予行演習?
「じゃあ行くぞ!」
何やら悲壮なまでの真剣さで踏み台に上がる冒険者達。
一番最後に、小柄な草原エルフのアーケル君が並んでいる。
そして次々に飛び込んでいくその姿を緊張しながら見ている他の冒険者達。
ポヨ〜ン!
間抜けな音がして、大柄な冒険者達の体が真上に跳ね上がる。
一瞬上がった悲鳴は、すぐに歓声に変わった。
小柄なアーケル君は、何故だか一番高く跳ね上がっていて、跳ね上がる度に声を上げて笑いながら大喜びしてるよ。
「おい、これ最高だぞ!」
「本当だ。さっきと全然違うけど、これいったいどうなってるんだ?」
スライムトランポリンの上で何度も上下しながら、大喜びしつつも不思議そうにしている彼らを見て一斉に大歓声が上がる。
「なあ、俺たちも乗って良いだろう!」
「お願いします!」
今使っているのは一つだけで、当然他のスライムトランポリンの周りでも、キラッキラに目を輝かせた冒険者達が俺を見つめていた。
「ええと、良い……いや、ちょっと待ってくれよな」
ハスフェルが、何故だか俺の肩を叩いて何か言いたげにしている。
冒険者達に軽く手を上げて話を中断してハスフェルを見る。
「何? 何か問題があるか?」
「なあ、思うんだけど時間制限も設けるべきじゃないか。あいつら放っておくといつまででも遊んでるぞ」
そう言って、まだ飛び跳ねている最初のスライムトランポリンを指差す。
「そうだな。ええと、じゃあ一旦撤収して、砂時計一回分とかで時間を計ってやってみるか」
「良いんじゃないか。じゃあこれを渡しておくよ」
笑ったハスフェルが、彼が持っていた砂時計を渡してくれる。
そうだよな。今はスライム達全員トランポリンになってるから、ちょっと道具を出してって頼むの大変だよな。
砂時計を受け取った俺は、もう一度踏み台に駆け上がって大きく手を叩いた。
「はい注目〜〜! トランポリンも一回止めて全員降りてください〜!」
俺の大声に、トランポリンチームからブーイングが聞こえる。
苦笑いして更に口を開こうとした時、不意に跳ね上がっていた冒険者達の姿が見えなくなった。
「あれ、どうなってんだ?」
「ええ、急に跳ねなくなったぞ」
「おい、ケンさん! 何故だか知らないけど、足元が急に硬くなったぞ?」
口々にそう言ってスライムトランポリンから身を乗り出す彼らを見て、俺はわざとらしく大きなため息を吐いて見せた。
「忘れてるみたいだけど、スライム達には俺の声がちゃんと聞こえてるんだよ。俺がやめろって言ったから、当然スライム達は跳ねるの止めた訳。お分かりいただけたら、一旦撤収!」
俺の説明に、苦笑いして一斉に頷いた彼らは、順番にスライムトランポリンから降りて来てくれた。
なんとなく集まったまま俺に注目する彼らを見て、俺は口を開いた。
「はいご協力感謝です。って事で、問題点とその解決方法も分かったので、今から皆に順番に予行演習を兼ねて遊んでもらいま〜す」
その言葉に、一斉に湧き上がる歓声と呼ぶには少々図太すぎる野郎の大声と拍手。
「その前に質問なんだけど、武装解除した時のそれぞれの武器って、当日はどうするのが良いと思う? カゴとかを用意して並べておくとかで良いか?」
武器の扱いについてはちょっと悩みどころだ。
人によっては高価な武器を装備している可能性もある。ヘラクレスオオカブトの剣なんて、盗まれたら責任問題だろう。
「ああ、それならお祭り当日は冒険者ギルドが協力してあげるよ。ギルドで使っている武器保管用の収納箱を職員と一緒に派遣してあげるから、武器の預かり及び受け取りはギルドカードの提示を義務付ければいいよ。ギルドカードに紐付けして預かる仕組みだから、預けた時のギルドカードと一致しないと受け取れない仕組みだよ」
笑ったエルさんが手を挙げて素敵な提案をしてくれた。
「へえ、そんな便利な収納箱があるんですか?」
初めて聞く話に驚く俺。
「ごく稀にダンジョンから出る超レアなお宝だよ。何しろこれは『神からの贈り物』だからね」
思わず、俺の右肩の定位置に座っているシャムエル様を見ると、嬉しそうに頷いてくれたので、納得した。
「じゃあ、ぜひ当日はお手伝いをお願いします。来てくださるスタッフさんの日当くらいは払いますけど、その収納箱の借り賃はどうすれば良いですか?」
本気で尋ねたんだが、エルさんは呆れたような顔をして俺を見た後、思いっきり俺の腕を叩いた。
「何水臭い事言ってるんだよ。祭りにはギルドも協賛してるんだから、屋台の出し物の手伝い程は仕事のうちだよ。って言うか、これで手伝う項目が一つ出来たからこっちも有難いんだよ」
驚いて詳しく尋ねると、どうやら協賛金だけじゃなく他にも色々と手伝う事があるらしい。だけど、収穫祭は農協が主催なので、冒険者ギルドは警備程度であまり他の仕事が無く、肩身の狭い思いをしているらしい。
だからと言ってタダで借りるのは心苦しい。困っているとエルさんがにんまりと笑って手を打った。
「じゃあ、こうしよう。終わってからで良いから、スタッフ達にもちょっとだけで良いからスライムトランポリンで遊ばせてやってもらえないかな?」
「当然そこには、エルさんも含まれるんですよね」
笑いながらそう言うと、当然だとばかりに満面の笑みで頷かれてしまい、俺はもう我慢出来なくなって思いっきり吹き出した。
ううん。今日一日で、エルさんを見る目がちょっと変わった気がする。
「良いですよ。じゃあ商談成立ですね」
にっこり笑ってエルさんと握手を交わすと、見ていた冒険者達から拍手が起こる。
「ギルドマスター、感謝するよ。それなら安心して大事な武器を預けられるよ」
いかにもベテランぽい、立派な装備の冒険者達がそう言って笑っている。
「でも今回はお試しだからそんな物は無いので、管理は自己責任でお願いしま〜す!」
大声でそう言うと、何故か大爆笑になったよ。
その後は、相談の結果、ハスフェルとギイとオンハルトの爺さんにも手伝ってもらい、それぞれのスライム達のトランポリンの受付を担当してもらうことにした。
ちなみに俺のは小さなスライムトランポリンなので、半分の五人を一度に入れる事にして順番に並んでもらい、一回10分程度で皆にスライムトランポリンを試してもらった。
そりゃあもう、全員大はしゃぎで体の大きな少年状態。しかも、時間が終わると、装備を手に持ったまままたすぐに別の列に並んでるし。
大喜びする男達の歓声とひっきりなしに聞こえる笑い声。今回は顔ぶれがこれだから何だけど、当日は一般の人たちや子供達だって来てくれるだろうから、そりゃあ賑やかになるだろう。
苦笑いしつつもその光景を思って笑顔になる。
三回目に並ぶアーケル君を見つけて笑っていると、シャムエル様にいきなり頬を叩かれた。
「ん? どうかしたか?」
振り返ってそう言うと、無言で俺の背後を指している。
何事かと振り返った俺が見たのは、いつの間に来たのか、運動場の端にアルデアさんと並んで立っているリナさんの姿だった。
その彼女が目を真っ赤にして泣いているのを見て、俺は絶句したまま彼女を見つめる事しか出来なかった。
ええ、一体何がどうしてどうなったから、彼女が号泣しているわけ?
話し合いは?
アルデアさんってば、一体何を言ったんだよ〜〜!