ハンプールに到着〜!
「じゃあ、作り置きでいいな」
ここなら安全だと言って案内された大きな岩場に到着したところで、俺はマックスの背から飛び降りながらそう言ってハスフェル達を見た。
「おう、お任せするよ」
彼らもそれぞれの従魔達から飛び降りて集まってくる。
まずは机を取り出して置き、適当に作り置きの揚げ物やサラダ、それからホテルハンプールのルームサービスのご馳走を取り出して並べた。俺は、ご飯が食べたかったのでおにぎりを出しておく。
「ちょっとひんやりしてきたから、味噌汁も欲しい」
自分が欲しかったので、ワカメと豆腐のお味噌汁も出しておく。これは作りたてを収納してあったからまだ熱々だ。
「おお、これは美味そうだ。じゃあ遠慮なく」
嬉しそうなハスフェル達の言葉に、俺も皿を持って先を争うみたいにいろいろ取って回った。
それぞれ好きなだけ取って席に着く。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャン!」
今日も元気に横っ飛びステップを踏みながら、お皿を振り回すシャムエル様。どうやら、この横っ飛びステップが最近のマイブームらしい。
「はいはい、今日も格好良いぞ。ええと、適当に取っていいか?」
「お任せしま〜す!」
目を輝かせて味噌汁用のお椀を差し出すシャムエル様を見て、俺はもう笑うしかなかった。
山盛りに取った俺の皿から、満遍なくいろいろ取り分けてやる。おにぎりは少し考えて半分に箸で切って並べてやる。俺の分のおにぎりが足りなくなりそうだから、後でおかわりだな。
「ううん。それにしても、最初の頃に比べたらめっちゃ食う量が増えてるなあ」
まあ、喜んで残さず食ってくれるから良いんだけどね。
小さく笑ってから山盛りの料理を大人しく机の上に座って待ってるシャムエル様の目の前に置いてやり、味噌汁もちゃんと具が全部入るように入れてやる。
「はいどうぞ。味噌汁は熱いから気を付けてな」
「ありがとう。では、いっただっきま〜す!」
いつものように元気にそう叫ぶと、料理の山にやっぱり頭から突っ込んで行った。そして自分の顔より大きな唐揚げを両手で掴んで嬉々として齧り始めた。
何度見ても、あれは肉食のリスにしか見えない……。
苦笑いして首を振った俺は、見なかった事にして自分の分を食べ始めた。
はあ、味噌汁美味〜。
「じゃあ食べたら街へ戻って、一度バッカスさんの店を見に行ってみるか?」
おにぎりを食べながら、ハスフェル達を見る。
「そうだな。まあせっかくだから、開店までは見届けてからバイゼンヘ行くか」
ここまで関わったんだから、確かに開店は見届けたい。
「大事なチームメイトの相棒だからなあ」
オンハルトの爺さんの言葉に、ハスフェルとギイが笑いながら立ち上がって、ランドルさんとオンハルトの爺さんが舞台の上で取った、あのチーム脚線美のセクシーポーズをやって見せる。
不意打ちを喰らった俺とオンハルトの爺さんが、味噌汁を噴き出すのはほぼ同時だった。
「うわあ、何するんですか〜!」
俺の足元で仲良くくっついて寛いでいたセーブルとヤミーが、突然の味噌汁シャワーを浴びて悲鳴を上げて逃げていく。
「あははごめんごめん。ちょっといきなりだったから我慢出来なかったよ。こら、二人共。食事中にふざけるんじゃない。ちゃんと座って食え!」
そう言いながら、俺はこいつらの母親か! って、内心で突っ込んだのは内緒だ。
食事のあと、少し休憩してから俺達はハンプールの街へ戻った。
街道に入ると、周りからまた二連覇おめでとうの大喝采を浴びてしまい、誤魔化すように笑ってあちこちに手を振りながら進む羽目になったよ。
はあ、人の多いところへ来ると無駄に疲れる……。
城門の兵士に、またおかえりと言われてしまい、なんとも照れくさい思いをしながら街へ入る。
「じゃあ、もうこのままバッカスの店へ行くとしよう」
オンハルトの爺さんの言葉に、俺達は一列になってバッカスさんの店がある職人通りへと向かった。
当然、街の中でもほぼパレード状態で、またしても手を振りながら少し進んではまた愛想笑いをするという無限ループ。
すぐそこの職人通りが果てしなく遠く感じられたよ。もう、さっきから俺のHPはガリガリ削られまくっております。やっぱり俺は、モブの村人その一くらいが良いよ。
「おお、お揃いでお帰りなさい。こっちはようやく掃除が終わったところですよ」
店側の扉を拭いていたバッカスさんの声に、従魔達から降りたオンハルトの爺さんが駆け寄る。
「炉の掃除も終わったか?」
「ええ、出来る限り綺麗にしました。あの、お願いしてもよろしいでしょうか」
「もちろんだ。その為に来たのだからな。どうする? もうするか?」
「ええ、是非お願いします!」
目を輝かせたバッカスさんは、持っていた雑巾を足元にあった桶に突っ込んでそれを持ち上げた。
「従魔達は、そちらの厩舎へどうぞ。奥の裏庭もありますから、小さな子達はそちらへ入れてやってください」
どうやら、古い資材が積み上がって苔生していた裏庭が綺麗に整備されて、従魔達の運動場としても使えるように改装されていた。これは確実にランドルさんの為だな。
まあ、長くコンビを組んでいる上に二人とも天涯孤独との事。コンビは解消しても、大事な仲間であるのには変わりはないって事だな。
同じくこの世界では天涯孤独の身としては、ちょっと羨ましくなるくらいだ。
さっきの厩舎には奥にランドルさんの従魔のビスケットがいて、残りの子達は裏庭で寛いでる。マックスとニニ、それからシリウスとデネブとエラフィを厩舎に入れてやり、お空部隊は厩舎の梁に並んで留まった。それを見て、後の子達は裏庭へ連れて行く。ベリーとフランマも一緒に裏庭に来たみたいだ。
「ほら、好きにしてて良いぞ。外には勝手に出ないようにな」
「はあい良い子にしてま〜す!」
猫族軍団の元気な返事が聞こえて何事かと思って見ていると、転がした丸太に大喜びで飛び上がって行き一斉に嬉々として爪研ぎを始めたよ。
成る程、これはネコ族にとっては大興奮案件だな。
それを見て笑った俺達は、従魔達を裏庭に置いて開いていた裏口から店に入った。
それにしても、炉に祝福を贈るって言ってたけど、一体何をするんだろうな?
鍛冶場なんてゲームや創作物の中でしか知らない俺には何をするのか見当も付かず、ちょっとワクワクしながらオンハルトの爺さんの後ろをついていった。