またしても予定変更!!
「それじゃあ、別荘に帰ったらカレーを作るとして、まずはバッカスさんの店へ行こう。言ってた予備の剣を見繕わないとな」
「そうだな。じゃあギルドの受付に伝言を残したらバッカスの店へ行くとしようか」
オンハルトの爺さんの言葉に頷き、受付でリナさん一家に、四日後に出発予定で伝言を頼んだ。
草原エルフの一家って言ったら簡単に通じたよ。
「それじゃあよろしくお願いします」
伝言をお願いした受付の人に手を振り、全員揃ってギルドの建物から出る。
そのまま歩いてバッカスさんの店へ向かった。従魔達を全員連れているから、相変わらずの大注目だけど、気にしない気にしない。
しかし、バッカスさんの店への道を歩きながら、俺は何か忘れてる気がして首を傾げる。
「ううん、何か忘れてる気がするんだけど、何だろう?」
マックスの横を歩きながら考えていて不意に閃いた。
「ああ、そうだ! 忘れてた〜〜!」
歩いてていきなり叫んだので、驚いたマックスがその場でぴょんって感じに飛び上がった。おお、今のはちょっと可愛かったぞ。
「いきなり大きな声を出してどうしたんですか?ご主人」
呆れたようにマックスにそう言われて立ち止まった俺は、同じく立ち止まって何事かと俺を見ているハスフェル達を振り返った。
「いやあ、すっかり忘れていたけど、商人ギルドのアルバンさんから、スライムトランポリンをまたやってほしいって言われてたんだよなあ。忘れた振りして黙って出て行ったら……怒られるかな?」
「ああ、そりゃあお前。きっと拗ねると思うぞ」
苦笑いするハスフェルにそう言われてしまい、俺もそう思っていたので諦めのため息を吐く。マントを買いに行った時に確認するつもりだったのに、すっかり忘れてたよ。
「だよなあ。じゃあ仕方がないから先に顔を出すか」
今俺達がいるのは、円形交差点の一つで、商人ギルドへもここからならすぐに行ける。
深呼吸をした俺は、マックスの手綱をしっかりと持ち直してそのまま商人ギルドへ向かった。
相変わらず、予定通りに物事が進まないんですけど!
「二度目の商人ギルドだな」
苦笑いしつつ、俺を見るなり何も言ってないのにアルバンさんを呼びに行ってくれた受付の人の後ろ姿を見送る。
アルバンさんは本当にすぐに出て来てくれた。
「おお、ケン。今度は何だ?」
満面の笑みで握手を求められて、条件反射で握り返す。
「いやあ、ランドルさんから伝言を聞いてたのに、すっかり確認するのを忘れてましたので。あの、表彰式の時にやったスライムトランポリンがどうのって話なんですがね」
恐る恐るそう言うと、それを聞いたアルバンさんはその場で吹き出して手を打った。
「ああ、それか。俺もすっかり忘れてたよ」
豪快に笑うアルバンさんを見て、少なくとも緊急の依頼じゃあなかった事だけは分かって安心した。
「ええと、八日後に収穫祭があるんだよ。朝から農協主催で関係者が参加して祭事が神殿で行われて、その後は皆で飲んで騒ぐだけだよ。外環の一部を通行止めにして早駆け祭りの時みたいな屋台が出たりする程度なんだけどな。その際に、出来ればスライムトランポリンで参加してもらえないかと思っているんだが、どうだ? もう少し早く話すつもりだったんだがな。何やら色々あってすっかり忘れていたよ。悪い悪い」
謝ってる割には全く悪いと思ってなさそうなアルバンさんの謝罪に、俺達も揃って苦笑いするしかない。
「ああ、つまり出し物としてスライムトランポリンをやって欲しいって事ですか?」
「どうだ? もしもやってくれるなら、今回はこちらから依頼しての出店になるから、微々たる金額だが一応依頼料は払うぞ」
「俺達、四日後にはバイゼンヘ出発する予定だったんですけどねえ」
俺の言葉にアルバンさんが情けない悲鳴をあげて俺の腕に縋る。
「頼む! そこを何とか!」
俺は無言でハスフェル達を振り返った。
三人とも笑いを堪えて若干変な顔になってる。
いきなりの依頼だけど、別に不可能じゃない。ってか簡単に出来る。
だけど、ようやくのバイゼン行きがまた伸びるのかと思うとちょっと悲しい。
いっそ断ろうかと思った時、ふと思った。
これって考えようによっては、リナさんに、スライム達が街の人達と仲良く遊ぶ様子を見せられる良い機会なんかじゃあないかとも思えた。
「なあ、どう思う?」
アルバンさんを腕にぶら下げたまま、ハスフェル達に尋ねる。
「俺は悪い話じゃないと思うがな。スライムトランポリンなら、俺達のスライムも出来るから、場所さえ確保してもらえれば良い出し物になると思うぞ。それに、スライムが仲良く街の人達と遊ぶ姿を見せるのは、彼女にも良い刺激になるんじゃないか?」
どうやら同じ事を考えていたらしいハスフェルの言葉にギイとオンハルトの爺さんも揃って同意するように大きく頷いてくれた。
「分かりました。じゃあ予定変更して出店しますよ。ちなみにスライムトランポリンは四個まで用意出来ますから、安全面を考えたらある程度の場所が必要になりますけど、大丈夫ですか?」
「やってくれるか!」
目を輝かせたアルバンさんに抱きつかれて思い切り仰反る俺。イナバウアー再び……。
出店に関する手続きは、申込書一枚にサインするだけで済み、もらう予定の依頼料は、そのまま神殿に寄付する事にした。
偽善かもしれないけど、予定外の収入だし別に良いよな。
「ああ、それじゃあギルドの伝言を変更しておかないと。入れ違いになったら申し訳ない!」
って事で、手続きが済んだところで大急ぎで冒険者ギルドへ向かう俺達だった。
おかしいなあ、やっぱりバイゼンが遠いんだけど……。