神様の祝福と青銀草
「何? どうかしたか?」
何か言いたげな三人に気付いた俺は、振り返って不思議に思い尋ねる。
「いやあ。こうなるとウェルミスの祝福様々だなと思ってさ」
「全くだ。あまり気にしていなかったが、まさかこう来るとはな」
「本当に、あの時よくぞ祝福を授けてくれたものだ。今度ウェルミスに会ったら礼を言っておかないとな」
揃ってうんうんと頷きながらそんな事を言っている三人を見て、俺は首を傾げる。
「祝福……? 何の事だ?」
腕を組んで考える事しばし……。
「ああ、あれか。初めて飛び地でウェルミスさんに会った時、俺に祝福って言って何かしたやつか」
納得してそう言ったら三人から、何言ってんだこいつ。みたいな目で見られたよ。あれ?
「お前なあ……」
呆れたようにハスフェルに言われて、誤魔化すように笑って頬を掻く。
「ええと……」
誤魔化す俺を見て、ものすごいため息を吐くハスフェルとギイ。
おお、すげえ肺活量だな。おい。
「まあ、異世界人だからな。神の眷属からの祝福の有り難みが、全く解っていなかったって事だろうさ」
「だな、そういう事にしておこう」
何やら諦めたような会話の後、ハスフェルとギイが揃って振り返る。
ちなみにオンハルトの爺さんは、さっきからずっと彼の騎獣のエラフィに縋るようにして文字通り大笑いしている。
「ウェルミスが何の神の眷属だったか覚えてるよな?」
「ええと、大地の神様のレオの眷属だって言ってたよな」
「その通り。中でもウェルミスは土を作るのが主な仕事だ」
まあ、元がミミズだもんな。土壌生物の代表クラスの。
「そしてウェルミスのもう一つの大切な仕事が、その作った土に様々な植物を繁殖させる事だ」
「そりゃあそうだろう。大地の神様なんだからさ」
俺の言葉に、ハスフェルとギイがにんまりと笑う。
「そこでさっきの、お前が授かったあの祝福が意味を持つんだよ」
その言葉の意味を考えて、目を見開く。
「つまり、ここは正式にケンが所有する土地になった。なので、ウェルミスの祝福が意味を持ち、その土地に本人が望む植物が繁殖したわけだ。生えたのがオレンジヒカリゴケじゃなかったのは、恐らくだが日照時間の問題だろうさ」
ギイの言葉に、思わず拍手する。
「ウェルミスさんの祝福すげえ」
無邪気に感心する俺に、二人が呆れたように笑う。
『成る程。そういう事だったんですね。実は断崖の隙間の窪地に、普通ならありえないくらいの青銀草の大きなコロニーを何箇所も発見したんですよ。これはかなりの収穫が見込めそうですよ』
突然のベリーからの念話に一瞬飛び上がったが、その言葉の意味を知って全員が揃って拍手をする。
『ベリー。無理を言ってすまないが、とにかくありったけ収穫してくれるか。この、手持ちの万能薬が足りない状況は正直言って不安しかないんでな』
『ええ、任せてください。カリディアも張り切って、危険な狭い高所を中心に集めてくれていますからね』
『任せてください! 漆黒の森の細い枝先に比べれば、こんな岩場は私にとっては平地と変わりませんよ』
得意気なカリディアの念話が届き、思わずまた拍手する俺。
『頼もしいな。よろしく頼むよ。だけど本当に無理はしないでくれよな』
『心配性のご主人。ええ、大丈夫だから安心してくださいね』
笑ったカリディアの声が届いて、ベリー達の気配が途切れる。
「では、青銀草の収穫はベリー達に任せて、俺達は街へ行って用事を済ませて来ようぜ」
ギイの言葉に揃って頷く。
一番の心配事が何とか解決しそうになり安心した俺達は、のんびりと坂道を下って街へ向かった。
「思ったんだけど、街の薬屋やギルドで万能薬を買うのは駄目なのか?」
彼らだって冒険者な訳だから、別にギルドで買ってもいいんじゃないかとふと思ったんだよな。
すると、ハスフェルとギイが苦笑いして揃って首を振った。
「普通の冒険者なら、万能薬は買えてもパーティーで一本。余裕が出て、装備に金をかけなくてもよくなったベテランの冒険者なら一人一本。資金に相当の余裕のある上位冒険者なら複数買う事もあるが、それでもせいぜい一人当たり数本程度だ。当然、薬屋でもギルドでも、そんなに沢山の在庫は持っていない。俺達が必要数を薬屋やギルドで買おうとしたら、はっきり言って売っている分を全部買い占める事になるぞ」
「ああ、そうか。高級品だもんな」
「だから本当の緊急時以外、俺達はギルドや薬屋では万能薬は買わない事にしているんだ」
「あれ、じゃあ今までって、オレンジヒカリゴケを収穫して自分で作っていたのか?」
「そうだよ。調合と精製の能力は俺達も持ってるからな。だけど正直言って、あれを作るのはかなり面倒なんだよな」
そう言って顔を見合わせて苦笑いしている。
「そっか、それでスライム達に丸投げしたわけだな」
「まあそうなるな」
笑った二人に、それぞれのスライム達が張り切って飛び跳ねている。
「任せてね〜! いっぱい作っておきま〜す」
「お任せくださ〜い!」
「おう、よろしくな」
ハスフェルが手を伸ばして、シリウスの頭の上で飛び跳ねていたスライム達を撫でている。
ギイとオンハルトの爺さんも同じようにスライム達を撫でているのを見て、俺もアクアとサクラを手を伸ばして撫でてやった。
のんびり進みギルドに到着したので、とにかくカウンターに栗の在庫の確認に行く。
「あの、配達をお願いしていた栗を引き取っていないんですけど、どうなりましたか?」
もしかして受取人不在で返品されてたら申し訳なさ過ぎる。焦って確認すると、受付にいた若い男性職員が笑顔で後ろに合図をした。
「ああ、お預かりしておりますよ。一応、確認しますのでギルドカードの提示をお願いします」
まあ顔パスなんだけど、預かり証明の書類があるみたいだから素直に渡して確認してもらう。
「では、ご案内しますので倉庫へどうぞ」
別の職員さんが来てくれて、そのまま倉庫へ直行する。
しかし、案内された倉庫には、積み上がった木箱も栗が入った籠も無い。
不思議に思って見ていると。職員さんは大きな袋を持って来た。
「ああ、もしかして収納袋ですか?」
「はい、食品の場合は、保管を兼ねて時間経過が遅いこの収納袋に入れて管理します。受付番号によるとこの袋になります。中身の確認をお願いします」
少し考えて、大きめの木箱を取り出してここに入れてもらう事にした。
「ここにお願いします」
一応、足りなかったら困るので全部で五個取り出しておく。
確認の結果、中から取り出されたのは、栗がぎっしりと入った大きめの麻袋が全部で二十個。これはかなりの大量だ。
よしよし、また焼き栗と茹で栗をいつでも食べられるように大量に仕込んでおこう。
嬉々として受け取り書類にサインをして、収納袋を片付けるスタッフさんにお礼を言って、ひとまず揃って受付へ戻ったのだった。