ココアとスペシャルプリンアラモード
「さて、気分を変えて次はココアだな」
一つ大きく深呼吸をしてから、取り出した片手鍋にココアを大きめのスプーンで二杯すくって入れる。
「今からココアを作るよ」
そう言って、マイカップにたっぷり一杯分、ミルクを入れておく。
「無糖のココアを入れる時って、まずはこんな風に先に水でココアを溶いてから作るんだぞ」
そう言って、目を輝かせるシャムエル様に見せながら、片手鍋にスプーン一杯分の水を入れて粉状のココアを混ぜ始める。
まだこの時には鍋は火にはかけない。
「ええ、全然混ざってないよ」
鍋を覗き込んだシャムエル様が、完全に分離したままのココアと水を見て首を傾げる。
「今はこうだけど、まあ見てろって」
笑いながら、分離したままのココアをせっせとかき混ぜる。
すると突然にココアと水が混ざり始めた。
更にそのまませっせとなめらかなペースト状になるまでひたすら延々と混ぜ続ける。ここを適当にすると、なめらかで美味しいココアが出来ないので手は抜けない。
ねりココアが完全になめらかになり艶が出てきたところで手を止め、数回に分けてミルクを鍋に入れる。
その度にせっせとかき混ぜると、ペースト状だったココアが完全に溶けてミルクが茶色くなる。
ここまで出来ればここでやっと火にかけて温め始め、沸騰する前に火から下ろして砂糖を入れれば完成だ。
一応、砂糖はスプーン二杯分。コーヒーは無糖派の俺だけど、ココアは甘く無いと美味しく無いからね。
冷めないように、これは一旦収納しておく。
その時のシャムエル様の悲しそうな顔といったら!
「楽しみは後に取っとくもんだぜ」
態とらしくキメ顔でそう言ってやると、この世の終わりみたいな顔で見られた。解せぬ!
「それでは、いよいよ本日のメイン。スペシャルプリンアラモード作りに取り掛かるか」
そう呟いて、まずは砂糖を入れた生クリームをアクアにしっかり泡立ててもらう。これは飾り用だ。
それから、イチゴとリンゴ、ブドウやさくらんぼなど、手持ちの果物を適当に取り出して切っていく。
もちろんりんごはうさぎのリンゴにしたし、イチゴも扇状に飾り切りにしたよ。それからいくつかはサイコロ状に切ってまとめておく。
ブドウは、半分に切って種を取り出しておき、ミニバナナっぽいのもあったので斜めにスライスしておく。蜜桃も取り出して、少し切り取りこれもサイコロ状に切っておく。
それから、チョコ入りのマフィンとリンゴの砂糖漬け入りのマフィンの、それぞれ形の悪いのを一つずつ取り出して、これも一口サイズのサイコロ状に切る。
これでスペシャルプリンアラモードの準備は完了だ。
「ええと、どの皿で作るかなあ」
残念ながら、足付きのグラスなんて無いからちょっと考えてしまう。
結局、白の陶器のお皿でカレー皿みたいな感じに器の縁が大きく広がった花みたいな形のにした。
「まずは真ん中にプリンを落とします」
綺麗に出来た方のプリンを取り出し、お皿の真ん中に当てて蓋をしてからひっくり返す。
「よし、完璧!」
カラメルソースが少し流れてプルンプルンのプリンが姿を出現した。こっちには全くすが入っていない、蒸し時間は完璧だった模様。
なんだか嬉しくなって、作り置きしてあったアイスクリームを取り出してスプーンで丸っぽくすくい取ってプリンの横に並べておき、更にその横には生クリームをたっぷりすくって落とす。
サイコロ状に切った果物とマフィン二種類を生クリームとアイスの横に盛り付ける。扇イチゴをアイスの上に飾り、プリンの上には真っ赤なさくらんぼを一粒乗せる。
それから、隙間に斜め切りのバナナとうさぎのリンゴを飾ればスペシャルプリンアラモードの完成だ。
いやあ、思った以上にめっちゃ豪華になったよ。
「それから、ベイクドチーズケーキも切りますよ」
そう呟き、取り出したチーズケーキを切ろうとして手を止める。
「何々、ケーキを切る時の注意事項? あ、前回レアチーズケーキを切った時と同じだな。これもナイフを温めて切るのか。ふむふむ。そっか、これもくっつかないようにそうするんだな」
レシピに書かれていた注意事項を読んで納得して頷き、片手鍋にお湯を沸かしてナイフを温めて水気を拭き取ってからベイクドチーズケーキを切ってみる。
「おお、めちゃ綺麗に切れた」
ちょっと感動するくらいに綺麗に切れた。
成る程。お店で売ってるケーキって、こうやって切ってるんだと密かに感心したよ。
切ったベイクドチーズケーキは、ケーキ用のお皿に一切れ乗せて、横に二種類のマフィンも並べ、生クリームとサイコロ状に切った果物をチーズケーキの横に飾れば完成だ。
もうさっきから、俺の後頭部の辺りをずっと誰かが必死になって引っ張ってる。
犯人が誰なのかは、もう見なくても分かってるけどね。
収納してあったココアを取り出し、いつもの簡易祭壇にプリンアラモードのお皿とケーキとマフィンが乗ったお皿を並べ、それから収納してあった山盛りのクッキーも全部並べる。
チーズケーキのお皿の横に、ココアの入ったマイカップを並べて、スプーンとフォークを並べてからそっと手を合わせて目を閉じた。
「お待たせしました。スペシャルプリンアラモードとリンゴの砂糖漬け入りマフィンとチョコマフィン、ベイクドチーズケーキ。それからクッキーも焼きました。あったかいココアと一緒にどうぞ。きっと気にいってくれると思います」
小さくそう呟くと、もうこれ以上ないくらいに何度も頭を撫でられたよ。
小さく笑って目を開けると、いつもの収めの手が左右両方現れてて、順番に、それはそれは嬉しそうにケーキやクッキーを撫でまくり、スペシャルプリンアラモードも触りまくっていた。
そして最後は、それぞれにお皿ごと持ち上げてから、俺に向かって両手でダブルOKマークを作ってから消えていった。
「なんだか知らないけど、気に入ってくれたみたいだな。めっちゃ喜んでるっぽい」
苦笑いして振り返ると、こちらもめっちゃ大きなお皿を持ったシャムエル様が、それはそれはキラッキラに目を輝かせて俺を見上げていた。シャムエル様の周りにも、写真加工ソフトのエフェクト処理で見たような星が光り輝いていたのは……気のせいだと思いたい。
「はいはい、ちょっと待ってくれって」
笑った俺は、小皿とナイフを取り出して二種類のマフィンとベイクドチーズケーキを一欠片ずつ切り取り、残りはそのままシャムエル様の目の前に並べた。
クッキーは別の小皿に適当に盛り合わせておき、残りは湿気ないように一旦収納しておく。
ココアもそのままシャムエル様の目の前に並べた。
「俺はいいから、お好きなだけどうぞ。ただし、腹具合と相談しながら食ってくれよな」
「うわあ、ありがとう。さすがは私の心の友だね。では遠慮なくいっただっきま〜す!」
笑ってそう叫ぶと、もうこれ以上ないくらいにキラッキラに目を輝かせたシャムエル様は、俺の指に抱きつき、思いっきり頬擦りしてからプリンアラモードに文字通り頭から突っ込んで行った。
何やら大変な事態になっているが、まあ喜んでくれてるみたいなので放っておいても別に大丈夫だろう。
小さく笑った俺は、すの入った方のプリンを一つ取り出してそれを小皿にひっくり返して出し、別のカップにコーヒーを入れてから席について手を合わせた。
「それじゃあ、いただきます!」