スライム達のお手伝い
「ええと、それじゃあキャンディをここに出してやってくれますか」
取り出したジャガイモの入った籠を持ったまま、俺がランドルさんを見てそう言う。
「出せばいいんですか?」
胸元から、キャンディが出てきてアクアの横に並ぶ。
『じゃあアクア、キャンディに皮を剥いたり肉を切ったり、材料を捏ねたりする程度でいいからやり方を教えてやってくれるか。言っとくけど、時間を操作するのは禁止だからな。今回はまずは俺がやって見せるけど、それ以外の出来そうな事も一通り教えておいてくれるか。まあ、今後やるかどうかは彼ら次第だけどさ』
念の為、念話でアクアだけじゃなく他のスライム達にも伝えておく。
『了解です〜!』
『頑張って教えま〜す』
何やら張り切ったスライム達の返事が一斉に聞こえた後、小物入れから全員がポロポロと飛び出して机に並んだ。
大きさはソフトボールサイズで、いつも料理を手伝ってくれる時のサイズだ。
それを見てキャンディだけでなく、クーヘンのスライムであるドロップまでがランドルさんの胸元から飛び出して来て並んだ。
「じゃあ、ドロップも一緒にするか?」
「はあい、ドロップもやりま〜す!」
ご機嫌で伸び上がってそう答えたドロップを、俺は笑って手を伸ばして撫でてやった。
「ポテトサラダとフライドポテトのどっちが良いですか?」
ジャガイモを手にしてランドルさんを振り返る。
「ええと、それじゃあフライドポテトを。それなら残っても酒のつまみになりますから」
「確かに。たっぷり作って是非そうしよう。それじゃあこれ、こんな風に皮を剥いてくし切りに頼むよ」
取り出した山盛りのジャガイモを、待ち構えていたスライム達の目の前に置く。それから一つ取り出して綺麗にしてもらってから俺が目の前で皮を剥いてからじゃがいもの芽を取ってからくし切りにする。
「では、ドロップとキャンディと一緒にアクアとアルファがやりま〜す!」
ビヨンと伸び上がったアクアの言葉に、呼ばれた三匹が跳ね飛んできて、アクアとドロップが、それからアルファとキャンディがそれぞれくっついて、ジャガイモを半分ずつ丸っと飲み込んだ。
「ええ、くっついた上に食べちゃいましたよ!」
「食べてませんよ。皮を剥いてくし切りにするように頼みましたから、待っててくださいね」
目を丸くするランドルさんを見て考える。
「何度か目の前でも料理したように思うけど、気が付いてませんでしたか? スライム達は、賢くなると簡単な頼み事なら覚えてくれるんですよ。掃除だって、食べていいものと駄目なものを覚えてくれているでしょう?」
笑ってそう言ってやると、目を見開いたままでコクコクと頷いていた。
「ええと、こんな感じですか?」
アクアとアルファが離れた後、まずはキャンディが飲み込んだじゃがいもの皮を剥いて一旦吐き出す。
「おお、いい感じだ。だけどジャガイモは、この芽の部分は綺麗に抉り取ってくれよな。こんな感じで良いぞ」
キャンディが吐き出したじゃがいもには、綺麗に皮は剥けていたのだが、残念ながら芽の部分が残っていたので、取り出したナイフで軽く抉って見せる。
「ああ、残ってた〜! それも取るって聞いたのに! ごめんなさい。じゃあこれで良い?」
そう言って一瞬で飲み込んだジャガイモは、今度は綺麗に芽が取り除かれた状態でくし切りにされて吐き出された。
「よし、完璧だ」
一応確認してからそう言ってやると嬉しそうにまた伸び上がった後、ランドルさんの肩の上まで跳ね飛んで収まった。
「皮剥きはもう覚えたからね〜! ご主人のお手伝いするよ〜!」
「おお、キャンディは凄いなあ。じゃあ、次からは頑張ってお手伝いしてくれよな」
ランドルさんは嬉しそうにそう言って笑って手を伸ばして撫でてやる。するとまた伸び上がってから戻った後にこっちに向いた肉球が大きくなった。
俺には分かる。あれはドヤ顔だ。
「出来た〜!」
ちょっとモゴモゴしていたドロップも、綺麗にくし切りにしたジャガイモを吐き出して見せる。
「おお。上手だぞ。ありがとうな。クーヘンのところなら、普段はネルケさんが料理をしてくれるのかな。頑張ってお手伝いしてくれよな。あそこは大人数だから手伝ったら喜ばれると思うぞ」
「はあい、頑張りま〜す! でも、スノーちゃんもヘイル君も、それにルーカスさんも交代でお料理を手伝ってるよ」
「そうなんだ。あれ、クーヘンは?」
「ご主人は……いつもお皿を運ぶのを手伝ってるよ」
「クーヘン、自分で料理する気無しかよ」
俺の呟きに、ランドルさんが隣で笑いを堪えてたよ。
ドロップとキャンディが頑張って切ってくれた山盛りのジャガイモを、俺がフライパンでせっせと揚げていく。
「火を使うのは、以前も言ったみたいにスライム達には出来ないから、これは俺がやってるよ。今みたいに、まずは自分でやって見せればスライム達がだんだん覚えていってくれるから、まずは出来そうな簡単な事からやらせてみればいいよ。別に料理じゃなくても。例えば物を運んだり動かしたり、部屋の鍵を開けたりくらいはしてくれるからさ」
そんな話をしながら、揚がったのを取り出しては次の切ったのを入れる。
「ケンさんは、料理なら他にどんな事をさせているんですか?」
揚げたジャガイモに岩塩を振りかけながら、ランドルさんが質問する。
「今じゃあ、かなり色々手伝ってもらえるようになったよ。皮剥き、材料のカット。混ぜたり捏ねたり、形を作ったり、後はカツを揚げるときに小麦粉をまぶしたり、溶き卵をつけてパン粉を付けるところまで手伝ってくれるよ」
「それは素晴らしいですね」
感心したように、そう呟きながら何度も頷いている。
「後は、いつもやってるみたいに汚れたお皿や鍋を綺麗にしてくれたり、料理したら出るゴミも全部食べてくれるから、郊外で料理をしてもゴミの心配もしないで良いから助かってるな」
「ああ、確かにそれはありますね。ゴミの処分は俺も時々お願いしてます」
「だけど、言ったみたいに火を使うのは厳禁だし、味付けは加減が分からないから無理みたいだね。だから火を使う事と味付けは全部俺がやってるな。それと、ありがたいのは郊外でジェムモンスターを倒した時に、散らばったジェムや素材を集めてくれる事かな。あれだと取りこぼしも無いしさ」
「ああ、それはありますね。素材が風で飛んでいきそうな時なんかは、俺も手伝ってもらってますね」
「もう言葉も通じるんだし、どんどん頼んで色々やらせてみればいいですよ」
「分かりました。今後スライムは増える予定ですからね。俺も楽しんで教える事にします」
嬉しそうなランドルさんの顔を見て、拳を突き合わせて笑い合った。
「じゃあ、メインの肉を焼くとするか」
そう言って、グラスランドブラウンブルの肉の塊を取り出した。それからハイランドチキンのもも肉も大きいのを一塊取り出す。
「今日は、ガッツリ肉を焼きますよ」
「ああ、良いですね。それくらいなら俺も手伝えます」
笑顔になったランドルさんが、ちょっと自慢げにそういうので、俺は取り出して重ねてあったフライパンを渡した。
「それは素晴らしい。じゃあ是非ともランドルさんも手伝ってください」
スライム達に、また俺が実際にやって見せてから交代で肉を切ってもらった。キャンディも、教えた通りに一生懸命肉を切ってくれたよ。
ランドルさんは、それはそれは嬉しそうにずっと頑張るキャンディの事を見つめていたのだった。




