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夕食と酒盛り

「すまんな。こいつは、樹海から出てきてまだ一年にならない世間知らずなんだよ。なので持ってる知識が色々と偏っててな。普通なら当然知っているような当たり前の常識でも知らない事が多い。旅をしながら常識を日々勉強中だ。ちなみに、初めてここへ来た時は早駆け祭りの事も何も知らなかったぞ」

 笑ったハスフェルが一応そう言ってフォローしてくれる。

 更に目を見開くドワーフ達とランドルさんにもっと驚きの目で見つめられてしまい、どうにも居た堪れない。



 どうも。実は半年前まで異世界人でサラリーマンやってましたので、はっきり言って世間知らずで〜す! テヘペロ……って言えたら、色々楽なんだろうけどなあ。



 そんな事を考えて遠い目になって黄昏てると、いきなりバッカスさん達が揃って笑い出した。

「成る程成る程。そう言う事情だったんですね。それならば剣匠フュンフの名を知らないのも当然です。それに、それほどの強い従魔達を連れているのもね。いやあ、噂には聞いた事はありますが本物の樹海出身者に会うの初めてです。さまざまな有り得ないような噂は聞きますが、実際にはどんな所なのか是非とも聞いてみたいものです」

 期待に満ち満ちた目で見つめられてしまい、俺は平然としつつも内心では冷や汗をかいていた。

『ちょっ、それフォローになってないって。俺に樹海の何たるかを語れると思ってるのかよ』

 念話で、必死になってハスフェルに抗議する。ちょっと拗ねた口調になったのは致し方あるまい。

『全く知らんわけじゃないだろうが。そうだな。樹海の奥には獣人が村を作って住んでいる事。お前が実際に戦ったジェムモンスターの事、それにリュートから聞いた樹海の夜の話も教えて構わないぞ。ああ、後は俺のシリウスとニニちゃんとマックスも樹海でテイムした事にしておけばいい』

 念話で、話していい事を教えてくれたので、俺はわざとらしいため息を吐いてバッカスさん達を見た。

「じゃあ、そろそろ夕食時だし、食べながら話しましょうか。言っておきますけど、俺も樹海の全部を知ってるわけじゃあありませんけどね」

「おお、それは素晴らしい。もちろんあなたが知っている範囲で結構ですので是非ともお願いします。我らとて、この世界の全ての街や森を知っている訳ではありませんからな」

 ジェイドさんの嬉しそうな言葉に、ハスフェル達を振り返る。

「一応、俺だけじゃなくあっちの三人も樹海出身者なんですけどね。多分俺より詳しいですよ」

「おお、彼らも同郷なのですね」

 色々と規格外な三人を見て、妙に納得するジェイドさん達だったよ。




 夕食には、持っている作り置きやホテルハンプールの料理を色々と出してやり、その後は樹海産の火酒を出して、のんびりと飲みながら俺が覚えている樹海の話をしてやったよ。

 途中からはハスフェル達も加わり、二人でシリウスをテイムした時の様子を話していて、今更だけど思い出して怖くなったのは内緒だよ。俺、よくあんな事したなあ……。

 その後は、俺も知らなかった樹海のジェムモンスターの話をハスフェル達から詳しく聞いたりもした。

 ついでに言うと、俺が食われかけたあの超巨大なタートルツリーのジェムを見せてやると、全員揃ってもの凄い勢いで食いついて来て、食われかけた時のことまで詳しく話すハメになったよ。

 まあ、最後は樹海では一瞬の油断が命取りになるんだって話で、ハスフェルがまとめてくれたけどね。



 そしてさすがは、酒好きでは右に出るものなしとも言われるドワーフ達。全員樹海産の火酒をストレートで美味しい美味しいと大喜びで飲んでたよ。そして挙げ句の果てには水で薄める俺を見て、そんな勿体無いことをするなとか言い出す始末。

 いやいや、俺にはこれで充分だって。

 だけどこっちも酔っ払っているものだから、俺は実はこの酒よりも大吟醸の方が好きなんだとか言ってしまい、そこからは何故だか大吟醸祭りになったよ。

 そして当然と言えば当然だが酔い潰された俺の記憶は途中で途切れたし、その夜は全員が酔い潰れて寝る事になったのだった。






 ぺしぺしぺし……。

「うん、起きる、よ……」

 小さな手に額を叩かれて、唸り声を上げつつもなんとか返事をする。

「あれ、モーニングコールが、シャムエル様、だけっ、て……ここ、何処だ?」

 ぼんやりと開いた目に入って来たのはいつものスライムベッドだけどニニ達がいない。俺の癒しのもふもふがいない!

 慌てて起きあがろうとした瞬間、世界が回った俺は呻き声を上げてスライムベッドに倒れ込んだ。

「頭痛い……」

「いい加減に起きたら?」

 呆れたような声が額の上から聞こえて、俺は転がったままでゆっくりと目を開いた。

「おはよう。ええと……」

「はいどうぞ。とにかくこれ飲んで起きなさい。そんでもって全員起こしなさい。もう昼過ぎてるよ」

 シャムエル様の言葉に苦笑いした俺は、何とか起き上がって差し出されたいつもの美味しい水が入った水筒を受け取った。

「はあ、やっぱり飲んだ次の日はこの水に限るね。美味い」

 ちょっとおっさんぽかったけど、水筒の水を一気飲みした俺は大きなため息と共にそう言って、またスライムベッドに転がった。

「そうだった。夕食の後、樹海産の火酒を出して飲んでたんだよ。でもって途中から俺が吟醸酒を出して、ハスフェル達がいつものウイスキーを出してきたんだっけ。そりゃあ潰れるよ」

 笑いながらそう呟き、腹筋だけで起き上がってもう一度水筒の水を飲み干す。

 ちなみに、俺が寝ていたのは部屋の隅に作られたいつものスライムベッドの上で、部屋には同じくスライムベッドの上で転がってるハスフェルとギイとオンハルトの爺さん。それから、床に屍の如く転がったまま爆睡しているランドルさんとドワーフ達がいるのだった。

 いやあ、全員揃って完全に討ち死に状態だね。

 机の上には中身が半分弱程残った樹海の火酒の瓶が置いてあり、床には足の踏み場がないほどいくつもの空瓶が転がっている。おいおい、一体どれだけ飲んだんだよ。



「起きよう、腹へった……」

 何とか起き上がって、火酒の入った瓶だけ収納しておき、そのまま水場へ顔を洗いに行く。

 思い切り冷たい水で顔を洗って目を覚ました後は、いつものように跳ね飛んできたサクラに綺麗にしてもらってから、スライム達を水槽に放り込んでやる。

 それから、彼らを起こす前に先に裏口の扉から一旦外へ出て、厩舎で寝ている従魔達にハイランドチキンとグラスランドチキンのむね肉を始め、果物も箱ごとまとめて出しておいてやる。

 後はベリーがこっそり面倒を見てくれると言うので、生肉のお弁当を食いたい奴らの世話はお願いしておいた。ううん、ベリー様々だね。

 じゃれつく従魔達の相手をしてやってから、ひとまず従魔達に手を振って家に戻る。だけど全員がまだ爆睡中だったよ。

「こら起きろ。お前ら揃って飲み過ぎだって。まあ俺も人の事は言えないけどさあ」

 笑いながら、順番に起こして回る。

 呻き声を上げて転がるドワーフ達も順番に起こしてやり、転がる空瓶を一箇所に集めてから朝食用の準備をする。



「さて、何にしようかな。飲んだ翌日は、やっぱりこれだよな」

 そう呟いて、海老団子のお粥と卵雑炊もどきをそれぞれ大きめの鍋に取り分けて温めてやる。

 水分補給は麦茶と水だ。

 顔を洗ってようやく目を覚ました一同が戻ってくる賑やかな足音に、俺は笑ってコンロの火を止めたのだった。

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[一言] 酒は飲んでも飲まれるな(´-ω-`)私古酒の方が好きです
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