マーブルケーキとおからケーキ!
「じゃあ、この前作ったパウンドケーキと同じやり方だから分かるな?」
「はあい大丈夫で〜す!」
取り出した材料を二個分の量で計った俺は、スライム達に二色分の生地作りと金型の準備をお願いしてオーブンの様子を見に行った。
「あれ、まだ時間までもう少しあるよ?」
ゼータが砂時計を見ながら困ったように教えてくれる。
「ああ、それは分かってるけど、どんな風になってるか見ておこうと思ってさ」
オーブンの扉は、中が見えるように分厚いガラスみたいな透明の板がはまっている。多分何かのジェムモンスターの素材なんだろうけど、俺には何の素材かは見ただけでは全く分からない。
「へえ、ちょっと膨れてきてる。面白い、こんな風になるんだ」
真ん中部分が少し膨れてきているけど、まだ全体が膨れるほどじゃない。まさしく生焼け状態だ。
「良い感じみたいだな。じゃあ時間の確認よろしくな」
「はあい、任せてね」
砂時計を抱えて得意気なゼータをもう一度撫でてやってから、俺は材料を並べた場所に戻る。
タイミングバッチリに、スライム達がまさに二色の生地を仕上げたところだった。
「ココア味出来上がったよ!」
「バニラ味も出来上がりました〜!」
二色のボウルが並んで差し出される。
「おう、ありがとうな。完璧だよ」
受け取った俺は、金型を並べて大きめのスプーンを手にする。
「ええと、二色のこれを金型に数回に分けて交互に入れて棒状のもので軽く混ぜる。混ぜすぎ厳禁。か」
何となくわかったので、適当に二等分して二色の生地を交互に金型に入れていく。
「目分量の適当だけど良いよな。で、これを混ぜる!」
お箸を一本だけ取り出し、ぐりぐりと全体にゆっくりと数回かき混ぜてみる。
「おお、何だかそれっぽくなった気がする……けど、これって中の様子が見えないから、どれくらい混ぜたら良いのかさっぱり分からないな。まあもう良い事にしよう、師匠のレシピには混ぜすぎ厳禁って書いてあったし」
そう呟いて二個とも適当に混ぜておき、オーブンを振り返る。残念ながら、まだ焼き上がるにはちょっと早かったみたいだ。
「じゃあ、焼き上がるまでに次の準備もしておくか。ええと、おからケーキだったな。どれどれ、どんなレシピだ?」
言っておくが、お菓子作りで混ぜる以上の技術を俺に求めてはいけない。恐る恐るレシピを読んだ俺は、混ぜるだけなのを確認して安堵のため息を吐き、材料を確認していて思わず驚きの声を上げた。
「へえ、このレシピではバターを使ってないぞ。代わりにオリーブオイルを使うのか。へえ、バターじゃなくてもケーキって作れるんだ」
密かに感心しつつ、もう一度材料を確認してからサクラに取り出してもらおうとしたところでゼータに呼ばれた。
「ご主人、そろそろ四回目の砂が全部落ちるよ」
「おう、了解だ」
レシピ帳は一旦そのままにしておき、急いでオーブンの様子を見にいく。
「どれどれ、おお、良い感じに膨れてきてるな。だけど表面がまだあんまり焼けてないっぽいぞ。ううん、これはもう少し焼くべきか?」
何しろケーキ自体が黒いから焼き加減がいまいちよく分からない。なので、もう一回分砂時計を計ってもらう。
あと10分くらいは焼いても良さそうだ……多分。
さすがにここまできて真っ黒焦げとかは嫌なので、おからケーキの準備は後にして、残りの10分間オーブンと睨めっこをしながら過ごした。
「おお、これは良い感じに焼き上がったな。このまま冷やせばちょっと萎んで表面にヒビが入るのか。よし、エータ、これ冷やしてくれるか。あのな、これも前回のベイクドチーズケーキと一緒で、冷ますと萎んで小さくなるらしいけど問題無いからな」
「了解です。じゃあ冷ましますね」
金型に入ったままのガトーショコラを二個ともエータに渡し、用意してあったマーブルケーキ二個をそのままオーブンに入れる。
「ええと、これも砂時計四回分で頼むよ」
「了解です!」
これまたゼータが引き続き砂時計の番をしてくれるみたいだ。
「じゃあ次はおからケーキだ。材料は、おからBでいいな、小麦粉、砂糖、玉子、小麦粉、ふくらし粉、ミルクか豆乳……じゃあ豆乳B、レモン、以上かな。よしサクラ、今言った材料を出してくれるか」
すっかり綺麗になった広い場所に、サクラが次々と材料を取り出してくれる。
「ええと、まずは金型の準備をする、あ、しまった。パウンド型は使ってるじゃないか。ええと、他に何かあったかな?」
サクラを見ると、少し考えて大きなドーナッツ状の金型を取り出してくれた。
「同じくらいの大きさならこれが有るね。リング型だよ。お店の人が、パウンド型と同じくらい入るって言ってたよ、焼く時間は少し短めなんだってさ」
「おお、良いのがあるじゃないか。じゃあこれで行こう。ええと二個ある?」
「あるよ〜! はい、どうぞ。綺麗にしてあるからそのまま使えます!」
「ありがとうな。じゃあこれをいつもみたいに……」
「バターと小麦粉だね。はい、どうぞ!」
リング型を一瞬で飲み込んだサクラが、本当にこれまた一瞬で綺麗にした粉を振るって準備した状態で取り出してくれた。
マジでスライムの中ってどうなってるんだ?
「あはは、完璧だよ。じゃあおからケーキの準備をするか」
リング型を受け取り、材料を計っていく。
「最初に、玉子と砂糖をボウルに入れて泡立て器でしっかり混ぜ合わせる、空気を含んでもったりするくらいまでしっかりと泡立てる事。もったりってのがよく分からないけど、しっかり混ぜろって事だな」
その言葉を聞いて、ガンマとクロッシェが泡立て器でせっせと泡立て始める。
しばらくすると何となく白っぽくなって量が増えてきた、確かにもったりって感じになったっぽいので良い事にして、そこにオリーブオイルを少しずつ加えてはまたしっかりと混ぜてもらう。
「それで、ここにおからを丸ごと入れるぞ」
計った生のおからをそのまま放り込み、豆乳とレモン汁も加えてさらによく混ぜる。
「ここに、小麦粉とふくらし粉を振るい入れて切るように混ぜる。小麦粉を入れたら、どうやらあんまり混ぜないほうがいいみたいだな。何となく分かってきたぞ」
小さく呟き、用意しておいたリング型に入れていく。
「うう、意外に難しいぞこれ。綺麗に入らない」
そう、丸や四角と違って、リング型って入れる部分が細いからまとめて入れられない。
少し考えて、大きめのスプーンで少しずつ入れていく方法で何とかしたよ。
「軽く落として生地の空気を抜きます。うん、これはパウンドケーキと同じだな」
スプーンを使って、出来るだけ表面を平らにしておく。
「何か果物かナッツくらい入れても良かったかも。まあ良いや。どうせまたスペシャルバージョンでデコレーションするもんな」
小さく呟いてオーブンの様子を見に行った。
さっきの俺の呟きを聞いていたシャムエル様は、何やら大興奮して、スライム達が一瞬で綺麗にしてくれたボウルの縁をまるでスケーターみたいにクルクルと滑って遊んでいたのだった。