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焼き菓子と飾り切り

「おお、これも綺麗に膨れてきてるな。だけどもうちょい時間はかかりそうだな」

 覗き込んだオーブンの中では、ココアマーブルケーキが膨らみかけていて思わずマジマジと覗き込んだ。

「考えたら、砂糖とバターと小麦粉と玉子。だいたいこれで、今まで作ったほぼ全部のお菓子が出来るんだよな。それに生クリームとかミルク、ナッツやチョコ、ココアを足したりする程度だもんなあ。これの方が魔法みたいに思うぞ……おお、割れた!」

 覗き込んでいたら、丁度真ん中部分が膨らんできてパカって感じにひび割れて、そこが中から更に膨らむ。

「これ、ずっと見てられるよ」

 笑って小さく呟き、立ち上がった。

「まだ焼き上がるまでもうちょい時間がかかりそうだから、今のうちにデコレーションの準備をしておくか。サクラ、生クリームと砂糖、それから果物を色々出してくれるか。それとバニラアイスまだあったか?」

「最初に作った分だよね。まだ半分以上残ってま〜す」

 見覚えのあるバニラアイスの入ったバットを取り出して見せてくれる。

「ああ、それだけあれば大丈夫だな。じゃあ使うときは言うから一旦戻しておいてくれるか」

 アイスは溶けたら大変だからな、一旦戻してもらってまずは果物の用意する。



「ええと、リンゴはいつものウサギの形でいいな。イチゴは扇状に切って、他の果物は適当にサイコロ状に切って混ぜておく。あとは何か出来るかなあ」

 何だか飾りもワンパターンになっている気がして考える。

「師匠のレシピ帳にはさすがに飾り切りなんて……すげえ、載ってる」

 冗談半分でレシピ帳を取り出して見てみたら、後半のページにいくつか飾り切りの説明が載っていたよ。

「ううん、だけどこれは俺にはちょっと難しすぎるぞ」

 りんごを市松状に切るやり方や、木の葉と呼ばれる切り方など、かなり色々乗っている。だけどはっきり言って難易度は高そうだ。

 しばらく沈黙しながら見ていて、ある箇所で止まる。

「へえ、リンゴやキーウイを使って薔薇の花。これなら出来そうだな。よしやってみよう」

 作り方を見て何となく俺でも出来そうだったので、チャレンジしてみる事にした。

「何々、リンゴを半月状に切るやり方。りんごの芯を避けて両側を縦に切る。残った芯の部分の左右を縦に切り落とせば全部半月状に切れる。へえ面白い、りんごなんて真ん中で半分に切って四等分か八等分するやり方しか思いつかなかったよ」

 感心したように呟き、取り出した小さめの激うまリンゴをそのやり方で切ってみる。

 要するに、真上から見たら、芯の部分だけ四角く切り取ったみたいな形だ。

「で、これを薄切りにすれば良いんだな」

 切ったリンゴを端からせっせと薄切りにしていく。

「まっすぐな部分を合わせて、丸い部分が少しずつ大きくなるようにずらして並べていく」

 半月切りにした薄切りリンゴをまな板の上で重ねていき、端からゆっくりと巻き取っていく。

「おお、確かに薔薇の花っぽくなったじゃんか。へえ、面白い」

 何だか楽しくなって、二個目を作ろうとしたところで見ていたスライム達が集まってきた。

「もう覚えました!」

「お任せください!」

「何個作るんですか〜!」

 どうやら退屈していたらしく、全員揃ってめちゃやる気になってる。

「あはは、じゃあお任せしようかな。じゃあそうだな……このリンゴを八等分してうさぎを作ってくれるか。それからこのいちごで扇も。それからこっちのりんごで、これくらいの大きさにバラの花を作れるだけお願いします」

 笑ってそう言うと、あっという間に手分けしてモゴモゴとやり始めた。



「誰か、生クリームも砂糖を入れて泡立てて欲しいんだけどなあ」

 砂糖の量を計りながらそう言うと、イプシロンとエータが綺麗なウサギの形になったリンゴをお皿に吐き出して慌てたように来てくれた。

「じゃあお願い出来るか。しっかり角が立つまで泡立ててくれよな」

「了解です!」

 揃って触手で敬礼したイプシロンとエータが、ボウルに入れた生クリームをせっせと泡立て始める。

 ちなみにもう一回り大きなボウルに氷を作って入れておいたので、そこで冷やしながら作ってくれている。一度言った事は絶対忘れず実行してくれる。相変わらずうちのスライム達は優秀すぎるよ。



「さて、そろそろ良い感じに焼けてきたんじゃないか?」

「はあい、もうすぐ四回目の砂が落ちるよ」

 得意気なゼータの言葉に、もう一度オーブンを覗き込む。

「どれどれ、焼けてるかな?」

 オーブンを開けて、ケーキに細い竹串をそっと突き刺して確認してみる。

「よし完璧だ。って事で、これを取り出したらそのままおからケーキを焼くぞ」

 ミトンをはめた手でトレーごと取り出し、マーブルケーキを取り出して、そこにおからケーキの入ったリングを二個並べてオーブンに戻す。

「ゼータ、これは砂時計三回分で呼んでくれるか。焼き上がるのが早いらしいから様子を見ながらやらないとな」

「了解です。もし焦げそうなら呼べば良いんだね」

 そう言って砂時計を抱えたまま、オーブンの中が見える位置へ移動するゼータ。

「おう、よろしくな」

 笑ってゼータを撫でてやり、俺も何となくオーブンを見る。

「ううん、このリング型が二個同時に入るんだから、いつも使ってる簡易オーブンの倍くらいの広さは余裕でありそうだよな」

 改めて考えたら、ここでなら大きな肉の塊とかの料理でも余裕で出来そうだ。

「まあ、どうせここにいても俺は特にする事なんて無いんだからな。せっかくこんな豪華なキッチンがあるんだから、ここにいる間は頑張って料理をする事にしよう」

 満足そうにそう呟き、ケーキクーラーと呼ばれる平らな金網に、焼きたてのマーブルケーキを金型から外して取り出した。

 飾り切りの終わったクロッシェが金網ごと飲み込んで冷ましてくれる。



「おからケーキが焼き上がったら、デコレーションの試作かな?」

 小さくそう呟きながらチラリと横目でカウンターを見ると、大きな白いお皿とお椀みたいなのを取り出したシャムエル様が、こっちを見ながらものすごい勢いでステップを踏んでる真っ最中だった。

 どうやら待ちきれなくなって、興奮のあまり踊り出してる模様。

「もうちょっと待ってくれよな」

 オーブンを指差しながらそう言ってやると、ものすごい勢いで頷いた後、また踊り出した。

 あれだけ踊ればかなりカロリー消費するだろうから、もうしばらく踊らせておこう。

 苦笑いした俺は、素知らぬ顔で飾り切りのページをもう一度開いて読み始めた。

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