ソース作りとお菓子のリクエスト
「ううん、ビールと揚げ物ってやっぱ最高だな」
もう一つ小さめのコロッケを摘みつつ二杯目のビールを飲み干した俺は、満足のため息を吐いて一皿だけ出してある山盛りのコロッケを一旦収納してもらった。
飲み終えたグラスと空瓶も綺麗にして収納してもらう。
「そっか、何か忘れてると思ったけど、やっぱコロッケにはこれがいるよな」
そう呟き、机の上に整列して俺を見ているスライム達を振り返った。
「サクラ、マヨネーズとケチャップ、それからソース系の使いかけのを一通り出してくれるか。ウスターソース、トンカツソース、中濃ソースとかな。あ、あとハチミツと黒胡椒。それからこれくらいのお椀と大きめのスプーン二本、それから小さめの片手鍋も頼むよ」
「はあい、じゃあここに出しま〜す」
跳ね飛んできたサクラが、俺の目の前に今言ったものを順番に取り出してくれる。
お椀にまずはたっぷりのケチャップとマヨネーズを入れ、それからウスターソースと中濃ソースとトンカツソースなど、いつも使ってる出来合いのソースをどんどん足していく。
「これを混ぜてっと。味はどうかな?」
滑らかになるまでスプーンで混ぜ合わせ、指の先にちょっとだけつけて味を見る。
「ううん、ちょっとソースが濃いな。じゃあ蜂蜜少々とケチャップとマヨネーズも追加で入れてっと」
もう一度綺麗に混ぜると、濃いめのサーモンピンクっぽい色の、甘めだけどスパイスの効いたオーロラソースの出来上がりだ。
我が家のコロッケにはこれが必需品だったんだよ。
これをつけてパンに挟むと、懐かしいコロッケサンドの出来上がりだ。
「だけど今回はソースはもう一つ作るぞ」
そう言って、小さめの片手鍋を手に取る。
今から作るのは、トンカツ屋でいつも作ってた定番のソースの一つだ。
まずは小鍋にたっぷりのトンカツソースと中濃ソース、それからウスターソースを少々、ここにハチミツを少しと黒胡椒をたっぷり入れて弱火にかける。
温まってきたら水を少しづつ足してちょっと緩めのソースを作る。これで出来上がり、超簡単だ。
題して、大人のスパイシーブラックソース。
はっきり言って、これで揚げ物を食ったらビール泥棒になる。それはもう、気がついたらビールが蒸発してるレベルで無くなるよ。簡単なのに美味いんだけど。非常に危険なソースである。取扱要注意。
これ以外にも、鰹出汁をベースに作る串カツ用ウスターソースなんかもあるんだけど、多分ハスフェル達にはこのブラックソースの方が口に合いそうだと思うんだよな。
「まあ、また順番に色々作って意見を聞いてみよう」
そう呟いて、出来上がったソースはサクラに収納してもらい、すっかり綺麗に片付いたキッチンを見渡す。
「サラダとサイドメニューは作り置きがあるから、それでいけるな。となると……やっぱりお菓子か」
まだ時間はありそうなので、何を作ろうか腕を組んで考える。
「確か前回、今度作ろうと思ってマークしてあるのがあったな」
師匠のレシピ帳を取り出し、お菓子の項目を見てみる。
「何々、ココアマーブルケーキとおからケーキにメモが挟んであるなあ。これなら混ぜて焼くだけだからいけそうだな。よし、せっかく大きなオーブンがあるんだから両方作ってみよう。あとは何がある?」
とりあえず、デコレーションケーキは確保したので、俺でも作れそうな混ぜて焼くだけ系のレシピを探す。
「ええと、これは……ガトーショコラ。材料が少々高額だが、チョコレートとココアの風味が抜群な一品……痛い!」
良さそうなレシピを見つけて、師匠の注意書きを読んだ瞬間、肩に座っていたシャムエル様に物凄い勢いで俺の耳たぶを引っ張られて、俺は飛び上がった。
「痛い痛い、ちょと待てって。だから落ち着け。頼むから耳たぶをそのちっこい手で摘むな!」
耳を押さえながらなんとかシャムエル様を確保する。
「ねえ、ねえそれ作って! 材料を見ただけで美味しいのが分かるからさ!」
興奮して倍サイズになった尻尾を振り回したシャムエル様が、俺の手の中で跳ね回っている。
「分かった分かった。じゃあ混ぜて焼くだけケーキ三種類な。って、そっちはシルヴァ達だな。髪を引っ張らないでください!」
いつの間にか現れた収めの手が、こちらも大興奮しながら俺の後頭部の髪の毛をせっせと引っ張っている。
「分かった、全部焼くから待っててください」
苦笑いした俺は、とにかくシャムエル様を机の上に降ろしてサクラを呼んだ。
「じゃあ、シャムエル様ご希望のガトーショコラから作るか。サクラ、今から言う材料を出してくれるか。ええと材料は……チョコレート、バター、卵は白身と黄身に分けるんだな。それから砂糖、生クリーム、小麦粉、ココア、仕上げに粉砂糖。よし、全部あるな。あとは計量カップと計量スプーン。道具は大きめのボウルを三つと粉ふるい用のザル、泡立て器と木べら。それからそこが抜ける丸い金型、以上かな」
「はあい、ではここに出しま〜す!」
先に道具を一通り出し、その横に材料を並べていく。
「ご主人、チョコレートはどれにしますか?」
サクラが出してくれたのは、いつものログインボーナスチョコと、この間のセレブ買いで見つけた塊のあんまり甘く無いチョコレートだ。スタッフさん曰く、お菓子を作るならこれがおすすめと言われて塊で買ったんだけど、こっそり齧ってみたら全然甘く無くてびっくりしたんだっけ。
「これはあれだな。いわゆるブラックチョコってやつだろう。これはそのままでは食べられないからお菓子作りに使おう。じゃあそっちを出してくれるか」
「はあい、じゃあこれで全部だよ」
指示待ちでやる気満々なスライム達を順番に撫でてやり、シャムエル様の期待に満ち満ちた目で見つめられながら、俺は苦笑いをして大きめのボウルを手にしたのだった。
さあ、じゃあまずはシャムエル様リクエストのガトーショコラってのを作ってみるか。