買い物終了!
「ふむ、これなら何とかなりそうですな。これでよろしいですか?」
どうやら話し合いは終わったらしく、いきなり激論モードから営業モードに戻った店長さんにそう言われて、ちょっと涙目になってた俺はウンウンと頷いた。
「あの、それならもう良い機会なので、縁取りの有りと無しと両方買いますから、両方一緒に直して頂けますか」
「ありがとうございます。色はいかがなさいますか?」
改まって聞かれて困ってしまう。俺的には薄茶色一択なんだけど、どうやら店長だけでなくアルバンさんまでが薄紫と薄緑を勧めてくる。
専門家二人が揃って進めるのならと、恐る恐る両方羽織ってみて分かった。確かにその色の方が薄茶色よりも顔色が良く見えるんだよ、専門家凄え。
しかも紫や緑って言ってもすごく薄くて優しい色だから、着ても派手って感じは全然無い。それどころかこれってすごく自然な色だから、郊外へ出たら案外遠目に見たら目立たないんじゃないかと思えるくらいだ。
って事で相談の結果、縁取りのある方を薄紫にして、普段使いは薄緑に決定。
激論の末に決定したデザインで、ファルコ用の止まり木を出しても大丈夫なように補正をお願いした。
三日で出来るんだって。早い!
「お待たせ。じゃあ後は……何、お前らも買うのか?」
どうやら待っている間にハスフェル達も店内を勝手に見ていたらしく、同じような冬用のマントをそれぞれ手にしている。
「へえ、それはまた変わった革だな」
ハスフェルが持ってるのは濃い茶色の鱗っぽい模様の入った革で、これにも真っ白な縁取りがついててフード付きの長めのマントになってる。
軽く羽織ると、もう王者の風格って感じでめっちゃ格好良くて、実はちょっと見惚れたのは悔しいから内緒だ。
ちなみに、ギイが持ってるのは真っ黒な艶消しの革に黒の縁取りが付いたフード付きのマントで、これまた腹が立つくらいに似合ってる。
しかも二人が選んだマントは明らかにサイズがデカい。大柄なハスフェルやギイでも余裕で大丈夫なサイズがあるって、考えたら凄え品揃えだね。
どうやら二人もそれが嬉しかったらしく、他にも何かないかと嬉々として店内の展示品を探し回っていた。その嬉しそうな後ろ姿を見て、何だかちょっと可愛いと思ったのも内緒な。
それからオンハルトの爺さんは、何と明るいオレンジにクリーム色っぽい縁取りのついたフード付きのマントを選んだんだけど、これが何と意外に良く似合っていて驚いた。
「そっか、確かにアウトドアの上着ってオレンジとか黄色も多かったな。へえ、意外に男性でも似合うんだ」
感心しつつ首を振る。さすがにあの色を俺が着る勇気は無い。
結局、マント以外にも俺は消耗品として靴下を数枚と、下着も良さそうなのがあったから適当にまとめて購入しておいた。
全部まとめて会計をしようと、奥のカウンターへ行こうとした俺の足が止まる。
「ん、どうした?」
隣を歩いていたハスフェルが立ち止まった俺に気付いて止まってくれる。
「いや、ちょっと待ってくれるか。あれって使えそうだと思ってさ」
そう言いながら駆け寄ったのは、スカーフとか大判のハンカチっぽい色んなサイズの布を販売しているコーナーだった。
デザインは、いかにも女性向けって感じの花柄みたいな薄手のスカーフっぽいのから、唐草模様みたいな柄、アレ何て言うんだっけ? 何とかリー……あ、そうそう、ペイズリー柄だ! そのペイズリー柄のバンダナみたいなのまで、本当にものすごく沢山の種類がある。
「ほお、まあ首元にあったら良いんじゃないか? どうした、急にお洒落に目覚めたか?」
覗き込んだハスフェルにからかうようにそう言われて、笑って首を振る。
「違うって、ほら、シルヴァ達用の祭壇の机に掛けてる布って、ここへ来てすぐにシャムエル様に貰ったのを成り行きでそのまま使ってるからさ、無地だし飾りっ気ゼロだしちょっと寂しいかと思うんだよな。せっかくの祭壇なんだから、せめて綺麗な柄の布があれば敷布に出来るかなと思ってたんだよ。これなら使えそうじゃね?」
小さな声でそう言うと、ハスフェルだけでなく、ギイとオンハルトの爺さんまでが驚いたように揃って振り返った。
「いや、そこまで反応するような事か?」
過剰なまでの反応に苦笑いしながら、ぎっしり箱に畳んで詰め込まれている在庫の布の束を見る。
「こういうのって俺の一番不得意な部門なんだよなあ。どれが良いと思う?」
「お前が選んでくれたのなら、それこそ芋虫の柄でもあいつらは喜ぶと思うぞ」
「それは俺が嫌だから却下します」
真顔のハスフェルの言葉に、俺も真顔で返す。
直後に同時に吹き出した。
「ちょっと見てくれよ。どれが良いと思う?」
もう一回そう尋ねたんだけど、三人とも笑って見ているだけで手を出して来ない。
シャムエル様までが在庫の横で目を輝かせて見ているだけで、何だか全員からの期待の目線が痛いっす。
「ええと、どれにしようかな?」
誤魔化すようにそう言いつつ束になった布を順番に見ていく。
「あ、これ良い感じ」
取り出したのは、今使ってる布と同じくらいの大きさの正方形のやや厚手の布だ。
若草みたいな綺麗な緑色の背景に、金色っぽい蔓草が中心にある丸い模様から外向きに綺麗に絡まり合いながら広がり、上下左右に対象に展開するようになって四角い布のギリギリまで円形に模様が広がっている。円の縁には枝の先に実っていた赤い実が鈴なりなるように丸く取り囲んでいて、四隅の三角の空間には動物達が描かれていた。犬、猫、ファルコのような猛禽類だから多分オオタカ、そして何故かリス。
真ん中の丸をスライムだと思ったら、まるで旅の始まりの頃の俺の従魔達とシャムエル様そっくりになる。
「ああ、良いねこれ。うんうん、これにしようよ」
シャムエル様が嬉しそうにそう言ってくれたので、その布を一枚取り出す。
「すみません、これも一緒にお願いします」
スタッフさんに手渡して一緒に会計してもらう。
俺の分のマントは、お直しの受付の伝票をもらう。これは三日後に受け取りだな。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「ありがとうございました!」
笑顔の店長さんとスタッフさん達に見送られて店を後にする。
「お疲れさん。それじゃあ俺はギルドに戻るよ。午後からはちょっと予定が詰まってるんでね」
「了解です。わざわざありがとうございました。おかげで皆良い冬装備が手に入りました」
「これくらいお安い御用だよ。それじゃあ」
笑顔で手をあげたアルバンさんがギルドへ戻っていくのを見送り、俺達も何となく顔を見合わせて笑い合った。
「じゃあ買い物も無事に全部済んだ事だし、クーヘンの店へ行こう。マーサさんが行って待ってくれてるってさ」
「人の店を待ち合わせ場所に使うなってな。ああ、そういえばジェムの在庫を聞いてなかったけど、まだ大丈夫かな?」
「ああ、確かに忘れてるな。じゃあ後でついでに聞いて、減ってるようなら後三日もあるんだから改めて追加してやればいいさ」
「だな、じゃあまずは今日のところは家の見学だな」
「実は本物の幽霊が出たりしてな」
俺の言葉に笑ったギイが、何故だか嬉しそうにそんな事を言う。
「待て待て。もう騒動はごめんだよ。変なフラグを立てるな! 郊外の優雅な別荘の夢を壊すんじゃねえよ」
俺の抗議に、全員揃って堪える間も無く大きく吹き出したのだった。
フラグ?
そんなもん俺がへし折ってやるぜ……って、希望的観測を述べてみる。
そしてこれがまた、この後とんでもない展開になったんだよ。あはは……。




