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宴会とモーニングコール

「ふむ、地ビールはもう一通り楽しんだな。では次はこれにするか」

 ハスフェルがにんまりと笑ってそう言いながら、よく飲んでいるウイスキーの瓶を取り出すのを見て、嬉しそうに笑って手を叩いたギイとオンハルトの爺さんは、当然のようにウイスキー用のグラスを取り出して揃って差し出す。

 俺はそれを見て少し考えてから、机の上にまだ何本か残っていた地ビールの瓶を自分の前にかき集めた。今日の気分はビールなんだよ。

 それから、もう少しつまみになりそうなものを適当に追加で取り出して並べておいた。



 もう、完全にただの飲み会状態だ。

 俺はのんびりと残っていた地ビールを飲みながら、部屋を好きに転がってる従魔達を見て足元に転がっているスライムのアクアを膝に乗せてやった。

 ううん、この撫で心地はなんとも言えないんだよなあ。

 例えるなら何だろう?

 低反発のクッションとかかなあ?



 少し酔いの回った頭で取り留めなくそんな事を考えていると、ふと思いついた疑問がどうにも気になって堪らず、俺のグラスの横でショットグラスに入れてやったビールをぐびぐびと飲んでいるシャムエル様を振り返った。

「なあ、ちょっと質問なんだけどさあ。スライム達の事なんだけどいいか?」

「何? 改まって?」

 飲み干したグラスを置いて不思議そうに俺を見上げる。

 しかし、その前に俺のグラスに入ったビールを見て、空になったショットグラスを差し出してくる。

「もうちょっとだけ入れてくれる。そうしたら答えるよ」

「なんだよそれ」

 笑いつつも差し出されたショットグラスに、今飲んでいた某えべっさんビールみたいなのを入れてやる。

「いや、ちょっと思ったんだけどさ。収納と洗浄は全員に与えたのに、薬を作る調合と精製は、どうして全員に与えてないんだ?」

 膝に乗せたアクアを指差し、それからあちこちに転がる空になった瓶をせっせと収納して回っているゼータとクロッシェを指差す。

「ああ、それね。収納や洗浄と違って、調合と精製は、ケン達以外の第三者に影響を与える可能性が高い能力でしょう。だから洗浄や収納よりは扱いが難しいんだよね。まあ詳しくは企業秘密なんだけど、管理する意味でも扱える子はあまり無闇には増やしたく無いんだ」

 成る程。さっぱり分からん。

 って事で自分から言い出したけど理解不能なので、いつものごとくまとめて明後日の方角にぶん投げておく。

「ふうん。何だかよく分からないけど、神様も色々と大変なんだって事だけはよく分かったよ」

「何だよそれ。自分から聞いてきたのに〜!」

 笑ったシャムエル様が、俺の腕をぺしぺしと叩く。

「何をするか〜〜!」

 手を伸ばしてシャムエル様を捕まえてやり、またしてもおにぎりの刑に処する。

「きゃあ〜潰される〜〜!」

 楽しそうな悲鳴を聞いて、ハスフェル達が揃って吹き出し大笑いになった。

 もう皆酔っ払ってるのでグダグダだ。

 シャムエル様を机に戻して、次のビールの栓を抜いてもう一度乾杯した辺りから、俺の記憶はかなり曖昧になって途切れている。






 ぺしぺしぺし……。

 ぺしぺしぺし……。

 ふみふみふみ……。

 ふみふみふみ……。

 ふみふみふみ……。

 ふみふみふみ……。

 カリカリカリ……。

 つんつんつん……。

 チクチクチク……。

 こしょこしょこしょ……。

 ふんふんふんふん!

 ふんふんふんふん!

 ふんふんふんふん!

「ううん……起きる……」



 いつものモーニングコールチームに起こされた俺は、半ば無意識に返事をしながらいつものもふもふなニニの腹毛に潜り込んだ。

 胸元にいるのは多分タロンだ。うん、抱き枕にジャストサイズ。

 しかし目は全く開かず、いつもの如く俺は気持ちよく二度寝の海に沈んでいった。




 ぺしぺしぺしぺし……。

 ぺしぺしぺしぺし……。

 ふみふみふみふみ……。

 ふみふみふみふみ……。

 ふみふみふみふみ……。

 ふみふみふみふみ……。

 カリカリカリカリ……。

 つんつんつんつん……。

 チクチクチクチク……。

 こしょこしょこしょこしょ……。

 ふんふんふんふんふん!

 ふんふんふんふんふん!

 ふんふんふんふんふん!

「うん、起きる、よ……」



「それにしても起きないねえ」

「本当に起きませんねえ」

 呆れたようなシャムエル様とベリーの声が聞こえて、俺はなんとか起きあがろうとした。

 だけど、何だか体がだるくて、しかも体が全く動かなくて焦った。

 ……あれ? ってか俺、いつ寝たんだ?

 タロンに抱きついたまま寝ぼけた頭で考えたが、昨夜おやすみを言った記憶が無い。

「じゃあ起こしてみようかなあ」

「良いですよね?」

「もちろん。二日酔いだろうが起こしてやってちょうだい!」

 嬉々としたシャムエル様の声に俺はさらに焦る。

 今の声はソレイユとフォールの猫族コンビじゃんか。まずいって、しかも声の位置が高かったから、絶対巨大化してる。



 これはまずい、起きろ俺!

 内心だらだら冷や汗をかきながら、何とか起きようと必死になったんだけど、残念ながら俺の身体は全く言うことを聞いてくれなかった。



「では起こしま〜す」

「起こしま〜す」

 楽しそうなソレイユとフォールの声に続くもう一人の声。

「それじゃあ今回も、私も一緒に起こしま〜す!」



 ああ、その声は雪豹のヤミーだな。しかもヤミーも巨大化してる。

 無理無理無理!

 今すぐ起きるんだ、俺の体〜!

 しかし、大パニックになった俺を置いて、最終モーニングコールトリオが発動した。



 ザリザリザリ!

 ジョリジョリジョリ!

 べろ〜〜〜〜ん!



「ひょええ〜〜!」

 情けない悲鳴を上げてニニの腹から転がり落ちる。

 受け身も取れずに数回転がった後、更に何か固いものに正面から激突した俺は、そのまま気持ちよく意識を吹っ飛ばした。

「ああ、ご主人ごめんなさい!」

 焦ったように謝るセーブルの声は、残念ながら気絶した俺の耳には届いていなかったのだった。

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