お休み一日目
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
ショリショリショリ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きる……」
翌朝、いつもの如くモーニングコール担当総出で起こされた俺は、半ば無意識で返事をしながら何か引っかかる理由の分からない違和感に寝ぼけた瞼を開こうとした。
しかし、起きようとする俺の気持ちとは逆に、襲って来た眠気に抗えず、俺の意識は二度寝の海へ真っ逆さまに墜落して行ったのだった。
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
ショリショリショリショリ……。
ふんふんふんふんふん!
ふんふんふんふんふん!
ふんふんふんふんふん!
「うん、起きる……起きて、ます……」
二度目のモーニングコールにも、やっぱり理由の分からない違和感に俺は呻き声を上げてなんとか起きようとした。
「相変わらず寝汚いなあ。ね、分かったでしょう。料理の腕はとっても優秀なんだけど、とにかく朝が駄目なの。もう壊滅的に駄目」
「本当ですね。話に聞いた時は冗談だと思ってましたが、本当に起きませんね」
耳元で、シャムエル様と話してるのは誰だ?
寝ぼけた頭で必死に考えていた時、額の生え際と上唇、それから耳たぶの辺りを一斉にちょびっと噛んでつねられた。
今朝の最終モーニングコール担当はお空部隊だったか!
「痛い痛い痛い! やめて、やめて! 起きます、起きますってば〜〜!」
飛び起きて情けない悲鳴を上げる俺。
羽ばたく音と共に痛みが無くなり、そのまま勢い余ってニニの腹から転がり落ちる。
「ご主人、危ないですよ」
マックスがそう言ってベッドから転がり落ちるのは止めてくれたんだけど、その大きな前脚が俺の鳩尾の辺りに豪快にヒットして、代わりに腹の痛みに悶絶したよ。
そりゃあ俺の寝起きが悪いのが全ての原因なんだけどさあ。
いくら何でも、毎朝これって……ちょっとハード過ぎじゃね?
「おはよう。やっと起きたねえ」
ようやく痛みから復活して転がったまま天井を見上げていると、胸元にシャムエル様がよじ登ってきた。
「おう、おはよう。朝からハード過ぎるよ」
「ケンがすぐに起きればすむ事です!」
「おう、お説ごもっともです」
正論にぐうの音も出ない。
「顔洗ってくるよ」
大きく伸びをして欠伸をしてから立ち上がって水場へ向かう。
顔を洗ってからサクラに綺麗にしてもらい、当然のように跳ね飛んでくるスライム達を順番に二段目の水槽に放り込んでやる。
「お水くださ〜い!」
お空部隊が全員揃って飛んできて羽を広げてアピールするので、手ですくって水をかけてやる。
「放水しま〜す」
水槽の中にいたアクアの声と共にスライム達が水を吹き出し始める。
「うわあ、ちょっと待って!」
慌てて下り、走ってきたマックスとテンペストとファインの狼コンビに場所をゆずる。
大喜びで水遊びをする従魔達を見て、ため息を吐いた俺は小さく笑ってびしょ濡れになった手を振った。
「ごめんねご主人、綺麗にしま〜す」
サクラが跳ね飛んで来て、一瞬で俺を包んで綺麗にしてくれる。
「おう、ありがとうな」
笑って撫でてやり、もう一回水槽の中に放り込んでやる。
あちこちから噴水みたいに水が吹き上がって、水場はなんだか大変な事になってる。
「後は綺麗にしとけよ〜」
「はあい、綺麗にしま〜す!」
元気な返事が聞こえて、笑った俺は一足先に部屋に戻った。
手早くいつもの防具を身につけ、剣帯を絞めて外していた剣を装着する。
『おはよう。もう起きてるか?』
念話でハスフェルの声が聞こえて顔を上げる。
『おう、おはよう。今準備が終わったところだ。朝はどうする?』
声に出しかけて、慌てて念話で返事をする。
『おはよう。ここを引き払って、屋台で何か食ってからそのままあの家に行ってみるか?』
『おはよう。それで良いんじゃないか』
『了解、じゃあ廊下に出るよ』
ギイとオンハルトの爺さんの声も聞こえた後、それぞれの返事が聞こえて気配が消える。
「おおい、もう出かけるから終わりにしろよ」
水遊びしているマックス達に声をかけてやり、庭に出ているベリー達を振り返る。
「ベリー、もう出るけど、渡してある果物の在庫はまだ大丈夫か?」
最近では、サクラに頼んで定期的にベリーに予備の果物を渡すようにお願いしている。
「ええ、まだ大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「カリディアの分もよろしくな」
「ええ、もちろんです。それにしても一人の人間に三人もの幻獣がそれぞれ自発的に忠誠を誓うなんてね。私も初めて見ますよ。しかもそのうちの二人は、普通ならば人間などには決して懐かないはずの相当上位の幻獣だなんて。やはり貴方は只者ではありませんね」
今、さりげなく爆弾発言をされた気がするけど、忠誠を誓うって……。
無言で、机の上でシャムエル様と並んで座り、尻尾のお手入れに余念がないカリディアを見る。
視線を感じたのか、顔を上げたカリディアが目を細めて嬉しそうに笑う。
「おはようございます。私もモーニングコールチームに志願しましたから、これからは頑張って毎朝起こして差し上げますからね」
その言葉に、さっき起こされた時の違和感の正体が分かった。
そっか、シャムエル様と一緒に俺の額をぺしぺしと叩いていたのはカリディアだったんだな。
口を開きかけた時、笑ったハスフェルの声が聞こえた。
『おおい、まだ出て来ないのか。置いていくぞ』
「ああ、ごめんごめん、今行きます。それじゃあギルドへ行って鍵を返して食事をしたら、改めて買った家を見にいくぞ」
そのまま声に出して返事をした俺は、従魔達を全員連れて大急ぎで廊下へ出て行った。
最後に部屋を出たベリーが鍵を閉めてくれ、俺達はそのまま鍵を返しにまずはギルドへ向かったのだった。