冒険者ギルドにて
「ああ、間に合った〜!」
冒険者ギルドに駆け込んだ俺は思わずそう叫んだ。
先ほど商人ギルドでアルバンさんから、八日後に行われる収穫祭で、スライムトランポリンの出し物をしてほしいとのお願いをされて引き受けた俺達は、四日後にここを出発予定としていたリナさん一家への伝言を訂正するために、大急ぎで冒険者ギルドまで戻って来たところだったのだ。
今まさに、到着した冒険者ギルドのカウンターで伝言を頼んだ職員さんと話をしているリナさん一家を見つけてそう叫ぶと、驚いたように揃って振り返られてしまった。
「ああケンさん。皆さんもお揃いで、そんなに急いでどうなさったんですか?」
一見美少年のアルデアさんが、叫んだ俺を見て笑っている。
「いや、ちょっとまた予定が変更になったもので、伝言の訂正に来たところだったんですよ。もう受け取っちゃいましたか?」
「あれ、そうなんですか。丁度今まさに渡すところだったんですが、それならこの伝言は一旦破棄してよろしいですか?」
受付のスタッフさんにそう言われて頷く。
「ああ、お手を取らせて申し訳ありません」
差し出された伝言の紙を受け取る。
「それじゃあ、こっちで話そう」
ギイの言葉に、そのままリナさん一家も一緒に、全員揃って一旦カウンターの横へ移動した。
そこはそのまま冒険者達が自由に座って良い場所らしく、大きな机や椅子が幾つも並べられている。
好きに話をしたり、奥の店で買った物を整理したり山分けしたり出来るようになっているみたいで、荷物を散らかしている人が何人もいたよ。
俺達は端の空いていた一番大きな机を確保して座り、従魔達には適当に足元で寛いでてもらう。マックスとニニは俺の後ろで並んで座っている。シャムエル様は机の上に座って尻尾のお手入れを始めた。
「それで、出発の予定は決まったんですか?」
カウンターの奥の売店で、それぞれ好きに飲み物を買ってきて座ったところでアルデアさんが口を開いた。
「ええ、四日後に出発予定で伝言を残したら、商人ギルドのギルドマスターに頼まれましてね。八日後に開催される収穫祭で、スライムトランポリンで参加して欲しいと頼まれましてね。せっかくなので、参加する事にしたんですよ」
苦笑いしながら俺が、さっきの破棄した伝言の紙を見せながら説明する。
「ああ、それなら丁度良かったです」
それを聞いて、なぜか安堵したようにため息を吐いてアルデアさんが頷いている。
「実は今日から、バッカスさん達が、アーケルが注文していたヘラクレスオオカブトの剣の錬成に入っているそうなのです。錬成にあと二日、その後の仕上げと鞘作りに三日。合計五日は最低でもかかると聞いて、それをケンさんに伝言しようと思ってここへ来たところだったんです」
おう、なんてナイスタイミング。
「それなら丁度いいじゃあないですか。収穫祭が終わるまで時間が出来ましたから、余裕で出来上がった剣を引き取れますね」
俺の言葉に、息子のアーケル君が嬉しそうに頷く。
「そうですね。丁度良かったです。ヘラクレスオオカブトの剣は、絶対に欲しかったのですごく楽しみなんです。それよりケンさん! 今、収穫祭にスライムトランポリンで参加するって仰いましたか?」
目を輝かせて身を乗り出すようにして聞かれて、驚きつつ頷く。
「ええ、ハスフェル達のスライム達も総動員するので、四つありますよ」
俺の言葉に机の上に次々と飛び跳ねてきて並んだスライム達が、得意気に勢揃いする。
当然だけど今は全員バラバラなので、四人分のスライム達が全員揃うとすごい数になる。肉球の紋章がずらっと並ぶと、なかなかに壮観な眺めだよ。
「やった! 絶対並ぶぞ!」
何故か拳を握ったアーケル君がそう呟き、隣では同じくアルデアさんも手を叩いて大喜びしている。
「もしかして、スライムトランポリン、やってみたかったですか?」
苦笑いしながら聞いてみると、揃ってものすごい勢いで頷く美少年親子二人。
そしていつの間にか周りに集まってきていて、俺も俺もと必死になって手を挙げてアピールする冒険者達。
「何、皆そんなスライムトランポリンをやりたかったのか?」
呆れたようにそう尋ねると、あちこちから、俺もやりたいとの声が上がって大笑いになった。
「なあ、どう思う? スライムトランポリンが一般の人でも安全かどうか、一応検証しておくべきじゃないか?」
俺は、スライム達を信頼しているから、絶対落っことしたりしないってわかってるけど、小さい子供や体の軽い人なら、勢いよく跳ね飛んで落っこちる危険だってゼロじゃあないだろう。
異世界の安全基準が分からないけど、多分、もし怪我しても自己責任レベルだろう。
「ああ、それならここの裏庭を借りて、ちょっと検証してみるか? 俺達のスライム達も、やり方は聞いているだろうけど、ちょっとは実地で人を乗せる練習したほうが良さそうだしな」
苦笑いしたギイの言葉に、ハスフェル達も笑って頷いている。
「エル、ちょっと裏庭を借りても良いか。実はな……」
ハスフェルが、カウンターの奥にいたエルさんを呼んで話を始めた。
目を輝かせてその様子を見ている冒険者達。何これ、面白いぞ。
どうやら話が終わったらしく、いきなりエルさんが笑い出した。
「あはは、そりゃあ最高だな。構わないから運動場を使ってくれたまえ。何なら私も後でその検証会に参加させてもらうよ」
エルさんの言葉に、冒険者達が揃って大喜びしている。
「じゃあ、明るいうちに一度やってみるか」
立ち上がった俺は、隣に座っていたリナさんが、泣きそうな顔になっているのに気が付き、慌てて声を掛けた。
「あの、リナさん……」
しかし、俯いてしまった彼女は俺の呼びかけに反応しない。
「ケンさん、私はここで彼女と少し話をしますので、アーケルと一緒に先に行ってください。話が終わったら私達も行きますのでどうぞお構いなく」
しかし、彼女の手を取った静かなアルデアさんの言葉に俺達は黙って頷き、何か言いたげにしていたアーケル君の背中を叩いて、彼を連れてその場を離れた。
うん。正直心配ではあるけど、ここは旦那である彼に任せるべきだよな。
そして期待に満ち満ちた目で待ち構えていた冒険者達と一緒に、ギルドの裏にあるというその運動場へ向かったのだった。
さて、スライムトランポリン一つに、何人ぐらいまで同時に乗せられるんだろうね?




