豪華ベッドでおやすみなさい
「はああ、幸せ〜〜」
あっという間に、山盛りだったスーパースペシャルプレート別荘バージョンを完食したシャムエル様は、空になったお皿を手に俺を見上げた。
ちなみに、俺のお皿はまだ半分以上が残っている。
アイス食ってプリンを半分ほど食って、果物を少しとおからケーキとガトーショコラとマーブルケーキをそれぞれ三分の一くらい食べた時点でもう持て余してる。全部に手をつけたのは、せっかくなので一通りは食べてみたかったからです。
無言で俺の皿を見て俺を見上げ、もう一回俺の皿を見てから俺を見上げたシャムエル様に、俺も無言で皿を押しやった。
「食べかけだけど、良かったらどうぞ。だけど腹具合と相談してからにしてくれよな」
食べ過ぎで具合が悪くなられても困るので、一応そう言っておく。
「大丈夫です! では遠慮なく!」
雄々しく宣言すると、これまた頭から食べかけのプリンに突っ込んでいった。
「無茶するなよ、ああ、カラメルでネトネトじゃんか」
シャムエル様の体の前側部分は、カラメルソースと生クリームとケーキのかけらがあちこちにこびりついてなんだか大変な惨状になっている。
頭なんて、後頭部の下辺りまでべったりなので、どうやったらこんなところが汚れるのかちょっとまじで気になるよ。
「だけど、もふもふ尻尾は無事なんだよなあ」
にんまりと笑った俺は、こっそり手を伸ばしてまたしてももふもふ尻尾を堪能させていただきました。
うん、やっぱり俺のメインはこっちだね。よしよし。
その後はまたなんとなくダラダラと飲んで過ごし、適当なところで切り上げて一応期間限定の俺の部屋に戻って寝る事にしたよ。
昨夜は酔い潰れてそのまま床で寝たから、二日続けてそれはちょっと勘弁して欲しい。
せっかくこんな分不相応な豪邸を買ったのに、床で寝るのがデフォになるのはいくらなんでも悲しすぎるよ。
備え付けの豪華なベッドで寝てみたいっす。
「それでお前らは、もうここの庭遊びは満足したのか?」
マックスを撫でてやりながらそう尋ねると、嬉しそうにワンと鳴いて尻尾が扇風機になる。
「とりあえず一通り見て回りましたね。なかなか高低差があって楽しい場所がいっぱいありましたよ」
「じゃあそろそろマントの仕立て直しが終わるんだよ。それを受け取って後いくつか用事を済ませたら、いよいよバイゼンだぞ」
「良いんじゃないですか。ご主人が行きたがっていた街なんですよね」
マックスの言葉に、俺は笑って大きな頭に抱きついた。
「そうなんだよ。一番最初に決めた目的地なんだけど、もういつまで経っても辿り着けないんじゃないかって本気で思ってたよ。やっと念願が叶いそうで嬉しいよ」
「良かったですね。きっとまた楽しい事がありますよ」
「そうだな。でも、いつだって皆一緒だから、これからもよろしくな」
なんだか照れ臭くなって、俺とマックスの間に無理矢理頭を突っ込んできたニニも一緒に手を広げて抱きしめてやった。
それから他の子達も順番に心ゆくまで撫でたり揉んだりしてやったよ。フランマの尻尾はモフらせてもらえたんだけど、カリディアの尻尾モフり作戦は残念ながら叶いませんでした。ちょっと悔しい。
従魔達とのスキンシップを心ゆくまで堪能してからサクラに綺麗にしてもらって、部屋に備え付けられていた豪華なキングサイズのベッドに飛び乗った。
「おお、これはなかなかの寝心地だぞ」
嬉しくなって何度かゴロゴロと転がってから起き上がると、マックスとニニが呆れたような顔で俺を見ていた。
「もういいかしらご主人?」
前脚だけベッドに乗せて、俺を見ながらニニが笑いながら聞いてくる。
「あはは、ごめんごめん、ちょっと初めての広さだったからテンション上がっちゃったよ」
誤魔化すように笑って、俺の横を軽く叩く。
音もなくひらりと飛び上がったニニが、俺の隣へ来て横になる。
「では、今夜もよろしくお願いしま〜す!」
そう宣言して、ニニの腹毛に潜り込んだ。
足側にマックスが横になって支えてくれ、背中側にはいつも巨大化したうさぎコンビが収まる。
ああ、俺のもふもふパラダイスがここにあるよ。
胸元には、フランマがタッチの差で飛び込んで来たので、遠慮なく抱きしめてやる。
「それじゃあおやすみ。明日は一旦街へ戻るよ」
壁際の明かりのスイッチをベリーが切ってくれ、部屋が一気に真っ暗になる。
「それではおやすみなさい。豪華なベッドで寝たら、きっと貴族みたいな夢を見られますよ」
「あはは、そりゃあすごそうだなあ……。でも……貴族って……面倒くさそうだから……俺は、いいや……」
目を閉じるなり襲ってきた強烈な眠気に、ベリーの優しいからかうような声に寝ぼけ半分で返事をした俺は、そのまま気持ち良く眠りの国へ墜落して行ったのだった。
豪華ベッドにもふもふパラダイス。これに囲まれて横になって、起きていられるやつを俺は知らないね。