シャムエル様のスイーツ祭り!
「久々のぼたん鍋だよ。どうぞ」
そう言って、簡易祭壇に置いた携帯鍋に向かって目を閉じて手を合わせる。
いつものように頭を撫でられる感触があって、目を開くとぼたん鍋を収めの手が撫でて消えていくところだった。
「食後のデザートもお楽しみに」
笑ってそう言い、携帯鍋を自分の席に移動させて座る。
それから改めて手を合わせて食べ始めた。
「うん、合わせ味噌も中々だな」
お椀を振り回して踊っていたシャムエル様にもたっぷりと入れてやり、俺も久しぶりのぼたん鍋をたっぷりと楽しんだ。
「ご馳走さん。美味しかったよ」
三人から口々にそう言われて、俺も食べ終わった携帯鍋を片付けた。
「はい、お粗末様。ところでスペシャルなデザートがあるんだけど、まだ食べられるか?」
無理そうなら明日にしても良いかと思っていたんだが、三人ともデザートがある事を聞いていたのでその予定でセーブして食べていたと言われて大笑いしたよ。
だって、結局足りなくなってサクラに追加で肉を切ってもらったんだぞ。あれでセーブして食ってた訳か? やっぱり食う量がおかしいと思うなあ……。
我に返ってちょっと遠い目になったけど、俺は間違ってないよな?
「じゃあ、期待されてるみたいだから、作るとするか」
小さくため息を吐いた俺は、苦笑いしながら立ち上がってさっきのプリンアラモード用のお皿を取り出した。
「ええと、シャムエル様はさっき食べたから……」
振り返ってみると、机の上にいたシャムエル様はどこから取り出したのか、先ほどスペシャルプリンアラモードを作ったのと全く同じお皿を取り出していて、それはもうキラッキラの目で俺を見上げていた。
「分かった分かった、シャムエル様も食うんだな」
若干ジト目になりつつ尋ねると、首がもげるんじゃないかと心配になりそうなくらいのもの凄い勢いで頷かれた。
「了解、じゃあ待っててくれよな」
俺はもういい。さすがに一日に二個もプリンを食ったら食い過ぎだって。
シャムエル様が取り出したお皿も受け取って並べて四人分のスペシャルプリンアラモードを手早く作ってやる。
「ううん、デザート作りもだんだん手慣れてきたなあ」
我ながら手慣れた作業に感心して苦笑いをしつつ、最後にイチゴをアイスの上に飾りつけて、プリンの上にさくらんぼを乗せれば完成だ。
「出来た。新作のスペシャルプリンアラモードだよ」
「おお、これは素晴らしい」
「おお、華やかだなあ。これはすごい」
「予想以上の豪華さだなあ。これはすごい」
三人が拍手しながら口々に感想を述べる。何となくちょっとドヤ顔になったぞ。
そして、本日二度目スペシャルプリンアラモードを目の前にしたシャムエル様のモッフモッフになった尻尾を見て、俺は我ながら良い仕事をしてるなあと、密かに満足していたのだった。
三人には待ってもらって、四人前を簡易祭壇に並べる。
当然のように待ち構えていた収めの手の両手バージョンが、もの凄い勢いで俺を撫でまくってから、四皿分のプリンアラモードをこれ以上ないくらいに撫でまくっていった。そして最後は皿ごと順番に持ち上げてから消えてえていったよ。
手だけなのに、ウキウキしてるのが分かるって何だかおかしくて、見送りながら俺はずっと笑っていた。
「お待たせ。はいどうぞ」
「ふおお〜!では、いっただっきま〜す!」
嬉々としてそう叫んだシャムエル様は、やっぱり顔面からプリンに突っ込んで行った。一日にあれを二個は、どう考えても食い過ぎだと思うけどなあ……まあ、太ってもモフ度が増すだけだから良いのか。じゃあ好きにしてくれ。
笑った俺は、こっそり後ろから手を伸ばしていつもの倍以上に膨れた最高な尻尾を満喫していた。
うん、これが俺の本日のデザートだね。
「これは美味い。プリンは食べた事はあるが、こんな風に果物と一緒に飾るのは初めて見たな」
「華やかで何とも可愛らしいなあ。これはシルヴァやグレイが喜びそうだ」
ギイとオンハルトの爺さんは、嬉しそうに食べながらそんな事を言って笑っている。
ハスフェルも頷きながら嬉しそうな笑顔で嬉々としてプリンアラモードを食ってる。どうやら、三人ともプリンアラモードは気に入ったみたいだ。
しかしまあ、シャムエル様は置いとくとして、筋肉マッチョなおっさんが二人と同じくマッチョな爺さんが並んで嬉々としてプリンアラモードを食ってる図って……。
ううん、ちょっとしたカオスだ。
苦笑いしながら三人が食べるのを眺めていると、食べていた手を止めたハスフェルが俺を見て不思議そうに首を傾げる。
「ケン、お前の分は?」
その言葉に、二人も食べる手を止めて揃って俺を見た。
「いや、俺はさっき試食を兼ねて一つ食ってるんだよ。さすがに一日にプリン二個は食えないって。だから遠慮なくどうぞ食べてください」
「そうなのか? じゃあ遠慮なく頂くぞ」
何だか申し訳なさそうにそう言われてしまい、俺の方が申し訳なくなる。
「ところで、ベイクドチーズケーキとマフィンとクッキーは?」
カラメルソースまみれな顔を上げて、俺を見上げながらそんな恐ろしい事を言うシャムエル様。
「いや、それはまた明日な。さすがにそんなに一気に食ってどうするよ」
「ええ、私は食べられるのに〜!」
リンゴのウサギを齧りながら目を輝かせて恐ろしい事を言う。
「……食う?」
一応、何事かと食べる手を止めてこっちを見ている三人にも確認する。
「ちなみに、あと何があるのか聞いて良いか?」
苦笑いしているハスフェル達に、俺は黙って一切れ切った残りのホールのベイクドチーズケーキと、お皿に並んだ二種類のマフィン。それから、お皿に山盛りになったクッキーも取り出して見せた。
三人同時に吹き出す音が聞こえる。
「いやあ、これ食った後にさすがにそれは無理だな。申し訳ないがそれは次回の楽しみに置いておいてくれ」
三人同時の答えに、シャムエル様ががっくりと肩を落とす。
「ええ、食べないの?」
「分かった。一人分だけ作ってやるから、シャムエル様は先にそっちを食っててください」
笑った俺はベイクドチーズケーキを一切れカットして、生クリームとカットした果物を盛り合わせてマフィンも一つずつ並べた。
クッキーは、少し考えて二枚ずつケーキの横に一緒に並べておく。
「じゃあこれも、シルヴァ達にあげてからな」
一応断って、簡易祭壇に並べて手を合わせる。
まあ、本日二度目のお供えだけど、シルヴァ達ならきっと喜んで食ってくれるだろう。
速攻で現れた収めの手が、大喜びで俺を撫でさすってからケーキを撫でて消えていくのを俺は笑いを堪えて見ていた。
「はい、じゃあ好きなだけ食ってください。だけど、あとで腹が痛いとか言わないでくれよ」
「大丈夫です!」
プリンアラモードを早くも平らげて、生クリームとアイスクリームとカラメルソースまみれのシャムエル様は嬉々としてそう宣言すると、そのままベイクドチーズケーキに、やっぱり頭から突っ込んで行ったのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
年内の更新は今回を最後にして、お正月中は少しお休みをいただきます。
年明けの三日夜(四日早朝)より再開させていただきますので、しばらくお待ちください。
それでは皆様、どうぞ良いお年を!