朝の色々
翌朝、いつものごとくモーニングコール総出で起こされた俺は、なんとか起きていつもの水場で顔を洗った。
「はあ、やっぱりニニやマックスとくっついて寝るのが良いなあ。何が違うんだろう?」
サクラにいつものように綺麗にしてもらい、跳ね飛んでくるスライム達を下の段の水槽に放り込んでやりながら、のんびりそんな事を考えていた。
「ご主人、お水ください!」
水槽の縁に留まって羽を広げて水浴びをせがむお空部隊の面々。
「おう、じゃあ行くぞ」
手で水をすくってバシャバシャと水をかけていてふと思った。
「なあ、例えばサクラが水槽の水を吸って吐き出したり出来るか?」
「えっと、どんな風に吐き出すの?」
肉球マークが少し曲がったので、多分首を傾げてるんだと思う。
「こんな感じに出来るか? 出来ればもうちょっと細かい水をたくさん出す感じで」
そう言って、俺は両掌を合わせてその中に水を入れて指の間から吹き出してやった。子供の頃、水遊びでやった手でする水鉄砲だ。打てるのは一回だけなんだけど、これって出来る奴と出来ない奴がいて、何故かこれが出来ると人気者になったんだっけ。
「それなら簡単に出来るよ〜!」
嬉しそうにそう叫んで水槽の中に潜ったサクラは、すぐに出てきた。
「じゃあ行くよ〜!」
そう言って、いきなりシャワーよろしく、鳥達に向かって勢いよく粒状になった水を吹き出したのだ。
うん、これはまさしくシャワーだよ。
当然皆大喜びで羽ばたいて、なんだか大変な大騒ぎになってる。
「こっちもこっちも!」
次々にスライム達が水槽から出てきて水を吹き出し始めた。
水場がいきなり、あちこちから水が噴き出す噴水だらけになった。
「ちょっとお前ら、いくらなんでもやりすぎだって! 水漏れしたらどうするんだ〜! あ、ここ一階か。じゃあ大丈夫だな」
地下室があるって話は聞かないので、大丈夫だろう。多分。
お空部隊だけでなく、マックスや狼達まで集まってきて、水の周りはなんだかもう大変な事になってる。
「程々にな。後片付けはちゃんとするんだぞ」
「はあい、了解です!」
アルファとアクアが揃って敬礼した後、また豪快に水をぶっ放し始めた。
跳ね飛んできたサクラに、もう一度びしょ濡れになった服と体を綺麗にしてもらい一緒に部屋に戻る。
「なんだか、とんでもない事を教えた気がするなあ」
苦笑いしつつ、身支度を整えながら水場で大はしゃぎしている従魔達を眺めて和んでいると、ハスフェル達から念話が届いた。いつものトークルーム開放状態だ。
『おはようさん。もう起きてるか?』
『おう、もう準備出来てるよ』
最後の剣帯を身につけながらそう伝える。
『おはようさん。俺も準備出来てるぞ』
『おはよう。俺も出来てるぞ』
笑ったギイとオンハルトの爺さんの声も伝わる。二人ももう準備出来てるみたいだ。
『じゃあ今朝は屋台で食って、その後はどうする? 俺達も家は一緒に見に行くほうがいいか?』
『せっかくだから一緒に行こうぜ。出来ればいろんな人の目で見た意見も聞きたいよ。俺だって家を買うのなんて初めてだからさ。あ、でも午前中は買い物予定だから、宿泊所に戻っててくれても良いぞ』
一応気を使ってそう言ったんだが、どうやら三人とも買い物にも付き合ってくれるみたいだ。笑った気配がしてそれぞれの気配が消える。
「じゃあ今日は一緒にお出かけだな。この街に家を買う事になりそうだから、お前らの意見も聞かせてくれよな」
「おや、ご主人はここに定住するんですか?」
不思議そうなマックスの言葉に、俺は笑って首に抱きついてもふもふを堪能しながら、早駆け祭りの時に皆で住めるように考えてることを話した。
「それは楽しみですね。どんな場所なのか、私達も楽しみにしてます」
尻尾を扇風機状態にした嬉しそうなマックスの言葉に、他の従魔達も何やら興奮して大喜びしてる。どうやら庭が広いってところに反応したみたいだ。
「大丈夫だとは思うけど、お前らの目で見て何か問題がありそうだったら教えてくれよな」
「了解です!」
全員揃っての大張り切りの返事に、たまらず吹き出した俺だったよ。
『おおい、行かないのか? 置いていくぞ』
笑ったハスフェルの念話に、俺は慌てて従魔達と一緒に廊下に飛び出した。
「ごめんごめん。家を買う話を従魔達にしてなかったからさ。ちょっと詳しく説明してました」
「ああ、確かに俺達とはまた違った目で見てくれそうだな。良いじゃないか、よく頼んでおけ」
笑ったハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんも揃って頷いてる。
そのまま全員揃っていつもの広場の屋台で朝食を食べて、屋台に出ていたタマゴサンドをありったけ買い込んでからからそのまま朝市の通りへ向かった。
アクアゴールドには小さくなって鞄に入ってもらっているので、マックスとニニをハスフェル達に預けて身軽になって、まずは朝市で足りなそうな果物を中心にありったけ買い込んだ。
「あ、昨夜ギルドに栗が届いてるかどうか戻ったら確認しようと思ってたのに、すっかり忘れてたよ」
期間限定の栗の専門店の屋台を見た時、その事を思い出して慌てた。
「ああ、おはようございます。昨夜お届けしたんですけどいらっしゃらなかったようなので、ギルドにお届けしていますけど……」
屋台のスタッフさんが、俺を見つけて笑顔で手を振ってくれる。
「うわあ、やっぱりそうだったんですね。ごめんなさい、後で確認しておきます。ええと、お金は足りましたか?」
一応しっかり渡してあったんだけど、もしかして足りてなかったらギルドが立て替えてくれた?
「ええ、大丈夫でしたよ。大粒の良いのをたっぷりお届けしましたので、それじゃあ後で確認しておいてくださいね」
若干少ない品揃えを見て、なんだか申し訳なくなってそのままお礼を言って移動した。
「すっかり忘れてた。昨夜戻ったら確認するつもりだったのに、気持ち良くそのまま寝ちゃったよ」
「確かにそんな事を言ってたな」
「まあ、酔ってると色んな事を忘れるもんだよ」
「昨夜はその上腹もいっぱいだったからなあ。そりゃあ忘れもするさ」
三人がそんな俺を見て笑ってる。
「じゃあ、買い物はこれくらいだから、一旦ギルドへ戻って栗を受け取ったらアルバンさんのところだな」
鞄を背負い直してそう言うと、忘れていた栗を受け取るために冒険者ギルドへ向かった。
相変わらずの大注目だったけど、祭りの前ほどの騒ぎにはなっていないので、もう気にしない事にしておく。
「さて、このあとは俺の冬用マントの買い物だよ。だけど考えてみたら、ここへ来て服を買うのってもしかして初めてじゃね?」
出してやった焼き栗を俺の肩に座って齧っているシャムエル様の尻尾を突っつきながら。俺はのんびりとそんな事を考えてた。
まあ、なんであれ買い物は楽しいよな。