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家を買う?

「なあ、無事にバッカスの店も開いた事だし、もうそろそろ次へ向かうか?」

 ハスフェルが、支配人おすすめの地元特産のワインを飲みながらそんな事を言ってる。

「よし、行こうぜ! って言いたいところだけど、栗の配達を頼んでるから、それを受け取ってからじゃないと行けないんだよな。宿泊所にいなかったら、冒険者ギルドに届けておいてって頼んでおいたから、もしかしたら帰ったら届いてるかも」

 俺も白ビールを飲みながらそこまで答えて思い出した。

「あ、そうだ。なあなあ、ここに家を買うって言ってたあれ、予算を提示してマーサさんに話だけでもしておきたいんだけどどう思う? もちろん良さそうなのがあればすぐに契約してもいいし、お願いしておけば次に来る時までに探しておいてもらえるだろう?」

 俺の言葉に、クーヘン達と話をしていたマーサさんがものすごい勢いで振り返った。さすがは商売人。儲け話は聞き逃しませんって?

 そして、ギルドマスター達も飲んでいたのをやめて真顔で一斉にこっちを見たよ。

 おいおい、皆、機嫌良く酔っ払ってたんじゃあ無いのか。ちょっと、その変わりようは怖いんですけど。

「ああ、それならエルに頼んでまずは青銀貨を発行してもらえ。お前なら間違いなく、最高位の青銀貨を喜んで発行してくれるぞ」

「あはは、確かにそうだな。ええと……」

 振り返ると、マーサさんとエルさんとアルバンさんが俺のすぐ後ろに揃っていた。



 いつの間に移動したんだよ。瞬間移動レベルの早さだぞ、おい。

 満面の笑みの三人に取り囲まれる俺を見て、ハスフェルが遠慮なく吹き出す。



「じゃあ今すぐ出発ってわけにはいかんな。それならまずは、ギルドへ青銀貨の発行をお願いしてからマーサさんに話だけでもしておけ。青銀貨を発行してギルドに管理しておいてもらえば、良さそうな家が見つかったら、ここを出発した後でもギルドを通じて伝言が届くからな」

「何それ?ギルドから連絡ってどうやるんですか?」

 初めて聞く話に、驚いて後ろのエルさんを振り返る。

「ああ、各街のギルドには、念話での連絡網が完備されているからね。まあ誰でも使える訳ではないが、ギルドマスター権限では使う事なんかはある。例えば、ほら、君を襲った例の六人殺しのケンガル兄弟とかみたいに、明らかな犯罪を犯した冒険者が出た場合なんかに指名手配書と共に内容が各ギルドに通達されるんだ。そうすればもう、どこの街へ行ってもギルドカードは抹消されて再発行は出来なくなってたりするわけ」

 にんまりと笑ったエルさんの説明に、俺だけでなく隣で黙って聞いていたリナさんも驚いてエルさんを見ている。

 成る程、それは確かに大事な事だな。ギルド凄え。

「後は、今のように大きな金額が動く契約の場合なんかも、お願いしておけば連絡が来たりするな。今回の場合なら、俺達はバイゼンで冬を越す予定だろう。それを知らせておけば良さそうな家が見つかれば、バイゼンの冒険者ギルドに連絡が来るわけだよ」

 後をついだハスフェルの説明に、エルさんだけでなくアルバンさんやドワーフギルドのギルドマスターも笑って頷いてる。冒険者ギルドだけじゃなく、各ギルド共通の便利な連絡網みたいだ。

「へえ、そりゃあ良いな。じゃあ青銀貨の発行とマーサさんに物件探しをお願いして、あとちょっと買い物をして、栗が到着すればバイゼンヘ出発かな?」

 シャムエル様が、冬用のマントを買うならバイゼンよりここで買うのがいいって言ってたのを思い出してそう付け加える。うん、これも後でアルバンさんに聞いてみよう。

「それで良いんじゃないか? まあ、予定は未定ってな。今のところ、こう言ってて予定通りに進んだ試しが無いけどなあ」

 ギイのまぜっ返しに俺とハスフェルが堪えきれずに吹き出し、揃って大笑いになったよ。

 確かに予定は未定。まあ、今後どうなるかは成り行き任せだね。




「それで、今の話を詳しく聞かせとくれ。ケンさんが家を買うって?」

 食い気味のマーサさんに詰め寄られて、イナバウアー再びになる俺。

「待って待ってマーサさん。近い近い!」

 慌てて下がってくれたので、なんとか腹筋を駆使して起き上がった俺を見てハスフェル達が大笑いしてる。

 机の下で脛を蹴っておき、マーサさんに向き直る。

「ええと、そうなんです。この街も結構気に入ってるんで、まあ別荘くらいの気持ちですよ。早駆け祭りで戻って来た時に住める家があれば良いなあ、と考えてましてですね」

 その言葉に、マーサさんだけでなく、エルさんとアルバンさんまでが揃って拍手してる。

「もちろん、冒険者ギルドからはハスフェルが言ってたように最高クラスの青銀貨を発行するよ。ギルドへ来てくれれば、いつでも契約に立ち会うからね」

 満面の笑みのエルさんにそう言われて、俺はもう笑うしかない。

 まあ、確かに口座の残高を考えれば、どんな家でも即金で買えるよなあ。そして、シルヴァ達が寄越してくれたあの金貨の山もあるし。

「それで、ケンさんはどんな家を希望するんだい? 責任をもって提案させてもらうよ」

 身を乗り出すマーサさんを抑えながら、ちょっと考える。

「ええと、ご存知の通り予算は潤沢にありますので、クーヘンの店の時より余裕で出せますよ。それで俺の希望としては、やっぱり従魔達がいる事を考えたら、郊外でも構わないので出来るだけ庭が広い家が良いです。建物は古くても構いませんから、部屋数はそれなりにお願いします。こいつらのための部屋と、それからほら、シルヴァ達が来た時にも泊まってもらいたいし」

 頷いたマーサさんが俺の言葉に腕を組んで真剣に考え始める。そして何故か、その隣でエルさんとアルバンさんまでが同じように腕を組んで考え始めた。



「マーサ。こう言っちゃあなんだが、例の物件が今の条件全てに当てはまるんだけどなあ」

「今、私も考えてるんですけど、確かに今の条件全てに当てはまりますね」

 アルバンさんの言葉に、マーサさんも苦笑いしながら頷いてる。

 ん? 何か問題のある物件なのか?

「そうだよねえ。予算的にも大丈夫だろうし、これは、是非一度見てもらって彼の意見を聞くべきでは?」

 エルさんの言葉に、マーサさんは頷き俺を見上げる。

「ケンさんが今言った条件全てに当てはまる物件が一つ有るんですが、少々問題のある物件なんです」

 その言葉に俺の頭をよぎったのは、いわゆる事故物件って言葉だ。

 幾らなんでも、元血みどろのスプラッタとかはやだなあ……。

「ええと、どの辺が問題ありなのか、聞いても良いですか?」

「安心しとくれ。別に事故物件ってわけじゃあないからね」

 ドン引きしている俺の顔を見て苦笑いしたマーサさんが、まずはそう言ってくれて俺は密かに安心した。

「郊外の、川沿いにある小山の頂上の古い屋敷で、元は貴族の別荘地として建てられたものだよ。だから見晴らしは抜群だね。その高台から麓まで、要はその屋敷の建つ小山ひとつ分が全部庭として管理されてるから敷地はかなり広いよ。しかも高低差があるからケンさんの従魔達ならきっと大喜びすると思うね」

「おお、なんだか良さそうな物件じゃあありませんか。で、何が問題なんです?」

 ちょっと乗り気になった俺だったが、次の言葉にまたしてもドン引きする事になった。

「いやあ、実際にはそんなの出ないんだけどね。こう呼ばれてるんだよ。幽霊屋敷ってね」

 そして、何故かそこで悲鳴を上げたのは、俺じゃなくて隣で黒ビールを飲んでた草原エルフのリナさんだったよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ケンが別荘を購入する事になりましたね。 ケンの条件は従魔達がのびのび出来る広い庭付きの別荘で、マーサさんやギルマス達によると、条件に合う小山一つ分の広い庭付きの屋敷が有るらしいですが…。 幽…
[一言] 幽霊屋敷とな(;・ω・) ケン君ビビりやからどうなん? 神様ついてるから図太い幽霊じゃなきゃ 現れんと思うけど。
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