スーパースペシャルプレート別荘でのちょっとした事故が起こったバージョン
「うああ〜〜〜〜〜〜〜〜! 今日の成果が〜〜〜!」
「ああ〜〜〜〜〜〜〜〜! 私の生き甲斐が〜〜〜〜!」
華麗なとんぼ返りを切って俺の腕に飛び付こうとしたシャムエル様だったが、目測を誤ってしまい俺の腕に頭から激突したのだ。
そう、よりにもよってスーパースペシャルプレート別荘バージョンを持っていた俺の右腕に……。
多分、この世界に来てからここまで焦ったのは初めてだったんじゃあないだろうか。
本気の大慌てで皿を掴もうとしたんだけど、まるで俺の手を嫌がるかのようにスルッと逃げて吹っ飛ぶお皿。
次の瞬間に起こりうる光景を想像して悲鳴を上げて涙目になる俺。そしてシャムエル様。
「お皿確保〜〜〜!」
元気なスライム達の掛け声と共に、合体して大きくなったスライムが空中に吹っ飛んでいたスーパースペシャルプレート別荘バージョンを、丸っとお皿ごと飲み込んだのだ。
しかもその飲み込み方ってのがまたすごかった。
アレだ。北の海の妖精とか言われてる、クリオネって知ってる?
今のスライム達、あれの捕食する瞬間にそっくりだったんだよ。
いやまじで、真正面から見た俺にしたら……正直言ってちょっとした悪夢だったぞ。
「ナイス! グッジョブだったよ」
無邪気にスライム達を褒めるシャムエル様を見て、俺は大きなため息を吐いてシャムエル様を捕まえた。
「こら、もうちょっと気をつけて動いてくれよな。せっかくのデザートが台無しになるところだったじゃないか」
どさくさに紛れて、両手で包み込むみたいにしてしっかり揉んでやる。
「うう、ごめんなさい、ちょっとはしゃぎすぎて目測を誤ったよ」
意外と素直に謝るシャムエル様にちょっと驚きつつも、適当なところで解放してやる。
「ねえ、それより早く食べたいです!」
振り返って開口一番そうくる辺り、シャムエル様のスイーツ好きは本当に揺るぎないね。
苦笑いした俺は、まだくっついて巨大化したままだったスライム達を見た。
「ええと、出してやってくれる?」
しかし、何故かプルプルと震え出すスライム達。
「おいおい、どうした。もしかして食っちまったか?」
あり得ない話では無いかと思ってそう言ったんだけど、さらに震えが大きくなった後に、急にばらけて、てんでばらばらに転がって逃げ出したのだ。
「おいおい、どうしたってんだよ?」
慌てて一番手前にいたクロッシェをタッチの差で捕まえる。
その間に他の子達は全員逃げ出してしまい、しかし完全に逃げるのではなく、ちょっと離れたところへ行っただけで物陰からこっちを伺っているのを見て、思わずシャムエル様と顔を見合わす。
「なあ、怒らないから、どうしたのか教えてくれないか」
「怒らない?」
俺に捕まって唯一カウンターの上に残っていたクロッシェが、可哀想なくらいにプルプル震えつつこっちに伸び上がりながらそう尋ねる。
「大丈夫。そもそも吹っ飛ばした原因はシャムエル様だからな。潰れてても文句は言わせないから安心して出してくれるか」
なんとなく今のケーキの状況が想像出来た俺は、出来るだけ優しくクロッシェに言ってやるとクロッシェの横を叩いた。
「ほら、いいからここに出して」
「はい、どうぞ……」
消えそうなくらいの小さな声でそう言ったクロッシェは、本当に恐る恐るって感じに問題のお皿を取り出して置いた。
「まあ、そうなるわな」
出されたそれを見て苦笑いする俺の言葉に、クロッシェが溶けたみたいにペシャンコになる。
クロッシェが出し渋ったのがわかる。要するに取り出したお皿の上は大変な惨状だった。
プリンの上に乗せた生クリームが丸ごと落っこちて、おからケーキと合体して見るも無惨な状態だし、ガトーショコラの向きは変わって倒れてるし、アイスの坂道もお皿の縁まで吹っ飛んで三つに割れてる。当然その周りに飾っていた果物とクッキーなども、これまたぐっちゃぐちゃ。ウサギのリンゴはそのクリームの残骸に頭から突っ込んで止まっていた。
要するに、地面に落ちなかっただけで、せっかくの飾り付けは完全に崩壊してしまっていたのだ。
「大丈夫だよ。怒ってないから元に戻ってくれよ。このままだとレース模様のシートみたいだぞ」
溶けたみたいになってるクロッシェをできるだけ優しくそっと撫でてやると、波が立ったみたいに震えた後に元に戻った。
「なあ、シャムエル様。ご覧の通りの有り様だけど、どうする?」
なんだかおかしくなって笑いながらそう尋ねると、胸を張ったシャムエル様は何故かドヤ顔になった。
「ちょっと残念な見掛けになっちゃったけど、味は変わらないんだから気にしません。第一、落っことしたのは私のせいなんだから、もちろん責任を持って全部食べます!」
「今、俺の耳には、独り占めする大義名分が出来て嬉しいって聞こえたんだけど……」
「気のせいです!」
きりっともう一度ドヤ顔を決めたシャムエル様は、お皿の横に一瞬で移動すると、手を伸ばしてガトーショコラを両手で掴んだ。
「では、責任を持って、いっただっきま〜〜〜〜〜す!」
雄々しく叫ぶとそのまま頭からガトーショコラに突っ込んで行き、ものすごい勢いで食べ始めた。
「ふおお〜〜! これは美味しい! これは美味しい! これは美味しいです〜〜〜!」
大興奮しながらガトーショコラを食べているシャムエル様を呆気に取られて見ていた俺は、素知らぬ顔で手を伸ばして後ろから大興奮状態のもふもふな尻尾を摘んだ。
「おお、これこれ。いい感じに膨れておりますなあ」
にんまりと笑ってそう言った俺は、シャムエル様が食べ終わるまでもふもふ尻尾を心ゆくまで堪能し、シャムエル様は責任を持って、スーパースペシャルプレート別荘でのちょっとした事故が起こったバージョンを宣言通りにかけらも残さず平らげたのだった。
カウンターの上では、ようやく戻ってきたスライム達が、逃げ出した事を謝りながら、クロッシェを取り囲んでおしくらまんじゅう状態でクロッシェの勇気を讃えていたのだった。