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樹海と魔獣のテイムの仕方

「美味かったよ。ご馳走様」

 残さず綺麗に平らげてくれたお皿を返されて、俺は笑顔になった。

 うん、自分で作ったものを美味いって言ってもらえると嬉しいもんだね。

 その後。片付けてリーワース村で買った緑茶を淹れてみた。

 街で買ったポットに緑茶の葉を入れてお湯を注ぐ。ハスフェルは興味津々で俺のする事を見ていた。

 湯呑みはさすがに無いので、カップにそのまま入れる。ハスフェルも自分のカップを取り出してくれたので、そこにたっぷりの緑茶をいれてやった。

「ほう、これは良い香りだな」

 のんびりと食後のお茶を楽しみながら、ジェムの詳しい種類について教えてもらう事にした。

 俺が持っているジェムの種類を聞かれたので、順番に取り出しながら。そのジェムの特徴を教えてもらった。


 例えばブラウンハードロックは、火力は弱いためコンロには向かない事。だけど逆に言えば長時間の灯火が可能な為、街灯や常夜灯などに向いているって意味になる。って事はつまり、コンロに使うのなら長時間弱火で煮込む料理なんかに向いてるって事だな。

 全部売っちゃったがスライムやグリーンコブラなんかは火力も弱く、使用時間も短い。

 ブラウンホーンラビットも同じで火力は弱く、短時間しかもたない。

 ブラウンクロコダイルは火力も中程度だが時間は短いらしい。

 ピルバグやゴールドバタフライの幼虫は火力も時間も中程度。成虫は火力は強いがその分時間は短いそうだ。

 ブラウンビッグラットも、同じく火力は強いが短時間しかもたないんだそうだ。

 ブラウンキラーマンティスになると、火力はかなり強くなり、時間も中程度。

 俺が持っていた中で最強だったのは、やっぱりブラウングラスホッパーだったようで、これは火力も時間も最強だって言われたよ。

 そうだ、この際だからハスフェルにも大量にあるジェムを少し押し付けよう。

 そう思って取り出そうとしたら真顔で止められた。何でも、彼も過去に大量発生した時に拾ったのを、処理しきれずに、まだまだ大量に持っているんだそうだ。


 しかも、彼からもっと恐ろしい事を聞いた。


 ジェムを地脈の吹き出し口に近い地面に放置すると、そのジェムが再びジェムモンスターとして復活するんだそうだ。だから、大量発生した場合には、倒した際に落ちたジェムも可能な限り回収しないと、また大量発生する可能性が高いんだって。

 そりゃあ、シャムエル様が必死になって回収する訳だ。

「まあ、諦めて自分で使うなりギルドに少しずつ売るなりしてくれ。間違ってもその辺りに捨てないようにな」

 苦笑いしたハスフェルにそう言われて、俺も笑うしか無かった。

「まあ、頑張って使うよ。ってか長持ちするって時間にしてどれくらい持つんだ?」

「ブラウンハードロックのジェムを細かく砕いて街灯にセットすれば、このジェム一つでそうだな……街灯二十本を一ヶ月は夜中灯せるな」


 ええと、一ヶ月がここでは三十日だって聞いたから、夕方から夜明けまで12時間ぐらいか、それを二十本?

 って事は。ブラウンハードロックのジェム一つで七千二百時間!

 うん、一生かかっても使いきれる気がしないね。どうにかして減らす方法を考えよう。

 その夜は、話はそこまでになり、それぞれテントに戻って休んだ。

 俺は広いテントでニニとマックス、ラパンとタロンに囲まれて、幸せパラダイス空間でぐっすり休んだよ。


 翌朝は、コーヒーは用意して、買い置きのサンドイッチとサラダで済ませた。

 ベリーには果物を山盛りに出してやり、俺達も少しだけ分けてもらった。


 そんな旅を五日間続け、その間に、彼に手合わせをしてもらって剣術の腕も磨いた。

 途中にジェムモンスターの発生場所があれば立ち寄り、教えてもらった通りに必死になって剣を振るった。

 まあ、それ程大量のジェムでは無いが、確実にそれぞれ百個単位で在庫が増えているんだが、気にしない事にしている。

 新しいジェムモンスターは二種類。一つは、ハエのような昆虫系のジェムモンスターで、ブラウンフライ。当然だがデカい。一匹のハエが、俺の顔ぐらいあるのだ。

 もう一つはカエル。これはブラウンロックトードとは違って、つるりとした綺麗なカエルで、緑色をしている水辺に住むカエルで、グリーンリトルフロッグ。これがリトルであるかは大いに疑問だが、他の大きさを考えれば、20センチのカエルは、確かに小さい方なのかもしれない。



 ようやく到着した場所は、鬱蒼とした木々が生い茂る何とも不気味な場所だった。

「ええと、ここが目的地なのか?」

 若干逃げ腰になりながら尋ねると、満面の笑みで頷かれた。

「ここがお前の故郷となっている影切り山脈の樹海の入り口だよ」

 それを聞いた俺は、思わず本気で逃げそうになった。

「いや、待って! 俺の腕だと確実に死ぬって、シャムエル様に言われたぞ」

「まあ一人で行けばそうなるだろうな。その為に俺がいるんだろうが。まあ安心してついて来い」

 平然と倒木を乗り越えて中に入っていく彼を見て、俺は泣きそうになりながら必死になって後を追った。


「駄目だ。マックスに乗っていたら木が邪魔で進めないよ」

 前を行くハスフェルに声を掛けて、俺はマックスから降りて鞍を外してやった。それから、全員の首輪も外してアクアに持っていてもらう事にした。枝があちこちから不自然に突き出しているため、うっかり首輪に引っかかったら危険かもしれないと思ったからだ。


 彼の後を追って、足場の悪い中を必死に進んでいくうちに、また周りの景色が変わってきている事に気付いた。

 少し木々が大きくなり、倒木が少なくなって、楽に歩けるようになってきたのだ。

「この辺りで仕掛けてみるか」

 ハスフェルが立ち止まって、少し広くなった草地を見回した。

「ここで待っててくれるか。罠に使う小動物を取ってくる」

「あの! 鶏肉で良かったらあるけど!」

 こんな所で一人で置いていかれるのは絶対ゴメンだよ。慌ててそう叫ぶと、彼は小さく吹き出した。

「じゃあそれを使わせてもらおう。出してくれるか」

 取り出した鶏肉を、草地の真ん中に放り投げると、周りに彼が取り出した縄で罠を仕掛ける。

 仕掛けが終わると、彼の指示で俺達も森の中に戻った。

 言われた通りに伏せて大人しく待つ。


 しばらくすると、マックスと変わらない程の大きさの灰色の巨大な犬が現れた。

 真ん中に置かれた鶏肉に気付いているが、そこにはすぐに行かず、しきりに周りの匂いを嗅いでいる。

 今、俺達が隠れているのは少し離れた森の中で、ちょうど風下側になる。

 慎重に近づいたその犬は、何度か周りを見て回った後、ゆっくりと罠の中に足を踏み入れた。

 肉に噛みついた瞬間、罠が発動して犬の足を一瞬で縛る。大きく吠えた犬は、抜け出そうと闇雲に暴れ、更に罠が締まる。

 それを見たハスフェルは立ち上がった。そして俺を見て手招きする。

「ええ、俺も行くのかよ」

 思わず小さな声でそう呟いたが、もう一度彼が俺を手招きするので、諦めて俺もそっと立ち上がった。

 出来るだけ音を立てないようにして、彼の後をついて行く。


「行くぞ!」

 いきなりそう言った彼は、何の前触れもなく、いきなり倒れている灰色の犬の背中に飛び付いたのだ。

 俺が無言で驚いていると、彼はそのまま背中に跨り足を使って首を絞めにかかった。当然両手で頭にしがみついている。

 悲鳴のような声で鳴いた灰色の巨大犬は、怒ったように唸って彼を振り落とそうと飛び跳ね、体を震わせて立ち上がろうとして転がる。しかし、彼は力一杯しがみ付いて決して離れない。

 凄い、腕力と脚力、どれだけあるんだよ。

 横で馬鹿みたいに感心して見ていると、俺に気付いた犬がこっちに向かって転がってきたのだ

「ひえええ!」

 思わず逃げようとしたら、上から一喝された。

「何してる! 鞘ごと剣でぶん殴れ!」


 悲しいかなサラリーマン気質。圧倒的な声で命令されると、つい従っちまうんだよなあ。


 大声で返事をした俺は、腰から外した鞘ごとの剣で転がってきた犬の鼻っ柱を力一杯ぶっ叩いた。

「キャウン!」

 情けない鳴き声がして、犬が這って逃げようとする。

「抑えろ!」

 大声で叫ばれて、思わず飛びかかって口を上から押さえ込んだ。ハスフェルも一緒になって押さえ込み、完全に二人掛かりで抵抗を封じた。

「クゥーン」

 鼻で鳴いた犬は、ようやく尻尾を下ろして抵抗しなくなった。


「ほら、テイムするんだよ」

「ええ! 俺がするんですか?」

「当たり前だろうが。お前は魔獣使いなんだろう?」

 まあ、ここまでやってそのまま逃すわけにもいかないよな。

 大きなため息を吐いて、俺は押さえつけた犬に向かって話しかけた。

「俺の仲間になるか?」

 鼻の頭を押さえた灰色の犬は、俺の言葉に小さく鳴いた。

「貴方に従います」

 一瞬光る犬を見て、隣を見る。

「名前はどうする?」

「シリウスなんてどうだ?」

「あ、良いね。じゃあ紋章はどこに付ける?」

 起き上がったハスフェルが足の罠を外してやったので、同じく起き上がった灰色犬にそう聞いてやる。

「ここにお願いします!」

 マックスと同じく、胸を張るのでそこに右手の手袋を外して当てた

「お前の名前はシリウスだ。よろしくな」

 肉球マークが輝き、もう一度一瞬光ったシリウスは、嬉しそうに身体を震わせた。

「じゃあ、お前は彼を乗せてくれよな」

 ハスフェルが隣に立つのを見てそう言うと、嬉しそうに一声吠えた。

「こいつは、グレイハウンドの亜種だよ。なかなか良いのをテイム出来たな。じゃあこいつは譲ってもらって構わないか?」

「最初からそのつもりで捕まえたんじゃなかったのか?」

 不思議に思ってそう聞いたら、彼が笑って教えてくれた。

 テイムした従魔はその主人が認めれば別の人物に譲る事が出来るらしい。なので、彼を主人にしろと俺が言えば、シリウスはハスフェルの従魔になる訳だ。

「じゃあ、ハスフェルも魔獣使いって事になるのか?」

「いや、これはあくまでお前の従魔を譲ってもらったって形だよ。まあ今回は俺も協力して捕まえてたが、普通は金で売買される」

 成る程ね、初めから手放す目的でテイムして、売るわけか。従魔にしてみれば大迷惑だよな。主人と認めた人物に売り払われちまうなんて。

「まあ、目的の魔獣はテイム出来たわけだ。どうする?もう戻るか?」

 まだ日が暮れるには早い。今から行けば日があるうちに樹海から出られそうだ。

「まあ、この辺りは樹海のごく浅瀬だよ。でもなんとなく雰囲気は分かっただろう?」

 からかうように言われて、俺も小さく頷いた。


 うん、極力故郷の話はしない事にしよう。そして、冷静に考えて……魔獣のテイムの仕方も詳しい説明はやめようと心に誓った。

 俺には絶対無理! 一人であんなことしたら、確実に死ぬよ。

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