引き続きお菓子作り!
「ええと、このクッキー生地を薄く引き伸ばして重ねて巻けば渦巻き模様が作れるのか。なるほど。巻き寿司みたいなもんだな」
妙に納得した俺はそう呟いて麺棒を取り出す。
「薄紙に挟んで伸ばすと簡単。ほお。この紙がラップ代わりって事か」
レシピの説明を見ながら、書いてある通りに薄紙で挟んで麺棒で伸ばしてみる。
「ええと伸ばした生地の幅を合わせて……幅を合わせるって、どうやるんだ?」
机の上には、大きく丸く伸ばされたバニラのクッキー生地があるんだが、次のココアの塊を手にしながら首を傾げる。
「ご主人。それ、端っこを紙ごと折って、紙を外してもう一度挟んで伸ばせば良いんじゃない?」
触手を伸ばして手を上げるみたいにしたサクラの言葉に納得する。
「そっか、幅を決めてその幅に折ってもう一度伸ばせば良いんだな。よしやってみよう」
言われた通りに、上側の紙を外して下の紙ごと幅を決めて折り、上からもう一度紙を重ねて伸ばしてみる。
「よしよし、いい感じに伸ばせたぞ」
なんだか楽しくなって来て、もう一個のココア味の生地も同じようにして伸ばす。
「で、これを重ねて丸めればいいんだな」
両端を揃えて何とか二枚に重ねることが出来たので、最後は端から巻いていけば完成だ。
「今の見て、分かったか?」
机の上で整列して俺のする事を見ていたスライム達にそう尋ねると、いきなりスライム達が飛び跳ね始めた。
「見た見た!」
「もう分かったもんね!」
「次からはアルファ達が作りま〜す」
「作りま〜す!」
最後はご機嫌で全員揃ってそう言ってくれた。
ってか、やりたい気持ち全開じゃん。
じゃあクッキーは、これからは俺は材料を計るだけで良さそうだな。
「あと、タイル模様も出来るって書いてあるけど、タイル模様って何だ?」
首を傾げつつ説明を読んで分かった。要するに市松模様だ。
「何々、綺麗にするコツは、高さと幅を1対2で合わせて細長く伸ばして正方形の棒状になるように縦に切る事。それで二色の互いを入れ替えて交互に重ねるわけか。なるほど、これは簡単そうだ」
確かに、クッキーでそんな模様のがあった気がする。
「へえ、何だかこれは面白そうだ。工夫すれば金太郎飴みたいに顔の模様とか作れそうじゃんか」
とは言え、初心者が無茶すると絶対ろくな事にはならないので、まずは基本の模様を作るよ。
って事でスライム達の大注目を集めながら頑張り、若干歪んだけど市松模様も何とか無事に作ることが出来た。
無事に作れたクッキー生地は、一旦凍らせて収納しておく。
「ええと、じゃあ次はベイクドチーズケーキを作るか。今更クラッカーが大活躍じゃん」
ここへ来た時に鞄の中に入っていたクラッカー。前回のレアチーズケーキを作る時に土台にしたけど、今回もこれを使うぞ。
「ええと、材料はクリームチーズに砂糖、それから卵に小麦粉、あとは生クリームとレモン果汁。土台用がクラッカーとバター。よし、全部あるぞ」
レシピ通りに材料を計っておき、クリームチーズは時間経過で室温に戻してもらう。
「じゃあ、前回やったみたいに、この金型に砕いたクラッカーをバターと一緒にして敷き詰めてくれるか。ええと、イプシロンとエータにお願いしようかな」
すでに砂時計にはゼータがやる気満々で待機している。最近のゼータは、砂時計を使う時は砂時計担当になってるみたいだ。
オーブンを取り出し温度を設定して温めておく。
「ボウルにクリームチーズを入れてなめらかになるまで泡立て器で混ぜる。で、他の材料を順番に入れて混ぜればいいのか。簡単じゃん」
俺の説明を聞くなり、エータとアクアがボウルに入れたクリームチーズをせっせと泡立て器で混ぜ始めた。しかもよく見たらアクアの触手がレース模様になってる。
「そっか。クロッシェも一緒にお手伝いしてくれてるんだな。ありがとうな」
誰かに見られる可能性があるので、クロッシェはここでは出てきていないけど、どうやらアクアと一緒にお手伝いしてくれているみたいだ。
「はあい、お手伝い出来るからね!」
レース模様の触手で敬礼したアクアがそう言ってくれたので、手を伸ばしてアクアを撫でてやる。
「それで、クラッカー生地を敷き詰めた金型に、これを全部流し入れて焼けば出来上がりだ。めっちゃ簡単じゃん」
温まったオーブンに金型を入れてゼータを振り返る。
「一応、焼くのは50分くらいらしいから、砂時計が五回落ちたら教えてくれるか」
「了解です!」
砂時計をひっくり返したゼータが、触手で敬礼してくれる。
そういえば最近スライム達がよくやってるけど、あれってどこで覚えたんだろうな?
振り返ると、もう使った道具は全部綺麗にしてあり、どれもピカピカだ。超楽ちん。
「ええと、あとはどれを作るかな。だけどオーブンは使ってるから……予備を出すか」
二台買っていたのを思い出し、もう一台のオーブンも取り出しておく。
「マフィンを作ってみるか。ええと、定番のバニラで、師匠が作ってくれたリンゴの砂糖漬けを入れたのと、あとはチョコ入りの二種類かな」
プリン型は大量にあるみたいなので、材料を二回分まとめて計っておけば一気に作れそうだ。
「ええと、材料は小麦粉とふくらし粉、バターと砂糖と卵、ミルクだな。で、あとは中に入れる具のリンゴの砂糖漬けとチョコっと。よし。これも全部ある」
確認してから、レシピ通りに材料を倍量で計っていく。
「しかし、どのレシピもバターや砂糖の量が半端ないんだけど、それらを大量に使う事に対してあまり忌避感や罪悪感を感じなくなってきたぞ。ううん、慣れって怖い」
苦笑いしつつ、またバターを砂糖と一緒にして白っぽくなるまで泡立て卵を入れながらさらに泡立てる。これも最初にちょっとだけ俺がやったら、あとはスライム達が全部やってくれてる。
「ええと、ふくらし粉を混ぜた小麦粉とミルクを交互に数回に分けて振るい入れながらその都度混ぜる。へえ、面倒な事するんだな。一度で混ぜちゃあ駄目……なんだろうなきっと」
一瞬、一度に全部混ぜればいいんじゃね?とか思ったけど、師匠のレシピにわざわざそう書いてあるって事は、何か意味があるんだろう。諦めてとにかくレシピ通りに数回に分けてスライム達に入れてもらいながらせっせと混ぜ合わせていく。
きっと素人が失敗するのって、だいたいこう言う細かい過程を面倒くさがって省略した時とかに起こるんだよな、絶対。
「このプリン型の内側に、バターを薄く全体に塗って小麦粉を振るい入れるんだ。以前パウンドケーキを作った時にやったのと同じだよ」
サクラとアルファが張り切ってやってくれたので任せておき、リンゴの砂糖漬けの入った瓶を取り出して思い出した。
「あ、大変だ。オーブンを温めておかないと」
慌てて温度を確認して温めておく。オーブンの予熱は大事だよ。
出来上がったマフィンの生地を、用意したプリン型に適当に分けて入れ、リンゴの砂糖漬けを入れたのと、半分くらいに割ったチョコを入れたのを作る。
まずは、リンゴの砂糖漬けの入ったのをオーブンに入れて別の砂時計で20分測ってもらう。これはイプシロンがやってくれた。
チョコの方は、一旦収納しておき後で焼く事にする。
「はあ、じゃあ焼けるまで休憩だな」
そう言って椅子に座った俺は、大きく伸びをして師匠のレシピを改めて読み返す事にした。
オーブンの前では、尻尾を倍くらいに膨らませたシャムエル様が、キラッキラの目をしてオーブンの中を見つめていたよ。期待度が半端ねえっす。