旅の予定とクーヘンへの委託
「とまあ、そんな訳でさ。バイゼンへ行く時はリナさん一家も一緒に行く事にしたんだけど、勝手に決めて悪かったけど、良いよな?」
バッカスさんの店を後にクーヘンの店へ向かう途中、俺はアルデアさんから聞いた話をかいつまんで三人に説明した。
「成る程なあ。まあケンがいいと思うなら俺は構わないよ。草原エルフはあんな見かけだが皆優秀な戦士だからな。旅の仲間としては申し分ないだろうよ」
ハスフェルの言葉にギイとオンハルトの爺さんも頷いてくれた。
「まあ、確かにあの地下洞窟であれだけの恐竜を狩れる腕があるのなら、道中何かあっても大丈夫だとは思うよ」
「しかし、となるとバイゼンへ行くのに転移の扉が使えないな。鳥達に乗せてもらって移動するしかなさそうだな」
苦笑いするハスフェルの言葉に、思わず左肩に留まっているファルコ達を見る。
「ここからバイゼンまでだったら、お前の翼ならどれくらいで飛べる?」
「さすがに一日でって訳にはいきませんが、別に飛べない距離ではありませんよ。私達はその気になれば休まずに飛び続けられますが、ご主人や他の従魔達はそうはいかないでしょう?」
一瞬、何の事を言ってるのかと思ったが、要するにトイレと食事のための休憩って事だよな。
確かに今までは、一度に飛ぶのはそれほどの距離じゃあ無かったからずっと乗りっぱなしだったけど、長距離を飛んでもらうなら定期的な休憩は必要だよな。
多分、あの口振りだと鳥達は必要とあらば長距離を飛ぶ事だって出来るのだろう。だけど乗せてもらっている俺達はそうはいかない。トイレ休憩や食事、寝る事だって必要だからな。
「いやいや、いくらなんでも一直線にバイゼンまで飛べなんて無茶は言わないよ。じゃあ休み休みなら行く事は可能?」
すると、ファルコだけでなく、隣に一緒に留まっていたセキセイインコのメイプルや、腕に留まっていた桃色インコのローザやキバタンのブランが揃って得意気に胸を張った。
「それなら、私達も手分けして従魔達を乗せてあげるわ。それならファルコが全員運ぶよりも効率よく飛べるでしょうからね。ああもちろん、リナさん一家も乗せてあげるわよ」
モモイロインコのローザの言葉に、俺は笑ってそっと手を伸ばして撫でてやった。
「そっか、ありがとうな。転移の扉を使わないでバイゼンヘ行くのなら、確かに全員に手分けして乗せてもらう方が良いかもな」
なんとなくいつもの習慣で全員ファルコに乗せてもらっていたけど、確かに他にも飛ぶ子がいるんだから手分けして乗せてもらう方が、ファルコへの負担は少ないだろう。
「ごめんよ、なんだかファルコにだけ無理させてたみたいで悪かったな」
ファルコにそう言って謝り撫でてやる。
「巨大化すれば、別に負担と言うほどではありませんよ。でも確かに長距離を飛ぶのなら、他の子達にも手分けして乗せてもらった方が効率は良いかもしれませんね」
「そうだな、じゃあその時はよろしくな」
順番にお空部隊を撫でてやってから、ハスフェル達を振り返った。
「お前らはどうするんだ。いっそ大鷲達も従魔だって事にして一緒に行ってもらっても良いかもな」
「ええと、漏れ聞こえてた話を総合すると、要するにリナさん達が合流したら鳥達に従魔達を手分けして乗せるから、大鷲達も従魔だって事にして一緒に行こうって提案だよな」
ギイの言葉に俺の方が驚いて首を傾げる。
「ああそうか、従魔達の言葉が解るのは俺だけだったな。そうそう、それなら途中休憩を挟んでいけばバイゼンまで飛んでくれるってさ」
「良いんじゃないか。だけどあいつらは紋章を付けていないから、ケンの従魔だって言うのはちょっと無理があるな。じゃあ、俺達が樹海から連れて来たペットだって事にしておくよ。街の外に出たら合流出来るように言っておこう」
「確かに。あのサイズだと街の中へ連れて来たら怖がられるから、森で待機させておいたって事にすれば良いな」
「良いんじゃないか。あいつらなら先にそう言っておけば甘える振りくらいはしてくれるんじゃないか」
ハスフェルの提案に、ギイとオンハルトの爺さんが揃って頷く。
確かにあのサイズの猛禽類をあれだけ連れてくれば、街の人に迷惑かけるよな。
「じゃあそれで行こう。おお、今日も繁盛してるな」
話してるうちに到着したクーヘンの店は、今日も多くの人であふれていた。
そして俺達を見た行列しているお客さん達の間で、またしても始まる伝言ゲーム。
伝言が先頭まで届いた後、クーヘンが出てくるまで本当にすぐだったよ。何、この見事なまでの連携プレーは。
「いらっしゃい。家の契約は上手くいったみたいですね」
「ああ、従魔達が広い庭に大喜びしちゃってさ。契約が済んだらすぐに旅立つ予定だったんだけど、もうしばらく滞在する事になったんだ」
それを聞いて笑顔になるクーヘン。
「どうぞいつまででもゆっくりして行ってください。それで、今日はなんの御用ですか?」
「いや、ジェムとかの在庫をまだ確認してなかったからさ。午前中は時間があるから減ってるようなら追加を用意しようかと思ってね」
「ああ、それはありがたいですね。早駆け祭りの際に王都からいらっしゃった方々に、かなり高額の装飾用のジェムも売れているんですよ。なので高額のジェムと、色付きのジェムがあったらもう少し置いて行っていただきたいんですが、どうですか?」
「あるある、高額なのも色付きもあるよ。じゃあ地下室を開けてくれるか。手分けして用意するよ」
「そうですね。では従魔達は厩舎へどうぞ」
「了解、じゃあ裏から入らせてもらうから、扉を開けといてくれるか」
そう言って厩舎へ向かう。何故かクーヘンも店へ戻らず一緒についてきた。
マックス達を厩舎の中へ入れてやり、鞄の中のスライムだけを連れて一緒に裏口へ回る。
「次にお会いしたら渡そうと思って用意していたんです」
そう言って、俺とハスフェルとギイに差し出したのは、大きな鍵だった。
「店側の扉の鍵は中からしか開けられないようになっているので、この裏口の鍵をお渡ししておきます。もしも私達が留守の時に戻って来られたら、どうぞ遠慮無く入ってくださって結構です」
「駄目だよそんなの」
慌てて断ろうとしたが、笑ったクーヘンは、俺達三人の手に鍵を押し付けるようにして渡してくれた。
「だって、店の共同経営者なんですから。鍵くらい持っていないと不自然でしょう?」
当然のように言われて、顔を見合わせた俺達は揃って満面の笑みになった。
「わかった。じゃあ遠慮なく頂くよ。本当にありがとうな」
実際に使う事なんて無いだろうけど、当然のように信頼して鍵を渡してくれたその気持ちが嬉しかった。
その後、ルーカスさんに来てもらって一緒に地下室の二重鍵を開けてもらい、欲しいジェムリストを見た俺達は早速、張り切って大量のジェムを取り出して数え始めたのだった。
いやあ、確かにクーヘンが言ってた通りに、かなり高額なジェムも相当数売れていてびっくりしたね。
当然、前回以上の数で置いてきたよ。
ちなみに、ティラノサウルスのジェムが残り少なくなってるなんてうっかり呟いたもんだから、ハスフェル達が、バイゼンヘ行く前に地下洞窟に一回入ろうとか言い出して、必死になって俺が止める一幕もあったよ。
全く、油断も隙もあったもんじゃないよな。俺は平穏無事な旅がしたいんだってば。