美少年キャラ登場?
「ああ、ケンさん。おはようございます」
冒険者ギルドに顔を出すと、カウンター横の休憩スペースみたいな場所にリナさんがいて俺を見て手を振っていたので手を振り返す。
そしてそのまま通り過ぎようとしたんだけど、その隣で目を輝かせている小柄な美少年二人を見て俺の足が止まる。
「ええと、もしかしてその隣にいる方って……」
そう、どこから見ても十代の少年二人なんだけど、美少年っぷりが半端ない。
これは。今すぐ雑誌のモデルを飾れるレベルだ。RPGのキャラだったら、シルヴァ達ほどじゃないけどレアは確定レベル。ハスフェル達みたいなどこの石像が動き出したんだよってレベルの肉体美を含む、存在自体が神がかってるイケオジとは正反対の、少女漫画に出てきそうなキラキラ美少年だ。少女漫画なんて読んだ事ないけど何となくのイメージです。
その美少年っぷりは、黙っていれば美少女のリナさんと並んで立ってるだけで、もうそこだけ後光が差してるんじゃね? って言いたくなるレベルにキラキラだ。
だけど、俺やハスフェル達とは耳の作りが明らかに違う。
リナさんと同じく、少し尖っていていわゆるエルフ耳に近い。って事はやっぱりそうだよな?
「ああ、予定より一日遅れて、今朝早くの船で到着したんだ。それで、手持ちのジェムと素材を売りに来たところだよ。紹介するよ。息子のアーケルと夫のアルデアだよ」
「初めまして。アーケルです。すっげえ、すっげえ! 本物の早駆け祭りの英雄だ〜〜!」
リナさんの右側に立っていたやや小柄な方の少年が、そりゃあもうキラッキラに目を輝かせて俺を見上げていた。うん、実年齢は知らないけど、これは間違いなく息子ポジションのキャラだね。
「初めまして。アルデアと申します。息子と一緒に冒険者をしています。リナが大変な失礼をしたのだと聞きました。本当に申し訳ありませんでした。彼女はその、ちょっと思い込みの激しいところがありまして……」
リナさんの左隣に立っていた、彼女よりも少し背の高い少年が妙に大人びた口調でそう言って右手を差し出してきた。
「初めまして、ケンです。ご覧の通りの魔獣使いですよ」
笑顔でそう言い、差し出された手を握る。
小さいがその手は確かに、戦う事を知る硬いタコだらけの手をしていた。
それを見た息子のアーケル君も、慌てて差し出してきたので笑って手を握り返す。こちらもアルデアさんと同じく硬いタコだらけの手をしていた。
それにしても、まさかの旦那と息子まで美少年だったとは。
そして握手を解いたアーケル君の視線は、俺のすぐ後ろにいたマックスに目が釘付けになる。何か言いかけたが、口を閉じてぐっと我慢するかのように目を逸らしてはすぐにまた戻る。
もうその様子は、今すぐ駆け出して飛びつきたいんだけど、俺は大人だから平気さ! ってセリフが字幕付きで見えそうなくらいで、俺だけじゃなくて後ろで見ていたハスフェル達までが小さく吹き出してる。
「あの、後ろにおられるのは、金銀コンビのハスフェルさんとギイさんですよね。それにその隣の方が、オンハルトさん?」
今回の早駆け祭りには間に合わなかったけど、どうやら二人とも前回の早駆け祭りを見ていたらしく、アーケル君だけじゃなくて、お父さんのアルデアさんもキラキラの仲間入りをした模様。
「ああ、ハスフェルだよ。さん付けしなくて良いって」
「ギイだよ。よろしく。同じくギイって呼んでくれればいいぞ」
「オンハルトじゃ、よろしくな」
笑った三人とも握手を交わして話をしようとしたその時、カウンターにいたスタッフさんが苦笑いして軽く一回だけ手を叩いた。
「アーケルさん、アルデアさん、買取をご希望なんですよね? 先ほどからお待ちしているんですが」
「ああ、すみません。お願いします!」
慌てたように息子のアーケル君がカウンターに駆け寄り持っていた収納袋を下ろす。
そう言って取り出したのは、何と恐竜のジェムだったのだ。
大量のトライロバイトのジェムと素材。それからアンキロサウルスのジェムと素材もかなりの数を取り出す。大きなトレーに山盛りに積み上げられたそれらをスタッフさん達が手分けして奥へ運んでいく。
カウンターが片付いてからイグアノドンのジェムもいくつも取り出して並べる。そして最後に取り出したのは、何とステゴザウルスのジェムと素材の背板だった。
それを見て、周りにいた冒険者達にどよめきが走る。
トライロバイト以外は、そう簡単に集められるジェムや素材ではないのは、ここにいるほぼ全員が理解している。
「へえ、これだけあれば、確かに予算は潤沢にありそうだな さすがは上位冒険者だ」
後ろでその様子を見ながら、ハスフェルが感心したようにそう呟く。
「良いじゃないか。腕の良い冒険者には頑張ってもらわないとな。じゃあ俺達は、鍵を返したら飯だな」
ギイがそう行って鍵を別のカウンターのスタッフさんに渡す。
順番に俺達が鍵を返すのを見て、端の方にいた冒険者から声が上がる。
「なんだよ、お前らもう行くのかよ。飲み直す約束忘れたか?」
笑いながらそう言って進み出て来たのは、リナさんの誤解事件解決の密かな立役者のレプスって名前のあの大柄な冒険者だ。
「いや、まだ出ては行かないよ。ケンが郊外に別荘を買ったんでな。せっかくだから、皆でそこに泊まらせてもらうから、こっちは一旦撤収なんだよ」
笑ったギイの言葉に、またしてもどよめきが起こる。
「そりゃあハンプールの英雄だもんな。家ぐらい安いもんだってか。だけど、それなら今後も早駆け祭りには参加してくれるんだな。嬉しいよケンさん。あんただっていつかは定住する気になる時が来るかもしれないからな。その時、候補にここを上げてくれたら嬉しいよ」
笑顔のレプスさんは、どうやらハンプールに定住している冒険者みたいだ。
あちこちからも同意の声が上がり、俺は笑って首を振った。
「まあ将来は未定だけど、とりあえず春にはまた戻って来るよ」
途端に沸き起こる大歓声に、俺達は揃って苦笑いして顔を見合わせていたのだった。
早駆け祭りの知名度、ほんと半端ねえっす。