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ぼたん鍋と仲間達

「じゃあまずはお出汁を取らないとな」

 水を入れた寸胴鍋に出汁昆布を放り込み、沸いて来たところで昆布を取り出して鰹節を投入する。

「これで一番出汁っと」

 ザルで濾してまずは一番出汁を作る。

「ついでに二番出汁も作っとくか」

 残った鰹節にもう一度水を入れ、沸いたところでさらに追い鰹を投入。

「ううん、鰹出汁の良い香りだ」

 深呼吸をして満足気に頷くと、白菜もどきと白葱もどき、それから柔らかいキャベツがあったのでこれも入れる事にして、待ち構えていたスライム達に切ってもらう。

「豆腐ときのこも色々入れよう。あとは……よし、大根と人参も入れよう。野菜はしっかり食わさないとな」

 これもスライム達に短冊に切ってもらい、まとめて軽く下茹でしておく。

「あとは、グラスランドボアの肉を山盛りスライスしておいてくれるか」

 肉はサクラに頼んでおき、一番出汁の入った寸胴鍋をコンロに乗せて火をつけ、すりおろした生姜を少し入れてから味噌を溶く。今回は赤味噌と麦味噌を両方入れて混ぜてみた。

「沸いて来たら、まずは葉物の芯から入れていくよ」

 硬そうなところから入れていき、ひと煮立ちしたところで肉を大量投入。さらにその上から他の野菜やきのこ、下茹でした根菜類も投入する。最後に豆腐と餅を入れたら少し弱火にしてもう一度煮込む。



「ううん、帰って来ないぞ。どうなってるんだ?」

 出来上がったぼたん鍋は、一旦火を止めて蓋をして収納しておく。

『おおい、どこまで行ってるんだ?』

 諦めて念話で呼びかけてみる。

『すまん。今ちょっと取り込み中だ!』

 しかし、通じたはいいがその瞬間に完全にガチャ切り状態でぶち切られたよ。

「あれれ、何かと戦ってる最中だったっぽいな。おいおい、憂さ晴らしもほどほどにしてくれよ」

 苦笑いした俺は、机の上を綺麗に片付けてしばらく待ってみたが一向に連絡が来ない。




「帰って来るまでまだかかりそうだな。ちょっと眠いし一眠りするか」

 大きく伸びをした俺は、少し離れたところで寛いでいたセーブルを手招きする。それからラパンとコニーにも来てもらい、セーブルに寄りかかって横になり、足元と背中を巨大化したラパンとコニーに支えてもらう。すると呼んでもいないのにフランマが勢いよく俺の腕の中に飛び込んできた。

「おお、これこれ。もふもふパラダイス留守番編だな」

 笑ってフランマを抱きしめるとその柔らかな額に顔をくっつけた。

「皆が帰って来たら起こしてくれよな」

「ええ、見張ってますからご安心を。おやすみなさい」

 小さく欠伸をしてそう言うと、ベリーが笑って請け負ってくれた。

 お礼を言って目を閉じるとそのまま気持ちよく眠りの国へ旅立って行ったよ。我ながら感心するレベルに墜落睡眠だねえ。




「さあ、腹が減ってるんだが起こして良いもんかな?」

「しかし気持ちよく熟睡してるもんだなあ」

「もうちょっと、緊張感と言うか警戒心と言うか、そういうものが必要だと思うのは俺の気のせいか?」

「いやあ、気のせいじゃあ無いと思うぞ、仲間だと認識して安心してくれてるんだとしても、さすがにここまで無警戒に熟睡されると心配になるな」

「全くだ。しかし起きないなあ」



 誰かの声が聞こえて、誰かが俺の額を叩き耳を引っ張ってる。

 眠気からまだ脱出出来ない俺は、呻き声をあげて胸元のふかふかに顔を埋めた。

「ご主人、いい加減に起きたら?」

 呆れたようなフランマの声が聞こえて、俺は嫌がるようにもっと顔を埋める。

「私は別に構わないけど、タロンとニニとマックスが嫉妬の炎をボウボウ燃やしてるわよ」

 笑ったその言葉の意味を寝ぼけた頭で考える。



 ええと……タロンとマックスとニニが帰って来ているって事は……。



 そこでようやく目が覚めて、唐突に目を開いた。

 目の前にはフランマのドアップ。そしてその後ろから笑いながら俺を覗き込んでいるシャムエル様とハスフェル達。

「あはは、おはよう。ってか夜だな」

 すでにテントの外は真っ暗になってる。

 誤魔化すように起き上がると、フランマがするりと俺の胸元から抜け出て大きく伸びをする。俺も真似するみたいに伸びをしたところでマックスとニニが勢いよく突っ込んできた。

「こらこら、押すなって」

 倒れそうになり、踏ん張りながら大きなマックスの頭を抱きしめてやる。甘えるように鼻で鳴いているマックスの尻尾がものすごい勢いで振り回されていて、当たり中に砂埃が舞い飛ぶ。

「待て待て、マックス。ステイだ!」

 慌てて手を離してそう言うと、顔を上げたマックスがピタリとその場に座る。よし。

 しかし、そんな指示は我関せずとばかりに横からニニが突っ込んできて、堪えきれずに俺はセーブルの上に仰向けにひっくり返った。

「ぶわあ。待て待て、分かったからちょっと待てって」

 ざらざらの舌で思い切り舐められて、悲鳴を上げた俺は必死でニニの顔を手で押さえて遠ざける。

「ご主人酷い!」

「酷くない! ニニの舌は痛いんだって! どわあ! だから舐めるなって!」

 抑えた掌を舐められてまた悲鳴をあげる。

 ハスフェル達が大笑いしている声を聞き、俺もなんだかおかしくなって一緒になって笑った。



「ようやくのお目覚めだな。すまんが腹が減ってるんだが何かあるか?」

「おう、任せろ。豪華デザート付きの夕食を用意してあるよ。じゃあ出すけど、その前にちょっと待ってくれよな」

 笑って立ち上がり、改めてニニとマックス、それから小さくなっていた為に二匹に負けて参加出来なかったタロンも撫でてやる。

 それから少し離れて見ていた猫族軍団と狼達も思いっきりもふりまくってから、大急ぎでぼたん鍋の入った寸胴鍋を取り出す。

「久々のぼたん鍋だよ。まあ好きに食ってくれ」

 一瞬でそれぞれの携帯鍋を取り出した三人は大喜びで寸胴鍋に突撃していった。

 苦笑いした俺も、最近あまり使わなくなった一人用の携帯鍋を取り出して争奪戦に参加したよ。

 あれだけ用意した肉が一瞬で鍋から無くなったのを見たらもう笑いしか出なかったけど、まあこれだけ喜んで食ってくれるんだからよしとしよう。

 追加の肉を大量に投入してから、簡易祭壇に携帯鍋ごと乗せて笑って一人で頷いてる俺だった。



 うん。喜んで食ってくれる仲間がいるって、幸せな事だよな。

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― 新着の感想 ―
[一言] お鍋が美味しい季節です。(*≧∀≦*) 暖かそうなもふもふ布団、寒い今の季節…欲しいですね。ケンが羨ましい…(*´ω`*)
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