夕食とおやすみなさい
「ちょっと待て〜! だからお前ら自重って言葉の意味を一度辞書で調べて来いってば!」
またしても山積みになった金貨の袋の山を見た俺の雄叫びに、ハスフェルとギイの二人は同時に吹き出し、食べかけの味噌漬け肉サンドをお皿に置いて大爆笑になり、そのまま揃って椅子から転がり落ちた。
「あ、あいつら……送れる限界まで送ってきやがったぞ」
「駄目だ。笑い過ぎて腹が痛い……」
床に転がったまま、文字通りお腹を抱えてまだ笑っている。
オンハルトの爺さんは、同じく吹き出した瞬間食べかけていた丼を置いて、机に突っ伏したまま笑い過ぎて引き付けを起こして若干呼吸困難みたいになってる。まじで大丈夫か、おい。
「はあ、あいつら全く。俺達を笑い殺す気か」
笑い過ぎて出た涙を拭いながら起き上がってきた二人が、そんな事を言いながらため息を吐いて椅子に座る。
簡易祭壇の前でずっとしゃがみ込んで笑い崩れていた俺も、なんとか起き上がって料理を運んでから席についた。
「とにかく食べよう。あの金貨は……アクア、とりあえず収納しといてくれるか。ええと、一応家の購入資金だから、普段の買い物に使うお金とは別に管理しといてくれるか」
「了解〜。じゃあ別に分けて収納しておきま〜す」
俺の指示にアクアゴールドのまま元気よく返事をして、あっという間に山積みの金貨の袋を飲み込んでくれた。
顔を見合わせてまた笑った俺達は、とにかく食事をする事にしたよ。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ!ジャジャン!」
いつものお椀を片手に、バック転を挟んで見事なダンスをキメるシャムエル様。何だか最近のダンスは激しさを増してきているぞ。お見事。
運動神経は決して悪いわけではないんだけど、そっち方面の才能は皆無の俺にしてみれば、あのステップはどうやって踏んでいるのかすらさっぱりわからないレベルだよ。
「これで良いのか? はいはい、ちょっと待てって」
空のお椀とお皿をぐいぐいと俺に押し付けるシャムエル様から苦笑いしながらお椀とお皿を受け取る。
お椀には味噌漬け肉丼を、お皿には付け合わせを盛り付けてやる。
「味噌汁は?」
「これにお願いします!」
嬉々としてもう一つ小ぶりなお椀を取り出したので、それに味噌汁も入れてやる。
「はいどうぞ。味噌漬け肉丼とだし巻き卵、それからきゅうりとわかめの酢の物、豆腐とネギの味噌汁でございます」
ちょっと改まった口調でそう言い、目の前に綺麗に並べてやる。
「うわあい、美味しそう! では、遠慮なくいっただっきま〜す!」
そう言ったシャムエル様は、やっぱり丼の入ったお椀に頭から突っ込んでいった。
「相変わらず豪快だな。おい」
笑って後ろからもふもふの尻尾を突っついてやる。
食べるのに夢中で気づいていないみたいなので、左手で尻尾をもふりつつ俺も食事を楽しんだ。
食後は、俺は吟醸酒を、ハスフェル達はまたウイスキーを取り出してのんびりマイペースで飲んでたよ。
「そういえば、聞き損なってたけどバッカスさんの店って何か宣伝とかしてるんですか?」
オンハルトの爺さんに聞いてみると、爺さんはつまみのチーズを齧っていたのをやめて振り返った。
「まあ、主にギルドでのクチコミだな。さすがは二人とも上位冒険者で、ここハンプールを根城にしている冒険者の知り合いが何人もいるらしい。それで、そいつらに頼んで、バッカスの店の宣伝をしてもらっているらしいぞ。それに、クーヘンの店でもちょくちょく話題になってるらしくてな。こっちは主にジェムを買いに来てくれる街の住人達だな、見事に購買層全体に、経費を一切かけずに広告出来ておる。いやあ大したもんだ」
満足そうなその言葉に、俺も感心する。
「へえ、じゃあ明日はまたしても大行列だったりしてな」
「そうなったらそれはそれで良いではないか。ならばまた、我らが手伝ってやれば良かろう」
「だな。じゃあ、明日のバッカスさんの開店満員御礼を願って、かんぱ〜い!」
若干酔っ払ってる気がしたけど、ご機嫌でそう言ったら笑顔の三人も一緒に乾杯してくれた。
うん、冒険者仲間の新たな旅立ちだものな。成功を俺も祈っておくよ。
そのあと、もう少し飲んでからその日は解散になった。
俺はいつものようにサクラに全部綺麗にしてもらって、ベッドに転がるニニの腹毛に潜り込んだ。
「朝晩、だいぶ冷えてきたもんな。この寝床の幸せ度が天井知らずに上昇してるぞ」
子猫みたいにもふもふの毛に潜り込むと、足元にマックスがくっついてくる。そして背中側はいつもの巨大化したうさぎコンビ。ああ、これまたふっかふっかの超幸せ。
タロンとフランマが揃って俺の腕の中に飛び込んでくる。
「今夜はダブルで添い寝よ!」
タロンの嬉しそうな声に、俺は笑ってタロンの小さな顔をおにぎりにしてやった。それからフランマのもふもふ尻尾も心ゆくまでもふらせてもらいながら大きな欠伸をした。
「ほら、ご主人は寝なさい。明日はバッカスさんのお店を見に行くんでしょう?」
タロンが前脚の肉球で俺の頬をむにゅっと押し付ける。
「うん、明日は開店一日目だよ。お客さん、たくさん来ると良いなあ……」
フランマの柔らかな後頭部に鼻先を埋めて、そう呟いたっきり俺の記憶は見事に途切れている。
いやあ、毎回のことだけど我ながら感心するくらいの墜落睡眠だねえ。