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魔獣使いに出来る事

「まあ、こんな感じかな。焦らず、少しずつ覚えていって貰えばいいよ」

 並んでフライパンで肉を焼きながら、俺はそう言って笑った。

 改まってスライム達がしてくれる事を説明していたら、だんだんと何だか小っ恥ずかしくなって居た堪れなくなってきたんだよな。

 だって、スライム達が色んな作業を覚えてくれたのは別に俺が頑張って何かして教えた訳ではなく、アクアやサクラが俺の役に立ちたいって思ってくれて、自主的に見て覚えてくれたものだ。

 アルファをはじめ他のレインボースライム達だって、仲間になった直後は簡単な作業しか出来なかったものな。

 でも、これからの一人旅の楽しみが出来たと言って、嬉しそうに胸元のキャンディを突っついているランドルさんを見たら、何だかどうでも良くなってきた。

 従魔にとってご主人がどれだけ大切な存在であるかは、俺はもう本当に身をもって経験している。セーブルやヤミーみたいに、その後の自分の全てを変えてしまえるほどの存在なんだよ。

 肉をひっくり返していて、俺はふと一時的なテイムの事を思い出した。



『なあ、シャムエル様。以前言ってた一時的なテイムって、もう無くなったんだよな?』

 何気無い風を装いながら、念話でシャムエル様に質問する。

『ああ、あれはもう完全に消去したから、やろうと思っても無理だよ』

『じゃあ逆に質問だけど、名前を付けた従魔を主人の側から一方的に放逐する事って今でも可能な訳? いや、もちろん俺はやらないけどさ』

 一瞬シャムエル様が怒ったような顔をしたので、俺は慌てて訂正する。

『驚かさないでよね。まあ、強いて言えばご主人の側からの放逐は今でも可能だよ。色々と制約はあるから簡単じゃあ無いけどね』

『出来るんだ。じゃあ、やっぱり捨てられた従魔の話はしておいた方がいいよな?』

『そうだね。一応、これだけの数の従魔を従える魔獣使いには知っておいてもらった方が良いかもね』

 頷くシャムエル様を見て俺はランドルさんを見た。



「はい、これで最後ですね。そっちの鶏肉も焼くんですか?」

 グラスランドブラウンブルの熟成肉は、全部焼き終わってお皿に乗せた状態で収納してある。

 最後の一枚を焼き終えたランドルさんが、俺がしっかり塩胡椒をしたハイランドチキンのもも肉を指差す。

「ええ、じゃあフライパンの油を集めたら、スライム達に綺麗にしてもらってこっちを焼いてください。俺はもう一品作りますから」

 さっきから、焼いた時に出る油は別のお皿に集めてある。これで何をするのかって? もちろんこれで切り落とし肉と一緒にご飯を炒めるんだよ。肉の旨味が全部出た油で作る炒飯用だよ。

 今回は、俺達四人とランドルさんとバッカスさんに加えて、後四人のドワーフ達が加わってる。なんとむさ苦しい野郎ばかり十人だ。

 それにしても、俺がここまで旅してきた中で知り合った女性って、既婚者合わせても……。

 あ、ちょっと涙が出てきたかも。男女の比率がちょっとおかしいと思うんだけどなあ!シャムエル様〜。

 ご飯を取り出しながらそんな事を考えていたら、ちょっと涙が出そうになってきたよ。

 ええい、これは全部まとめて明後日の方向へぶん投げておく。自分でどうしようもないことでは悩んではいけません! 断言!



 それにしても野郎十人かあ……。どう考えてもこれ、また食う量がおかしいってパターンだろう。

 なので、グラスランドブラウンブルの熟成肉の分厚いステーキが一枚だけじゃなく、ハイランドチキンの胸肉のぶつ切りのグリルも用意したんだよ。それから付け合わせが生ハムとレタスのサラダにフライドポテト、好みがわからないので、ワカメと豆腐の味噌汁と、玉ねぎスープも用意しておいた。

 そしてこの、肉チャーハンだ。はっきり言って肉とネギしか入れない、ザ、男飯って感じの一品だ。

 以前肉を焼いた時にとってあった油も全部取り出し、一番大きなフライパンにまとめて入れる。

 こっそりサクラが出しておいてくれた大量の切り落とし肉も、全部まとめてフライパンに入れて炒めていく。

「うおお、これだけでもう美味しそうじゃんか」

 思わずそう言いながらしっかり目に塩胡椒をして、肉用の配合スパイスもたっぷりと振りかける。

「火が通ったら一旦別の皿に取ってっと」

 そう言いながら大きなお皿に油を切った肉を入れておき、フライパンにご飯を投入!

 ここからは強火にして一気に炒めていく。

 賑やかな音とともに、フライパンをあおる度にご飯がふわっと浮き上がってフライパンに戻る。

「バラけてきたら、塩胡椒をして肉を戻してもう一度炒めれば完成っと」

「さすがの見事な手つきですね。思わず見惚れて肉を焦がしそうになりましたよ」

 横で見ていたランドルさんの言葉に、チャーハンの入ったフライパンを持ったままで俺はドヤ顔を決めてみせた。

「何やってるの?」

 呆れたような冷たいシャムエル様の言葉に、苦笑いしてお皿に山盛りのチャーハンを盛り付ける。これは早い者勝ちで取ってもらう分だ。まあどうなるかは想像に難くない。

 それもサクッと収納して、ランドルさんがまとめて焼いてくれたハイランドチキンも収納しておく。

 今はランドルさんがいるからなのか、シャムエル様も味見を要求してこなかったよ。ちょっと拍子抜けだね。




「それでちょっと真面目な話があるんですけど、良いですかね」

 使った道具を手早く収納しながらそう言うと、驚いたようにランドルさんが俺を見る。

「俺も人から聞いた話なんですけど、従魔達に確認して確証を得ましたので魔獣使いであるランドルさんにも知らせておきます」

「はい、聞かせていただきます」

 真剣な顔で俺を見つめるランドルさんに、俺はもしも名前を貰った従魔が主人から捨てられたらどうなるかって事を詳しく説明した。

 俺の従魔達から聞いた話も当然全て付け加えておく。

「そ、それは……」

 話を聞いたランドルさんが絶句したまま俺を見つめる。俺も黙って頷いた。



 ランドルさんもテイムした時に一緒にいたから、セーブルやヤミーがご主人亡き後に残されてどれだけ辛い思いをしていたかを知っている。

 その時にもご主人が死んだら残された従魔達がどうなるのかって話はちょっとしたんだけど、これはそれとは意味が違う。文字通り、主人に捨てられた従魔がどんな悲惨な最期を遂げるかって話だもんな。

 しばしの沈黙の後、ランドルさんはキャンディをそっと手の上に乗せて抱きしめるみたいに大きな両手で包み込んだ。

「俺の全ての従魔達に、俺の誇りであるこの剣に賭けてここに誓おう。この命尽きるまでずっと一緒だ。何があろうと繋いだこの手は絶対に離さない。だからどうか安心してくれ」

 そう言って、そっとキャンディにキスを贈った。

 キャンディは、一瞬だけ光ったあとに一気に伸び上がってランドルさんの鼻先にちょこっとくっついて離れた。

 あれは多分キスを返したんだろう。

「ありがとうご主人、大好きだよ。ずっとずっと一緒だからね」

 嬉しそうなキャンディの言葉に、笑ったランドルさんの目に涙があふれる。



 横で聞いてた俺も、ちょっと感動のあまりもらい泣きしちゃったよ。

 ああ、ランドルさんって、本当になんて真っ直ぐで真面目な良い男なんだろうな。



「さあ、じゃあ出来上がった料理を持っていきましょう」

 浮かんだ涙を誤魔化すように、軽く咳払いをして鼻をすすったランドルさんは、素知らぬ顔でそう言ってからキャンディを胸元に戻して俺を振り返った。

「ええ、そうですね。じゃあ行きましょうか。って言っても、全部収納してるから俺達が戻るだけなんですけどね」

 俺も浮かんだ涙を誤魔化すように、知らん顔でそう言ってやる。

「ああ、確かにそうですね。収納の能力持ちが羨ましいですよ」

 顔を見合わせて笑い合ったあと、何も言わずに俺達は拳をぶつけ合いそのまま食事をする居間へ戻ったのだった。

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