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乗り物と食事

 握手を解いたハスフェル様は、振り返って落ちている巨大なジェムを軽々と持ち上げた。

 そして次の瞬間、唐突に手の中のジェムが消えて無くなったのだ。

 ええ? どうなったんだ?

 呆然と見ていると、俺の右肩に戻ったシャムエル様が呆れたように俺の頬を叩いた。

「何を驚いているんだよ。君だっていつもサクラやアクアに、ジェムや道具を出したり入れたりしてもらってるじゃ無いか」

「ああ! 収納の能力か!」

 納得して、足元に来て跳ねているサクラを撫でてやった。

「さすがは、神様の化身だね。収納は標準装備なんだってさ」

「言っておくが、ここでの人である俺は、ただの冒険者だぞ。呼ぶ時も、様付けは無しで頼む」

 ええ、正体を聞いた今更呼び捨てって……。

「様付けは無しで頼む」

 もう一度言われてしまい、しぶしぶ頷いた。

「了解。じゃあ、改めてよろしくな。ハスフェル」

 俺達は、上げた手を打ち合わせて笑い合った。


「あ、マックスが戻って来たよ」

 ニニの声に振り返ると、少し離れた所で立ち止まったマックスが、遠慮がちにこちらを見ていた。

「おかえり。何してるんだよ。こっち来いよ。新しい仲間を紹介するからさ」

 手招きして呼んでやると、尻尾を振って駆け寄って来た。それを見て上空を旋回していたファルコも、降りて来ていつもの定位置の左肩に留まる。どうやら、見慣れない人が一緒にいたから、警戒していたらしい。


 全員集合したところで、ハスフェルに俺の仲間達を順に紹介していく。


「なかなかにバランスのとれた仲間(パーティ)ではないか。しかしそうなると、俺も乗り物がいるな」

 ニニの首元を撫でてやりながら、ハスフェルがそんな事を言う。

「お前と一緒なら、ハウンドをテイムしていても騒ぎにならないな。よし、せっかくだからお前も来るか?」

 マックスとニニを見ながら何か考えていた彼は、不意に顔を上げて満面の笑みになった。いや、何その悪そうな笑みは……。

「ええと、何処へ行くんですか?」

 早くも逃げ腰になりつつ尋ねると、振り返って南東にそびえる山を指差した。

「俺の乗り物にするハウンドをテイムしに行くんだよ。俺だけ歩きも悔しいからな」

 これ以上、大型種を増やしてどうするんだよ。って脳内のツッコミを明後日の方向にぶん投げて、俺は大声で返事をした。

「はい、行きます!」

「よしよし、元気で何より。じゃあちょっと戻ろう」

 そう言うと平然と歩き出したのだ。

「あ、なあマックス。彼も乗せてやっても良いか? それとも、ニニでも乗れるかな?」

 慌てて呼び止め、相談の結果、魔獣をテイムするまで、しばらく彼はニニの背中に乗せることになった。

「私は別に、街まで彼を乗せてても構わないけどね」

 ハスフェルを背中に乗せて走りながら、ニニが笑いながらそんな事を言う。

「ありがとうな。だが一度、大型種の魔獣をテイムするところを彼に見せておくべきだろう。もしも誰かに聞かれたら、今だと、どうやるのか答えようがないだろうが。出身地にした影切り山脈の樹海にしてもそうだ。そこがどんな所かすら全く知らぬのだろう? シャムエル、お前は相変わらず計画が大雑把に過ぎるぞ。もう少し後の事も考えろ」

 真顔のハスフェルに言われて、シャムエル様は頭を抱えている。はは、やっぱり友達からも大雑把って言われてるんだ。俺の予想通りじゃんか。

「そんな事ないよ。一応、彼を作る時はかなり細かく頑張ったんだからね!」

「いや待て、一応ってなんだよ! 一応って!」

 思わず叫ぶ俺を見て、シャムエル様とハスフェルは同時に吹き出した。

「まあ確かに気持ちは分かるぞ。一応確認したが、特に問題はなさそうだからな。安心しなさい」

 苦笑いしたハスフェルに言われて、俺も苦笑いしながら頷いた。

「第三者に大丈夫だって言ってもらえたら、何だか安心しましたよ」

「酷い!ケンは私よりハスフェルの言葉を信用するのかい!」

 笑いながら、俺の頬をパシパシと叩く。

 痛いから、そのちっこい手で叩くのはやめてください。

「あはは、ごめんごめん。だけど俺も実は思ってた。シャムエル様って結構大雑把だなって」

 その言葉に、ハスフェルがもう一度吹き出す。

「おいおい、お前さんこいつに何をしたんだよ」

「何もしてないよ! 私が一体何をしたって言うんだよ。ケン!」

「ええ、そんなのいちいち覚えてないくらいあるよ!」

 俺の叫びに、またしても三人同時に吹き出したのだった。




 その日は彼の案内でひたすら山に向かって走り続け、日が暮れる少し前に、ハスフェルの指示で野宿する事になった。

 途中、野宿する際に適した場所と、適さない場所、危険な場所などの見分け方を色々と教えてもらった。

 河原の野営は原則禁止。上流で雨が降ったりすると急な増水の危険があるからだ。同じ理由で谷底での野営も危険、等々。

 まあ、その辺りは俺の知識と大差無かったよ。一安心だね。


 その日、野営の場所にしたのは、林のすぐ横のなだらかな草地だった。今は季節的に春から夏の間ぐらいらしく、一番過ごしやすい季節らしい。真冬はどこかの街に落ち着きたいな。話を聞く限り、雪が降ったり霜が降りるのもよくある事らしい。

「雪中キャンプ……まあ、いざとなったらそれもやるけど、出来れば寒い時期は屋根のあるところで寝たいよ」

 思わず呟くと、ニニの背中から降りて来たハスフェルが笑っている。

「別に良いんじゃないか? 期限の決まった急ぐ旅で無し。無理に先を急いで体調を崩す方が問題だ。俺のような居場所を決めない流れ者の冒険者は、初雪が降る前には、その冬の間だけ住む街を探すぞ。宿を取るなら早めに押さえないと、街によってはあっと言う間に宿がいっぱいになるからな」

「おお、ありがとうございます。気を付けます」

 確かに、こいつらを連れていると泊まれる宿を探すのはかなり難しそうだもんな。うん、無理せずギルドの力を借りよう。

「まあ、嫌でなければギルドを頼るのが一番無難だろうな。特にケンの場合は従魔達がいるから、宿も絞られる。ギルドの宿泊所を借りて自炊するのが一番良いだろうな」

 手早くテントを取り出す彼を見て、俺も急いでサクラに頼んで色々と出してもらった。

 大型のテントを張り出す俺を見て、ハスフェルは小さく吹き出した。

「従魔達まで一緒に中で休むのか。そりゃあ凄い。良かったな、優しい飼い主で」

 笑いながらマックスの鼻面を撫でていた。

 机と椅子を出す俺を見て、今度は遠慮なく大きく吹き出す。

「野営にそんな装備持って来る奴初めて見たぞ。だけど良いなそれ。俺もやろう」

 笑う彼を見て、小さい方の椅子と机も出してやると、大喜びしていた。


「ええと、ハスフェルは食事は何を食べてるんだ?」

 敬語も無しと言われたので最初は戸惑ったけど、もう普通に話している。

「何って、携帯食だよ。野営なんて、お茶を淹れる程度で大したことは出来ないだろうが」

 それを聞いて、俺は満面の笑みになった。

「じゃあさ、色々教えてもらってるし、剣術の指導もしてくれるって言うから、旅の間の飯は俺が一緒に作ってやるよ。普通に食えるんだろう?」

「もちろん、この体は人と変わらん」

 その言葉を聞いて、俺は嬉しくなった。マックス達はいるけど、基本ずっと一人飯だったからね。


 手早く簡易コンロを取り出す俺を、彼は椅子に大人しく座って感心したように見ている。

「ほう、料理が得意なのか」

「得意って程じゃないけど、まあ一人暮らしが長かったもんでね。一通りの事は、だいたい自分で出来るよ」

「彼が作る料理はどれも美味しいんだよ!」

 目を輝かせるシャムエル様の言葉に、彼も笑顔になった。

「皿を並べるくらいしか手伝えそうに無いが、手がいる時は言ってくれ」

「了解。まあ今はそこで見ててくれよ」

 期待に満ち満ちた目で見られてしまい、簡単に済まそうかと思ってた俺はちょっと焦った。

 さてと、それなら、ガッツリ肉でも焼く事にするか。

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