夕食とシルヴァ達の……。
「ゲフゥ……。ちょっ、シルヴァ達だよなこれ! 待て待て! 神様ってこんな事出来るのかよ!」
慌てたように口元を拭って辺りを見回すと、金貨の袋の山の側に現れた収めの手が、俺に向かって得意げに手を振っているのに気がついたよ。
どうしてだろう。手しか無いのにドヤ顔なのが分かるって……。
俺の横では、ハスフェルとギイが金貨の出現と同時にこちらも吹き出して引きつけたように笑い転げている。
「あ、あいつら……」
「いくら嬉しいからって、これは調子に乗りすぎだって……」
笑いすぎて半泣きになりながらも、まだ笑うのが止められなくてヒーヒー言って笑っている。
「どうすんだよ。これ」
多分、ひと袋が千枚は確実に入ってるのが、パッと見ただけでも三十袋以上は余裕である。
お前ら、俺にどんな豪邸を買わせるつもりだよ。
虚無の目になる俺の頭を、収めの手が何度も優しく撫でてから消えていった。
「まあ、せっかくの好意なんだから遠慮せずに全部貰っておけ。それなら明日にでもマーサさんに相談して、別荘で売りに出てるのが無いか聞いてみるといい。今すぐ無くても、頼んでおけば探してくれるだろうからな」
「だな、じゃあこれはそのまま持っておく事にするよ」
そう言って、そのまま丸ごと金貨を自分で収納してみた。
「へえ、まだまだ余裕がありそうだな。以前も思ったけど、収納したら重さは関係ないんだ」
金貨千枚は、はっきり言って俺でも片手で持つのが困難なレベルの重さだ。
それが全部で三十九袋あったよ。もうそれだけで大邸宅が買えるって。
「何やら楽しそうだが、なんの話だ?」
その時ノックの音がして、スライムが開けてくれた扉からオンハルトの爺さんが帰ってきた。
「シルヴァ達が何やら大興奮していたが、何かあったのか?」
オンハルトの爺さんにはギイが大喜びで説明して、同じく吹き出し、また大爆笑になったよ。
「まあ、良いじゃないか。くれるというのだから、貰っておけ」
なんて事を平然と言ってまた笑ってる。
「だよな。もう遠慮なく貰う事にしたよ。しかし、どんな豪邸を買うつもりなんだってな」
そう言って笑いながら、ハスフェルの隣に座ったオンハルトの爺さんにも焼けたばかりの栗を渡してやる。
それから、出してあった分を食べ尽くしたシャムエル様も、空のお皿を振り回して自己主張していたので大きそうなのを選んでお皿に乗せてやる。
「おお、これは美味そうだな。いただくとしよう」
嬉しそうなオンハルトの爺さんの言葉に笑った俺は、もう一つのフライパンの焼けた分も適当に分けてハスフェル達にも渡してやった。
「俺は茹で栗を食べるぞ」
アクアゴールドが冷ましてくれた茹で栗の入った鍋を受け取り、いくつか取り出してナイフで半分に切る。
「ううん、こっちはしっとり甘くて美味しい」
それを見た三人とシャムエル様も欲しがったので、茹で栗も分けてやったら保存予定の分まで全部無くなったよ。
まさかの栗大人気。俺の分がなくなると困るので、また作っておかなければ。
「それで、店の準備はもういいのか?」
栗を食べ終えて一服しながら、オンハルトの爺さんを振り返る。
「おお、後はもう大丈夫だと言うので任せてきたよ。なかなかに良い店になったな。日用品の刃物や金物から、初心者から上級者の冒険者達にも充分に応えられる品揃えだ。素材もかなりの量が確保されているから、個別の注文にも応えられるだろう」
満足そうなその説明に俺達も安心したよ。
「まあ、さすがにクーヘンの店の時みたいな事にはならないだろうけどな。それじゃあ、明日の午前中に昼食の差し入れを持って行くか。何が良いかな。皆よく食うから、ガッツリ肉系のサンドイッチにしてやるか」
それは後で作る事にして、まずは夕食だ。
「ええと、もう夕食の準備しても良いか? あれだけ栗を食ったんだから、腹一杯に……ああ、食えるのね、了解」
全員が無言で手を上げるのを見て、苦笑いした俺はいつものフライパンを取り出した。
「さて、何を焼くかね」
「はい、肉が食いたいです!」
ハスフェルの言葉に、これまたギイとオンハルトの爺さんが揃って手を上げる。ちなみに、シャムエル様まで一緒になって手を上げてました。
「昨日も食った気がするけど気にしないのかよ。じゃあ俺は楽でいいから肉にするか」
少し考えて、師匠が作って渡してくれた味噌漬け肉を焼く事にした。
ハスフェルとギイはパン、俺とオンハルトの爺さんはご飯だ。
「そろそろご飯の在庫が乏しくなってきたなあ。今度時間を取って、またまとめてご飯を炊かないと」
お椀にご飯をよそりながらそんな事を呟く。
最近の俺の心配事って全部食べ物の事のような気がするけど……まあ、別にいいよな。
たっぷりの味噌漬け肉を三つのフライパンで同時に焼きながら、サイドメニューの味噌汁をサクラに取り出しておいてもらう。ご飯用にはきゅうりとわかめの酢の物だし巻き卵、パン用には、サラダとスクランブルエッグを並べておく。
大量に焼けた肉も、大きなお皿に適当に分けて盛り付けておく。
俺が楽する、あとは好きに食え作戦だ。
「これは美味そうだ。では、いただきます」
嬉しそうに手を合わせる三人を見て、俺もご飯の上に遠慮無くがっつり肉を盛り付けたよ。味噌漬け肉丼の完成だ。
「じゃあこれは、シルヴァ達にお供えっと」
いつもの簡易祭壇に、俺の分の味噌漬け肉丼とだし巻き卵と味噌汁、それからきゅうりとわかめの酢の物を並べる。
「少ないけどどうぞ。それと、資金援助ありがとうな。いきなりでちょっと笑っちゃったけど、大事に使わせてもらうよ」
手を合わせて目を閉じてそう呟くと、いつもの収めの手が何事もなかったかのように平然と俺の頭を撫でていくのが分かってちょっと笑った。
しかし、目を開いて俺はまた吹き出す事になった。
だって、簡易祭壇代わりの机の下には、収まりきらないくらいの金貨の入った袋がまたしてもぎっしりと積み上がっていたんだから。
「ちょっと待て〜! だからお前ら自重って言葉を一度辞書で調べて来いってば!」
……って、叫んだ俺は悪くないと思う。断言。