起きてる? 起きてない?
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
ショリショリショリ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うぁい……起きるって……」
いつものモーニングコールに起こされた俺は、いつものごとく無意識に返事をしてそのままニニの腹毛に顔を埋めた。
「たまには早起きすれば?」
「それは、無理っす……」
耳元で聞こえた声に返事をしたのは覚えているけど、その後の記憶は無い。
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクちく……。
ショリショリショリショリ……。
ふんふんふんふんふん!
ふんふんふんふんふん!
ふんふんふんふんふん!
「うん、起きるってば……」
そして気づけば二度目のモーニングコール。
でもやっぱり起きられない俺。
ううん、毎回の事だけど、我ながらちょっと感心するレベルだねえ。
「それにしても、いつもながら起きないねえ」
「本当に。そろそろ起きなかったらどうなるか学習しても良さそうなものですけどね」
シャムエル様とベリーの呆れたような声が聞こえる。
いやあ、本当にそうだよね。俺もその意見には全面的に同意するよ。
「そっか。実は起きててさ。それで従魔達に起こしてもらうのを楽しんでるんじゃない?」
シャムエル様が、いい事思いついたと言わんばかりの得意気な声でそんな事を言ってる。
「ああ、それは有り得ますねえ。確かに、そう言われたら彼がここまで起きない理由にもなりそうですねえ」
おいおいベリーさん。何をそんな思い付きに簡単に同意してるんだよ。賢者の精霊なんだから、ここはズバッと正解を言ってやってくれよ。
目は覚めてるのに、身体が何故か動かないんだって。
「そうなのね。ご主人が楽しみにしてくれてるのなら遠慮はいらないわね」
「本当よね。それなら遠慮しなくてもいいのね!」
「嬉しい! それじゃあ、張り切って起こしましょう!」
ご機嫌な声で恐ろしい事を宣言されて、俺は大いに焦った。
待て待て待て! 今朝の最終モーニングコールは、お空部隊かよ。
あの嘴に本気で噛まれたら、出血どころじゃないぞ。肉がもげるぞ。朝からスプラッタだぞ。流血の大惨事だぞ。
これは絶対にまずいって!
頼むから今すぐ起きてくれ俺の身体〜〜〜〜〜!
内心冷や汗だらだらで大いに焦っていると、軽い羽ばたきの音と共に前髪の生え際と左の耳たぶ、それから上唇をちょびっと摘んで思いっきりつねられた。
「痛い痛い痛い! 痛いってば〜〜〜〜! 起きる起きる起きる〜〜〜!」
情けない悲鳴を上げて、腹筋だけでとにかく飛び起きる俺。
軽く羽ばたく音がして、一斉にお空部隊が飛んでいなくなる。
「い、い、痛い。マジで痛い。今のはマジで痛かったって」
一番痛かった上唇を押さえながらうわ言のようにそう呟き、出血がないかとにかく噛まれた箇所を確認する。
「あれ、大丈夫……?」
腫れている様子も、穴が開いたり肉がもげたりしている様子もない。もちろん出血も無い。
パタパタと自分の顔を叩くようにして確認した俺は、ようやく安堵のため息を吐いた。
「うああ、今朝のはマジで痛かったよ。本気で肉がもげたと思った。なあ、まさかとは思うけどアザになったりしてないよな?」
いつの間にか膝の上に移動していたシャムエル様に慌ててそう尋ねる。
「おはよう。やっと起きたね。うん、どこにもアザなんてないよ」
笑いながらそう言われて、俺も何とか笑って応えた。
「おう、おはよう。相変わらずスリル満点なモーニングコールだったよ」
「君が起きれば済む事なんだけどねえ」
「お説ごもっともです!」
笑ってそう言うと、もふもふ尻尾に手を伸ばした。
「だけどあれは酷いぞ。言いがかりも甚だしい。俺は従魔達とのスキンシップは大いに歓迎するけど、誓って痛い思いはしたい訳じゃないぞ」
「あれあれ、聞こえてたの?」
尻尾を取り返した不思議そうなシャムエル様の言葉に、そういえば朝のいつもの俺の状態を一度も話していない事に気がついた。
「そうなんだよ。聞いてくれるか。一回目のモーニングコールではつい寝ちゃうんだけどさあ。二回目は実は起きてるんだよ」
「ええ、全然起きてないじゃん。嘘言わないでよね」
「うう、本当の事なのに、神様に信じてもらえないって、すっごくすっごく傷付くよう」
そう言いながら、顔を覆って泣く真似をする。
「そんな事言ったって、あれはどう見ても寝てるよねえ?」
「確かに。あれで起きていると言われても、ちょっと説得力が無さ過ぎですよね」
苦笑いしながらそんな事を言ってるベリーを俺はベッドに座ったまま振り返った。
「じゃあ言うけどさあ。さっき二度目のモーニングコールの前に、シャムエル様とベリーが、俺が起きない、そろそろ起きなかったらどうなるか学習しても良さそうなのにって言ってたよな」
驚いた顔でベリーだけじゃなく、一瞬でベリーの肩に移動したシャムエル様が揃って頷く。
おお、これまたなかなか見事なシンクロ率だね。
「で、その後にシャムエル様が、俺は実は起きてて、従魔達に起こしてもらうのを楽しみにしてるんじゃないかって、言ったよな?」
またしても揃って頷く。
「でもって、そのシャムエル様の言葉を聞いて、ローザとブランとメイプルが揃って、それなら遠慮はいらない、遠慮しなくていい、嬉しいから張り切って起こすって、三羽揃って嬉しそうに宣言したよな」
いつも止まり木にしている大きなスタンドハンガーに戻っていたお空部隊の面々も、俺の言葉に驚いたように羽を広げたり口を開けたりしてから、これまた揃ってうんうんと頷くみたいに頭を上下させる。
「へえ、これは驚き。本当に起きてたんだねえ」
感心したようなシャムエル様の言葉に、今度は俺が何度も頷く。
「な、分かってくれた?」
「でも、それは耳が聞こえているだけで、ケンが起きたとは言わないよねえ。あれはどう見ても寝てるよねえ?」
尋ねるように振り返ると、まだベッドに転がってるニニ以外の全員が、シャムエル様の言葉に揃ってうんうんと頷いている。
「あはは。圧倒的多数決で、それは起きてるとは言わないと決定しました! って事で、諦めて体を起こす努力をしてください!」
笑って断言されてしまい、釈明が認められなかった俺は情けない悲鳴をあげてニニに倒れ込んだのだった。