和解と打ち上げの始まり
「はあ、分かりました。どうやら完全に私の思い込みだったみたいですね。私はその……昔から仲間にいつもからかわれてました。お前は思い込みが激しくてすぐに暴走するって。最近は大丈夫だったんですけど、久々にやらかしたみたいですね。本当に申し訳ありませんでした」
まだ赤い顔を上げた草原エルフの彼女は、大きなため息を吐きつつ立ち上がり、そう言って俺に向かって深々と頭を下げた。
「どうやら誤解は解けたみたいだね」
完全に面白がってる口調のエルさんにそう言われて、俺も苦笑いしつつ頷く。
「確かに思い込みは激しそうだな。だけど、人からの意見を聞き入れて考えを改められるんなら大丈夫だって。誤解が解けて良かったよ」
我ながらお人好しの台詞だなあと感心しつつも、そう言って笑う。
うん、俺はやっぱり理由は何であれ、正面切って人と争うのは好きじゃないよ。なんていうか、こう……精神にくる。色々と無理だ。
今回はまだ、すぐに話し合って理解し合える相手で良かったと思っておこう。
「さて、誤解も無事に解けたみたいだな。それじゃあ早く飯にしようぜ、俺は腹が減ったよ」
ギイの言葉に、笑ったハスフェル達も揃って頷く。
「その意見には同意しかないよ。俺も腹が減った。じゃあ、もうこれにて無事に話し合いは終わりだな」
俺も立ち上がって部屋を出て行こうとすると、さっきと逆にエルフの彼女に袖を掴まれた。
「あ、あの……せめてものお詫びに、食事ぐらい……」
そう言いながら慌てたように手を離す彼女。
「良いですよ。それなら今からバッカスさんの店の開店を祝して打ち上げなんです。折角ですからご一緒しましょう」
特に他意はなかったんだけど、なんと無く話の流れでそう言うと彼女は分かりやすく笑顔になった。
おお、笑うと可愛いじゃんか。
「でも今日はレストランチケットがあるから奢りです。遠慮しなくていいですよ」
「ええ、そんなわけにはいきませんって!」
「いいですから気にしないでください。食事は、大人数で賑やかな方がいいですからね。なあ、いいよな? 彼女も一緒でも」
今更だけど、一応振り返って確認する。
「まあ、良いんじゃないか? 彼女はどうやらバッカスの店のお客みたいだしな」
笑ったハスフェルの言葉にバッカスさん達も笑って頷いてくれたので、そのまま一緒に行くこと決定。
「あ、ありがとうございます」
嬉しそうな彼女と顔を見合わせて笑った俺は、部屋を出ようとしてふと我に返る。
「ええと、今更だけど自己紹介してなかったな。魔獣使いのケンだよ。よろしく」
「ああ、確かにそうですね。これは失礼しました。リナライトです。どうぞリナとお呼びください。ご覧の通り草原エルフの、テイマーです」
そう言って握手の後に、彼女は背負った鞄の中からアクアと同じ透明のスライムを取り出して見せてくれた。
「名前は、アクアウィータ。最近テイムした子です」
小さな声でそう呟いたきり俯いてしまった彼女を見て、俺はハスフェル達から聞いた彼女の過去の話を思い出した。
うん、これは今ここで触れるべきじゃないな。
「よろしくな、アクアウィータ。可愛がってもらえよ」
出来るだけ普通に笑いながらそう言って手を伸ばして撫でてやると、アクアウィータは嬉しそうに伸び上がって俺の指先に何度も擦り寄ってきた。
「おお、よく慣れてるじゃんか。彼女と仲良くするんだぞ」
「はあい。アクアウィータはご主人とくっついて寝るのが好きなんだよ。ご主人はすっごく優しいんだからね!」
得意げなその声は、アクア達よりも幼く聞こえる。そういえばテイムしたての頃って、アクア達もこんな声だったな。
なんだか懐かしくなって、俺の指に伸び上がって擦り寄るスライムのアクアウィータをもう一度撫でてやった。
「そっか、優しいのか。良かったな」
人の従魔のスライムと平然と話をする俺を、彼女は驚きに目を見開いて呆然と見ていた。
「あの、まさかとは思いますが、ケンさんは人の従魔と話が出来るんですか?」
さっきのがん睨み程じゃないけど、もの凄く不審そうな顔で見られた。
「ああ、そうなんですよ。俺は念話の能力持ちなんですけど、ごく一部の仲間内でしか使えなかったんですよ。だけどテイムした従魔なら、自分のじゃ無くても話が出来るんですよ、これが。まあ魔獣使いとしてはありがたい能力です」
「それは、確かに羨ましい能力ですね」
感心したように頷いた彼女は、その後に慌てたようにハスフェル達やバッカスさん達にも挨拶して行った。
うん、礼儀正しい良い子じゃん。って、俺より遥かに年上みたいだけど。
「ではご案内致します」
廊下で待っていてくれた支配人さんに笑顔で一礼されて、素直に後ろをついて行った。
当然、全員が後ろをぞろぞろとついて来て、ようやく広い個室に案内されてそれぞれ席についた。
「じゃあ、また注文は任せていいか」
「おう、任されてやるよ。酒は白ビールでいいか?」
「おう、それでよろしく!」
手を上げたギイとオンハルトの爺さん、それからエルさんとアルバンさんが揃ってメニューを覗き込むのを見て、なぜか俺の隣に座ってる草原エルフのリナさんを振り返る。
「ええと、食べたい物とか飲みたいものがあったら言ってくださいね」
「では、私も白ビールを頂きます」
「だってさ。白ビール追加よろしく」
「了解〜」
ギイの気の抜けた返事に、俺は笑って肩を竦めた。
「それでは、バッカスさんの店の無事の開店を祝して!」
「カンパ〜イ!」
それぞれ好きな酒を手に最初の一杯は全員揃って乾杯をして、そこからは好きに食べたり飲んだりして過ごした。
次々と、ひっきりなしに運ばれてくる大量の料理の数々にもう俺は笑いが止まらず、リナさんは圧倒されたみたいで、若干ドン引きしつつもずっと笑っていたよ。