窓辺に置いた大きな止まり木に留まってのんびりと身繕いをしていたファルコを示し、ニニの首輪の一部に擬態していたグリーンビッグパイソンのセルパンを俺の腕に移動させて見せてやると、何故か三人が揃って目を見開いてセルパンに話しかけた。
「これは気付きませんでした。てっきり首輪の模様だとばかり思っていましたよ。初めまして。気配の消し方は草原エルフ並みですね」
アルデアさんの言葉に、首をもたげたセルパンはなんだか得意気だ。
「でまあ、そんな感じで俺は従魔達と一緒に世界を見て回る旅を始めました。スライム以降は、全部旅の途中でテイムした子達です」
セルパンをニニの首輪に戻してやり、俺はリナさん達を振り返る。
「それで旅の途中でちょっと危機に陥っていた俺を助けてくれたのが、偶然行き合わせたハスフェルだったんです」
「ああ、確かに偶然だな。今となってはあの出会いは神の采配だったんじゃあないかとも思えるけどな」
笑ったハスフェルの言葉に、俺も小さく吹き出して同意するように大きく頷く。
「でまあ、あまりにも世間知らずで心配になったもんで、しばらく彼の旅に同行する事にしたんですよ」
苦笑いしたハスフェルの言葉に、またリナさん達が大きく頷く。
「しばらくはニニに乗せていたんだけど、やっぱり自分の従魔が欲しいって彼が言うものだから、一旦一緒に樹海へ戻って、樹海の森でグレイハウンドの亜種のシリウスをテイムしたんです。しかも、その時は俺とハスフェルの二人だけで、罠にかけたあの巨大なハウンドの亜種を取り押さえたんですよ」
驚きに言葉も無いリナさん一家を見て、俺とハスフェルが顔をつきあわせて同時に吹き出す。
「俺が罠にかかったハウンドを確保しようと奮闘しているのに、その時のこいつは自分の方に転がってくるのを見て逃げようとしたんだぞ」
笑ったハスフェルの言葉に俺は遠い目になる。
「そりゃあ、あのデカさの魔獣が自分に向かって転がって来たら、普通は身の危険を感じて逃げるだろうが、いつも言ってるけどお前らを判断の基準にするな。絶対おかしいから!」
真顔で叫ぶ俺を見てリナさん達が揃って吹き出す。
「それで、俺が持っていた剣を鞘ごと構えてシリウスの鼻っ柱をぶっ叩いたんです。こんな風にね」
構えてバットを振るポーズを取る。
「怯んだところを二人がかりで押さえつけて確保して、俺がテイムしたんです」
無言で拍手するリナさん達に、俺とハスフェルが笑ってドヤ顔になる。
「その後は、彼について旅をしながら色々と世間の常識や知識を教えてもらいましたね」
胸元に潜り込んできた白猫のふりをしているタロンを撫でてやりながら、もう一度ハスフェルと顔を見合わせて笑う。
「東アポンの街でクーヘンと出会いました。それで、彼に独立した時の戦力強化を兼ねて強い従魔がいるだろうって話になって、何故か行ったのが地下洞窟だったんです」
それを聞いてまた吹き出す三人。
「クーヘンの騎獣のイグアノドン。あれを捕まえた時もそりゃあ大変だったんですよ」
あの時の俺とクーヘンの慌てっぷりを思い出して遠い目になる。
「お前とクーヘン、二人がかりで背中に飛び乗ってせっかく頭を確保したのに、お前は豪快に振り落とされていたものなあ」
「あはは、あの時はまじで死んだと思ったよな。吹っ飛ばされた俺を即座にニニが背中で受け止めてくれて、そのままずり落ちて待ち構えていたマックスの背中にダイブ。そこからも落っこちたらアクアとサクラが確保してくれたんだったな。しかも、もう一回落ちたらラパンのもふもふの背中だったんだよ。隣で巨大化して待ち構えてくれていたのを見て、ちょっと悔しかったんだっけ」
笑った俺に、リナさんも笑う。
「確かにラパンの毛は最高でしたね」
「ですよね! でも最高はニニの腹の毛だと俺は思ってるんですよ。そりゃあもう毎晩一緒に寝ていますけど、寝心地は最高ですからね」
「ああ、羨ましい!」
俺の言葉にリナさんが悔しがるようにそう叫び、顔を見合わせて一緒に笑い合った。
うん、もふもふはやっぱり正義だよな。