大満足!
「うん、すが入ってるけどこれはこれで良い感じだ」
自分用に出したプリンを食べながらそう呟く。
記憶の中にある、母さんが作ってくれた蒸しプリンもここまでは酷くなかったけど、確かちょっとくらいはすが入ってたような気がする。
まあ、売り物じゃないんだからあまり気にしなくても良いのかも。
小さく笑って残りのプリンを平らげ、ナルトみたいに渦巻き模様になったクッキーを一つ齧ってみる。
「お、ちょっと硬いけど、思ったよりもサクサクに出来てて美味いじゃん。へえ、これは良い感じだ」
もう一切れ、今度は市松模様のを食べてみる。
「おお、渦巻きと食べた感じが違うぞ。面白い。模様で食感が変わるんだ」
市松模様の方が、渦巻きよりもザクザク感がある。
「単に見かけの事だと思ってたけど、模様を変えるのにも意味があるんだ」
感心しつつクッキーを齧りながら、手を伸ばしてプリンアラモードと格闘しているシャムエル様の尻尾を堪能させてもらった。
「ふおお〜〜! これは素晴らしい! これは素晴らしい! プリンアラモード最高〜〜〜!」
叫びながらものすごい勢いで食べるシャムエル様は、カラメルソースと生クリームとアイスクリームまみれの大変なお姿になってる。
はっきり言って、本物のペットだったらこの瞬間に丸洗い決定レベルだよ。でもまあ、自分で洗浄出来るんだから放っておくけどね。
それより今は、大興奮していつもの倍以上になってる、この素晴らしき尻尾を好きなだけもふもふ出来る貴重な時間なんだからさ!
って事で、一応俺もおやつを楽しんでます感を出すために、時折クッキーを齧りながらひたすらもふもふな尻尾を撫で続けていた。
ああ、癒されるよ、この手触り……。
「何してるの?」
不思議そうなシャムエル様の声に我に返って目を開くと、顔じゅうアイスクリームと生クリームとカラメルソースまみれになったシャムエル様が、振り返って尻尾を握る俺の手を見つめていた。
「ナ、ナンデモアリマセン」
驚きのあまり、棒読みになってるし。
「あっそう。急に動かなくなるから具合でも悪いのかと思っちゃったよ」
だけど、シャムエル様は気にしなかったみたいで、それだけ言うと、そのまままた残りのアイスクリームに突撃していった。
あっぶねえ。
スイーツ作戦でシャムエル様の尻尾モフる時には、次からは絶対に目は閉じないようにしよう。
内心で冷や汗をかきつつ、知らん顔をしてまた尻尾をモフる。
シャムエル様がプリンアラモードを見事に平らげ、そのままベイクドチーズケーキとマフィンに突っ込んでいった。
「ふおお。これはまた美味しい! 美味しすぎる〜〜!」
これまた大興奮して、ベイクドチーズケーキを平らげ、マフィンに抱きつくみたいにして全身で張り付いて齧っている。
俺も、自分用に取ってあったベイクドチーズケーキと二種類のマフィンを順番に食べたよ。まあ一口ずつだったけどね。
「うん、確かに美味しい。我ながら感心するくらいにどれも上手く出来たな」
大満足してもう一つクッキーを口に入れると、また振り返ったシャムエル様と目があった。
大丈夫だ。今は尻尾を触ってない。
「今日はもうこれでお菓子作りは終わり?」
「いくら何でも、一度に作れる量には限りがあるって」
笑って顔の前で手を振ると、シャムエル様は笑って頷いた。
「そうだね。今回も、どれもすっごく美味しかったです!」
持っていた最後のマフィンをカケラも残さずに平らげたシャムエル様は、ぺたんとその場に座ってまずはベトベトになった顔と体のお手入れを始めた。
撫でたところが見事に綺麗になっていく。
「おお、お見事」
笑って拍手をすると、なぜだかドヤ顔で胸を張られた。
それから、同じくクリームが跳ねてベトベトになった全身を綺麗にして、唯一汚れていなかったもふもふな尻尾をせっせとお手入れし始める。
笑ってその背中を突っついてから、俺はかけらも残さずに綺麗に平らげられた二枚のお皿と空っぽのマイカップを見た。
何度見ても不思議になる。あの体よりも、お菓子とココアの全量の方が絶対に大きいと思う。一体あの体のどこに入ったんだろう?
「何、どうかした?」
俺がマジマジと見つめていたからか、尻尾のお手入れする手を止めてシャムエル様が不思議そうに俺を見上げている。
「何でもないです。どうやら今回のお菓子も気に入ってくれたみたいだな」
笑ってもう一度、今度はもふもふの尻尾をわざと摘んで撫でてやる。
「すっごく美味しかったです! またお願いしま〜〜〜す」
速攻で尻尾を奪い返したシャムエル様は、嬉しそうに目を細めてそう言うとまた尻尾のお手入れを始めた。
「おう、まだ作りたいお菓子はあるから、次回作に期待してくれて良いぜ」
「はあい! 期待してま〜〜〜す!」
力一杯断言されて、笑って立ち上がり汚れたお皿とカップを全部綺麗にしてもらった。
「それにしても、そろそろいい時間だな。あいつらどこまで行ったんだ?」
ふと周りを見渡すと、もう日は暮れかけていて西の空は赤く色づき始めている。
慌ててランタンを取り出して火を入れ一つは机の上に、残りはテントの梁に付いてる金具に取り付けて回った。半分はベリーが手伝ってくれたのでお礼を言って机に戻る。
「じゃあ夕食の用意でもしておくか。俺はまだ腹一杯だけど、あいつらが戻って来たらきっと腹が減ったって言うだろうからな」
そう呟き何を作るか考える。
気温も下がって冷えて来たし、鍋にするか。
その時に、ふとぼたん鍋を喜んだシルヴァ達の事を思い出した。
「よし、久しぶりにぼたん鍋にしよう。あれなら材料は切るだけだしな」
メニューが決まったところで、サクラから材料を取り出してもらい、まずは寸胴鍋に出汁を取るためのお湯を沸かすところから始めた。