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もふもふとむくむくと異世界漂流生活  作者: しまねこ


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忘れてた事とバッカスさんの店での一幕

「ねえ、ちょっと待ってよ。大事な事を忘れてない?」

 何やら不機嫌そうな声でそう言いながら俺の耳を引っ張るシャムエル様に、俺は思わず目を瞬いた。

「大事な事?」

「そう、と〜〜〜〜〜っても大事な事!」

 何故だか激おこ状態のシャムエル様を見て、俺は首を傾げて考える。

「ええ? 宿に何か忘れて来たか? ううん。違うな。じゃあ何だ?……ああ、そうだそうだ。確かに忘れてた!」

 城門を出る直前で思い出し、俺は慌ててマックスを止めて道の脇に寄った。

「いきなりどうした。宿に何か忘れたか?」

 ハスフェル達も驚きつつも止まってくれて、そのまま城壁沿いの道の端に集まる。

「ほら、昨日の屋台でシャムエル様が気に入って買った、めっちゃ甘そうな超デカいロールケーキみたいなやつ。あれを昼くらいに取りに行くから、作れるだけ作ってもらうようにってお願いしてるんだよ。今からあの家へ行ったら、すぐに戻って来ないと時間が合わないよ」

 納得した三人は、苦笑いして俺の右肩に座っているシャムエル様を見た。

「ああ良かった。まさかあんなに大事な要件を忘れるだなんて、もう驚きだね」

「申し訳ありませ〜ん」

 自分が食べないから覚えてなかったって言葉は、グッと飲み込んでおく。

「じゃあどうするかな。今行ってもまだ作ってないと思うぞ」

「それならクーヘンの店とバッカスの店の様子を見て回るか。それなら午前中くらいは潰れるだろう」

「良いな、じゃあそれでいこう。ええと、ここからならバッカスさんの店が近いな」

 ようやく覚えてきた街並みを見回し、まずはバッカスさんの店の様子を見に行く事にした。




「おお、大人気じゃんか」

 到着したバッカスさんの店は、今日も多くの人であふれていた。

「へえ、考えたな」

 思わず感心して道路から店の様子を伺う。



 どうやら一番売れる釘や針金などの消耗品や日用品の金物類や小さなナイフなどは、店の外に屋根付きのワゴンのような台を出して並べ、店に入らなくても買ってもらえるようにしたみたいだ。

 今はブライさんが外の店番をしている。

 そして、その分広くなった店内では、冒険者向けの別注専用の場所が大きく作り直されていた。

「へえ、もしかして一晩であのカウンターを作り直したのか? ドワーフの技術、すげえな」

 感心している俺を横目で見て、オンハルトの爺さんが笑って頷いている。

「なるほど。これは考えたな」

「え、何が?」

 思わず、そう言って横に来たオンハルトの爺さんを振り返る。

「作り直したわけではないぞ。開店前からあのカウンターの横の部分が板張りになっていたんだが、どうにも不自然だと思っておったら、そういう事だったのか」

 腕を組んでうんうんと頷くオンハルトの爺さんを見て、首を傾げる俺達。

「あのカウンターは、おそらく元々あの広さに作ってあったのだろう。開店当日は別注は予約のみだと言っておったろう。だからカウンターを半分は閉めて、恐らくその部分には、単価の低い消耗品などの在庫を置いておったのだろう。ある程度落ち着いたところでカウンターを広げて、やって来る冒険者達の注文にゆっくり対応出来るようにしたのだろうさ」

「へえ、すごいな。そんな事になってたんだ。全然気付かなかったよ」

 感心したようにそう呟き、店を覗いていると見覚えのある三人を見つけた。

「あ、リナさん達だ」

 丁度座っていた人が立ち上がり、次に座ったのがリナさん達だった。

 真ん中に息子のアーケル君を座らせ、左右にリナさんとアルデアさんが並んで座り、取り出したのは俺もたくさん持っているブラックトライロバイトの角だ。そしてカウンターを指差しながら何やら真剣に相談を始めた。

 しばらくするとバッカスさんが笑顔で右手を差し出し、アルデアさんと握手を交わした。隣ではアーケル君とリナさんが拍手をして大喜びをしている。

「商談成立って感じかな?」

 なんとなくそのまま眺めていると、俺達に気付いたブライさんがワゴンの中から笑顔で手を振っているのに俺達も気がついた。

「おはようございます。いかがですか。二日目からは少し店の品出し方法を変えてみました」

「おはようございます。ええ、良い感じになりましたね」

 手を振り返してそっちへ行こうとしたが、残念ながら人が途切れず忙しそうなので笑って下がり、従魔達を横の厩舎で待たせておいて店の中に入って行った。



「おはようございます」

 カウンターに声を掛けると、バッカスさんが笑顔で一礼してくれた。

「ああ、また会いましたね」

 振り返ったアルデアさんがこちらも笑顔で一礼してくれる。

 そして、カウンターの上にはやや短めのヘラクレスオオカブトの角が三本と、ブラックトライロバイトの角が山積みに置かれていた。

「あれ、もしかしてこれで剣を作るんですか?」

「ええ、トライロバイトの角もありますから、これで錬成して貰えば更に良いものが作って貰えますからね」

「代金の一部は、ブラックトライロバイトの角を譲っていただく事で話がつきました。ヘラクレスオオカブトの剣は我らにとっても大仕事ですからね。頑張ります」

 バッカスさんも嬉しそうにしている。

 以前も少し聞いたけど、ヘラクレスオオカブトの剣を打つ際には、作業に入ったら三日三晩炉の火を絶やさず、ぶっ通しで作業をするんだそうだ。

 まず、ブラックトライロバイトの角を粉末状にしたものを特殊な薬液と一緒に加熱して液状にする。出来上がったそれを、ヘラクレスオオカブトの角に塗りつけては加熱するのを丸二日休む事無く繰り返す。すると、二日後にはヘラクレスオオカブトの角は鉄を加熱した時みたいに真っ赤になるので、それにミスリル入りの金属を合わせ、それを一日がかりで叩き続けて剣の形に加工するんだって。この最初の二日がかりの加熱を錬成と呼び、この作業の良し悪しで剣の出来具合がほぼ決まるらしい。

 この作業はさすがに五人だけでは無理らしく、作業にはドワーフギルドから応援が入り、店番にも商人ギルドから応援が入るんだって。

 文字通り、スタッフ総出の作業な訳だ。

 詳しい説明を聞いて、鍛治仕事には全くの素人の俺は、ひたすら感心するしかなかったよ。



「あれ、じゃあ角が三本あるって事は、三人揃って作るんですか?」

「いえ、作るのはアーケルの剣です。私は以前王都でキラーマンティスの剣を作って貰っているのでね。今回は息子の分です」

「良いのがたくさんあるって言うので、選ばせてもらったんです」

 そう言って、一番手前側に置かれた角を撫でながらリナさんも嬉しそうにしている。どうやらその角にしたみたいだ。

「へえ、良かったですね。じゃあ良い剣が出来るように」

 俺もなんとなくそう言って、角を撫でておいた。

 人の剣だけど、新しく作るって聞くとなんだか嬉しくなるよな。

 俺だけでなく、ハスフェル達やオンハルトの爺さんも角を撫でていたから、もしかしたら何か祝福をくれていたのかもね。

 出会いは最悪だったけどその後ちゃんと謝罪してくれたし、彼女は同じテイマーだもんな。

 それに、なんだか憎めない親子だもんな。

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― 新着の感想 ―
[一言] 出来上がりが楽しみですっ(*´∀`*)
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