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もふもふとむくむくと異世界漂流生活  作者: しまねこ


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俺は料理担当だね

「いやあ、すごかったです。俺、こう言うのって近くで見るのは初めてだったんですけど、なんて言うか……本当にすっげえ格好良かったです!」

 自分の語彙力の無さにちょっと情けなく思いつつ、笑顔で拍手をしながら俺がテンション高くそう言うと、バッカスさん達は顔を見合わせて照れたように笑い合った。

「先ほど歌ったあの歌は、鍛治仕事に携わるものなら間違いなく知っている歌です。そのまま、鍛冶屋の歌、と呼ばれていますね」

「特に、めでたい場で歌うことが多いんですよ。今回のように、初めて炉に火を入れて鉄を打つ時や、成人の際やあるいは誰かの旅立ちや独立の際などです」

「それを言うなら、俺の親父は飲んだらいつも歌ってたなあ」

 バッカスさんの言葉に、ドワーフ達が揃って笑いうんうんと頷き合っている。

「確かに、飲んだ時にも歌っとることが多いなあ」

 笑いながらそんな話をする彼らを、俺はちょっと羨ましく思いながら眺めていた。

 カラオケもあまり行ったことがなかった俺は、実は人前で歌うのは苦手だったりする。歌自体は嫌いじゃないから聴くのは好きだったんだけどなあ……べ、別に音痴ってわけじゃないぞ! そこは断言しておく!



「ところで、これで出来上がりなんですか?」

 さっき水に突っ込んだそれは、今は別に置いてあった机の上に置かれている。

 だけど、ナイフみたいな形になってる事は間違い無いんだけど、どこにも刃が無い。これでは豆腐くらいしか切れないって。

「ええ、火入れはそれで終わりです。後は全体に磨いてから研いで、柄を取り付ければ完成ですよ」

「ああ、そっか。そりゃあ研がないと刃は出ないってか」

 自分の勘違いに気づいて恥ずかしくなった。

 そうだよな。鋼を入れてるんだから、研いでやらないとハンマーで叩いただけであの刃先が出来る訳ないって。

 ハスフェル達の呆れた視線に気付いた俺は、照れたように笑って作業部屋を見回した。

 開けられた窓の外は、もうすっかり暗くなっている。

「ええと、夕食はどうしますか? 台所の掃除が終わってるのなら、何か作りますよ」

 誤魔化すようにそう言うと、バッカスさんが慌てたように首を振る。

「いえいえ、そんな申し訳ないです」

「良いって良いって。良いもの見せてもらったんだからさ。俺はそっち方面は素人だけど、料理はそれなりに出来るからさ」

「いや、貴方がそれなりの腕だって言われたら、上手だと言える人は数えるほどになりますって」

 真顔でバッカスさんから突っ込まれる。その横では、ランドルさんをはじめハスフェル達までが揃って苦笑いしながら頷き合っていたよ。

「ええと、そちらの皆さんも良かったらご一緒に……良いですよね?」

 一応バッカスさんのお仲間なんだからそう思って尋ねたんだが、またバッカスさんが慌てている。

「じゃあ、簡単に肉でも焼きますから、台所お借りしますね」

 半ば強引に押し切り、ランドルさんに案内してもらって台所へ向かった。

「ありがとうございます!」

 嬉しそうなバッカスさんの大声に、笑って手を振り返しておいた。



「へえ、ちょっと狭いけど良い台所じゃんか」

 案内されたそこは他と同様にすっかり綺麗になっていて、既に見慣れた段になった水場には綺麗な水が並々と流れていた。

 壁面に作り付けられた広い台の上には二連式の大型のコンロが置いてあり、その横が料理をする時の作業台になっているみたいだ。

 コンロの片方にはやかんが乗せられたままだし、作業台の隅には、数本のナイフとまな板が置かれたままになっていた。

「まだここでは、湯を沸かしてチーズを切ったくらいしか使っていないですね。基本、食事は外で食べていましたから」

 その言葉にふと思いついてランドルさんを振り返る。

「ええと、ちなみにバッカスさんってお料理は出来るの?」

「肉を焼くのはそれなりに上手にしますね。旅の間、ギルドの宿泊所に泊まった時なんかには、たまに煮込み料理を食べさせてくれた事がありますよ」

「へえ、そうなんだ。それなら大丈夫ですね」

「バッカスは、煮込み料理は基本時間をかければ誰でも作れるって言ってましたけど、そう言われても俺には作れる自信は無いですね」

 笑って小物入れに入ってるスライムから材料を取り出そうとして気が付いた。

「じゃあもしかして、ソロになったランドルさんの食生活が大変な事になりそうですね」

 割と本気で心配になったんだけど、ランドルさんは笑って首を振った。

「実を言うと、俺もそう思って諦めていたんですけど、資金に余裕が出来たおかげで時間遅延の性能付きの収納袋を手に入れる事が出来たんですよ。しかも、収納能力はなんと二百倍。俺が知る限り最高の収納力ですよ」

「時間遅延って、時間停止とは違う?」

「無茶言わないでください。時間停止は伝説の代物ですよ。時間遅延は文字通り中に入れている物の時間経過がゆっくりになるんですよ。しかも、その収納袋の性能は二百分の一なんですよ。これも俺が知る限り最高の能力ですね」

「ええ! それってつまり、外での時間が二百日過ぎる間に袋の中では一日しか時間が経たないって事だよな。すげえじゃん。それならほぼ時間停止と変わらないよな」

 嬉しそうに笑顔で頷くランドルさんに、俺は思わず拍手を送った。

「それがあれば、街の屋台や店で売っている出来合いの料理を買ってきてそのまま収納しておけますからね。まあ保存食は念の為に持っておきますが、郊外で暖かいものや手の込んだ料理を食べられる幸せを覚えてしまったら、お茶と酒以外は干し肉と保存食と水だけの食事なんてもう二度としたくはありませんよ」

 首を振りながらしみじみそう言われて思わず遠い目になる。

「ごめん。それは間違いなく俺のせいだな」

 顔を見合わせて同時に吹き出した。



「じゃあ、魔獣使いの料理の仕方を見せるから、頑張ってランドルさんもスライム達に教えるといいよ」

 彼なら大丈夫だ。

 理由はないけど俺はそう思えたので、スライム達の能力を少しだけ見せる事にした。

 目を輝かせて頷く彼に笑いかけると、俺は先に小物入れの中にいるサクラから料理の材料と調理道具をこっそりと一通り取り出したのだった。



 さあ、じゃあ、バッカスさんと仲間達の為にも美味しい肉を焼くことにしますかね。

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