大惨事発生?
「良いですよ。それじゃあ順番に乗ってもらいましょうか」
笑った俺の言葉に、あちこちから拍手が起こる。
その時、スライムトランポリンを見て大喜びしていた冒険者の一人が、何か思いついたらしく手をあげて俺を振り返った。
「なあ、これってそもそもどうやって乗れば良いんだ? 俺はジャンプ力があるから、これくらいの高さなら余裕で一気に登ったり降りたり出来るけど、収穫祭の出し物ならほとんどは一般人だろう? ましてや女性や子供には、これはちょっと無理な高さじゃねえか?」
大柄なその冒険者は、持っていた槍の石突きでスライムトランポリンをそっと突っつきながら問題点を指摘してくれた。
「確かにそうだな。これ、まずは踏み台がいるなあ」
「ああ、それならアルバンに言えば貸してくれると思うぞ。催事用の道具の貸し出しなんかも商人ギルドでやってるからな」
ハスフェルの言葉に頷き、今どうするかを考える。
「じゃあ、今はこれで良いだろうさ」
そう言って何人かの冒険者が持って来てくれたのは、木製の箱型の三段になった大きな踏み台で、運動場の奥にあった建物から持ってきてくれた物だ。
なんでもこの運動場での講習会での剣術などの実技の説明の際に、よく見えるように後列の受講者達が踏み台として使っているものらしい。それなら耐久性にも問題無かろう。
って事で、あっという間にそれぞれに踏み台が設置された。
「では、ギルドマスターである私がまずは乗らせていただきます!」
誰から乗せるか考えていたら、俺のスライム達が作った小さめトランポリンに、エルさんがそう言って踏み台を駆け上がったのだ。
「良いよね?」
ギルドマスターに満面の笑みでそう言われて、断れる奴を俺は知らない。
「どうぞ」
笑った俺が頷くと、歓声を上げたエルさんは、文字通りスライムトランポリンに飛び込んで行った。
ポヨ〜〜〜ン。
なんとも間抜けな音がして小柄なエルさんの体が数メートルは余裕で跳ね上がる。
「ヒャッホウ〜〜〜〜! これ、最高だね!」
上下しながらめちゃ嬉しそうなエルさんの声と同時に、他の三箇所のスライムトランポリンにも何人もが歓声を上げて駆け上がって行った。
「ああ、おい、気をつけろよ!」
止める間も無く歓声を上げた冒険者達が、一斉にスライムトランポリンに飛び込む。
しかし、次の瞬間事件は起こった!
ガツン、とか、ボカッとか、ドゴッとか、そんな感じの鈍い音があちこちから聞こえ、それとほぼ同時に野郎どもの悲鳴と呻き声が聞こえる。
大喜びで何度も飛び跳ねているのは、俺の横のミニトランポリンに一人で乗ってるエルさんだけで、他の三箇所のスライムトランポリンからは野郎共の情けない呻き声が聞こえるだけで、誰も飛び跳ねていない。
俺は離れてて見えなかったけど、ハスフェルとギイがすぐ側のスライムトランポリンを覗き込むと同時に揃って吹き出すのが見えて、俺は慌てて駆け寄り踏み台を駆け上がってスライムトランポリンを覗き込んだ。
一つのトランポリンにだいたい十五人ほどの人数が入ったらしい。
その全員が、額や鼻などを押さえて呻きながら転がっていた。
状況が分かって、俺は咄嗟に吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
一つ深呼吸をしてから口を開く。
「いや、ちょっと考えたらそんな大人数が一気に飛び跳ねたらどうなるか分かるだろうが。ってか、そもそも武器を持ったまま入るんじゃねえよ。危ないだろうが!」
転がってる冒険者の、半分抜けかけた腰の剣を見て冷や汗をかいた俺は、そう叫んでとにかく全員スライムトランポリンから降りてもらった。
まずは怪我人の手当てが先だよな。
心配したほどの大怪我をした奴はいなくて、ハスフェルとあと何人か癒しの術を使える人がいたので負傷者の手当ては任せておき、俺は腕を組んで考える。
「武装解除は絶対に必要だよな。なので武器を預かる場所がいるな。それから一度に乗れる人数制限も必要だな。あんな事故が一般人で起こったら、下手したら死人が出るぞ」
今回は、皆それなりに鍛えた奴らばかりだったし、防具を身に付けている奴も多かったから、ある意味笑い話で済んだんだけど、一般人でこの状態になると、恐らく冗談では済まないだろう。
「なあ、跳ね上がる時の向きとかって、複数人数が同時に飛び跳ねたら制御するのは不可能だよな?」
少し考えて側にいるスライムトランポリンに話しかける。
「別に出来るよ。今のは特に何もせずに、自然の反動をそのまま返しただけだからね」
アクアの答えに、目を瞬く。
「じゃあ、複数人数が同時に飛び跳ねても、ぶつかったりしないように制御出来る?」
「大丈夫だよ。要するに反動を返す向きを真上のみにすれば良いって事だよね?」
手を打った俺は、思わず目の前のスライムトランポリンを撫でた。
「よし、それで良いと思うからさ。じゃあ一度やってみてくれるか?」
「良いよ〜!」
元気な返事を聞いてもう一度撫でてやった俺は、深呼吸をしてから振り返った。
一度だけ大きく手を打つ。
あちこちに好きに座り込んで話をしていた冒険者達が、その音に驚いて一斉に俺を見る。
「はい注目〜〜!」
側にあった踏み台に登った俺は、全員の注目を集めているのを確認してから口を開いた。
「スライムトランポリンを使うに当たっての問題点が分かったので、参加する人は今から言うことをよく聞いてください!」
一斉に頷く冒険者達。ハスフェル達は、苦笑いしながら俺を見ている。
「まず、危険なのでスライムトランポリンに乗る際は、武装解除を絶対条件にします。それから一回に乗る人数の上限を十人にします」
それを聞いた、先程のフライングで鼻先をぶつけて真っ赤にした冒険者が手を挙げる。
「今、十五人程度でこの大惨事だったんだぞ。五人減らした程度でどうにかなるのか?」
「あなた達の尊い犠牲のおかげで、問題点をスライム達が把握してくれましたので、もう心配ありません」
わざとらしく大真面目に言ってやると、あちこちから吹き出す音が聞こえた。
「はあ、何だよそれ。じゃあもう大丈夫だってのか?」
自信満々で頷く俺を見て、絶句するその冒険者。
「よ……よし、じゃあ再チャレンジしてやろうじゃねえの。もしまた大惨事が起こったら、次はケンさんにも参加してもらうからな」
その、半ば自棄の叫び声に、聞いていた周りの冒険者達が大爆笑になる。
「俺もリベンジするぞ〜!」
「じゃあ俺もやりま〜す!」
そんな感じで、今回は自主的に参加表明をしてくれた冒険者達が集まり、無事に十人が揃う。その中に額がちょっと赤いアーケル君を見つけて思わず笑ったね。
相談の結果、仲間がいる人は武器を仲間に預け、ソロの人には、急遽用意したマットに自分で武器を置いてもらう事にした。
防具は大丈夫だろうから今回はそのままだ。まあ、尖った装飾がついた防具なんかがあれば、絶対に脱いでもらうべきだろうけどね。
「じゃあ、行くぞ!」
何故か、準備が出来た十人が集まりスライムトランポリンの横で円陣を組む。そしてもの凄く真剣な声で一人がそう言うと、それ以外の九人がこれまた真剣な顔で揃って頷いた。
そして何やら悲壮なまでの真剣な顔で、踏み台を上がって行ったのだった。
一体、君らは今からどこへ行くつもりだ?
その先にあるのは、楽しいスライムトランポリンだよ?