お菓子作りスタート!
「じゃあ、スイーツタイムに突入だな。期待されてるみたいだから頑張らないとな」
取り出した師匠のレシピ帳を見ながら、割と真剣に何を作るか考える。
「前回は何を作ったんだっけ。確かパウンドケーキとレアチーズケーキ、ブラウニーにアイスクリームまで作ったんだったよな。ううん、ちょっと張り切り過ぎた気がするぞ、俺にも作れそうなレシピが無かったら、同じメニューでも許されるかなあ……」
そもそも俺が知ってるお菓子の種類で、しかも俺が作れそうなものって多分、数えた方が早そうだ。
ちょっと泣きそうになっていたが、良いものを見つけた。
「ベイクドチーズケーキ? レアチーズケーキと何が違うんだ? 何々、ああ、材料を混ぜて焼くだけか。これなら俺でも作れそうだ。よしよし、一つはこれに決定だな。後は……そう言えばクッキーとかって作った事ないけど難しいのか?」
パラパラとめくりながらふと思いついた。
「クッキーって、何となく子供が作る最初のお菓子っぽいからきっと簡単なんだろう。よし、クッキーだったらたくさん作れそうだからやってみよう。何処にあるかな?」
レシピ帳の索引を調べる。
「ええと、あったあった。はあ? アイスボックスクッキー? アイスの箱って、何だそれ?」
首を傾げながらとりあえずレシピを見てみる。
「ああ、なるほど、作った生地を一回冷凍させるのか、それを解凍してスライスして焼くわけか。成る程、これなら型抜きしなくて良いな。よし、やってみよう」
しかも、書いてある材料は、小麦粉と砂糖にバター、それから卵と至ってシンプルだ。色を付けるためにココアを使うと書いてあるのを見て考える。
「サクラ、ココアってある?」
「あるよ〜。これだね。お砂糖は入ってないから、ココアにする時はお好みで甘くしてくださいって言ってたよ」
綺麗な瓶に入った茶色の粉末を見せてくれる。よし、無糖ならお菓子の材料にも使えるな。
実は俺、無糖のココアでも上手に作れるんだよ。
あれってうっかり作ると、ココアが塊になってしまったまま溶けなくて全然美味しくないんだよな。ちなみにこれは、バイト時代に定食屋の店長から教えてもらったレシピだ。
会社の営業時代、冬になると取引先の人や同僚達に何度も教えた人気のレシピでもある。
いつだったか、難しい年頃の中学生の子供がいる課長に教えたら、これのおかげで娘が口をきいてくれるようになったと言って、後日お礼のビール券をもらった事まであるくらいに特に女性に人気のレシピだ。
まあ、俺は自分ではココアはほとんど飲まないけどね。
後でこれも作って一緒に供えてやろう。多分だけど、シルヴァとグレイはココアは絶対に好きそうだもんな。
そんな事を考えて、ココアの入った瓶を小麦粉の横に置く。
知らなかったけど、この世界ではココアって高級品だったらしくて、今回のお菓子の材料の中では、使う量は一番少なかったのに一番値段の高い材料だったらしい。
……まあ、神様に捧げるんだから別にちょっとくらい高くてもいいよな。
「他には何かないかな。おお、パウンドケーキのアレンジが色々載ってる。何々、ココアでマーブルケーキが出来るのか。よし、これも作ろう。へえ、おからを入れても作れるんだ。後は……マフィンか。よし、これはたくさん作ってランドルさんにも差し入れ決定だな」
パウンドケーキのページの後に、いろんなアレンジが載った簡単そうなレシピの名前がマフィンだった。
詳しくレシピを読んで、思わずそう呟く。
「マフィンを焼く時の金型はプリン型を使うのか……ええ、プリン型? あ、それがあればプリンが作れるじゃん! 昔母さんが作ってくれた、蒸し器で作る定番のカスタードプリン! あれ食べたい! レシピは……よし、あるぞ!」
拳を握って叫んだところで我に返る。
落ち着け俺。お菓子作りは初心者の俺が、いくら師匠のレシピが完璧でもいきなりそんなにたくさん作るのは無理だ。
よし、優先順位をつけて作っていこう。
「ええと、まずは何からすべきだ?」
候補は、ベイクドチーズケーキ、アイスボックスクッキー、ココアマーブルケーキ、おからケーキ、マフィン、プリン。
うん、落ち着いて考えてみたら全部は絶対無理だ。多分二回か三回分レベル。
「じゃあ、まずはクッキーの生地を作って凍らせておくか。そうすればいつでも焼けるもんな。それから混ぜるだけですぐ焼けるベイクドチーズケーキかな。それからマフィンを作れたらいいかな。後は様子を見ながら考えよう」
作る予定のページには全部、しおり代わりに切ったメモ紙を挟んでおく。
「じゃあまずはクッキーの生地作りだな。何々、二色作ったら模様が作れます? へえ面白そう、俺でも出来るかな?」
何となくシルヴァ達が喜びそうだったのでやってみる事にする。
「ええと、材料は砂糖と小麦粉とバターと卵黄。色をつけるならココア。よし、全部あるぞ」
他には、生地を形作る時には料理用に作られた薄い紙を使うらしい。これもセレブ買いで一巻きたっぷりと購入してるからそれを使うよ。多分、俺の知る料理用のパラフィン紙みたいな感じだ。
机の上に取り出した材料を、お菓子用に置いてあった計量カップと計量スプーンを使ってどんどん計っていく。
まずは、クッキー生地のバニラ味とココア味の二種類を同量作るよ。
「考えたら、キッチンスケールって便利な道具だったんだな。でも師匠のレシピは、基本この計量カップやスプーンで全部計れるように書いてくれてあるから有難いよ」
最後のココアを計ったところで手を止めて、一旦散らかった机の上を整理する。
「ええと、バターは室温に戻すんだな」
待ち構えていたアルファに、冷えて硬いバターの時間を経過させて温度をあげて柔らかくしてもらう。
「ええと、まずはバニラのクッキー生地を作りますよ。その後、同じやり方でココア生地も作るから皆、よろしくな。まずは柔らかくしたバターに砂糖を入れて、白っぽくなるまで泡立て器で混ぜる。よし、ベータとガンマ、よろしく」
ボウルにバターと砂糖を入れて泡立て器と一緒に渡してやると、ベータとガンマがご機嫌で混ぜ始めた。
「デルタ、ここに卵黄を分けて入れてくれるか。残った卵白はこのお皿に入れておいてくれるか」
お皿を二つ渡してお願いする。
「卵黄はベータ達が混ぜているボウルに一緒に入れて混ぜてくれ。それが終われば、この小麦粉をザルで振るいながら入れて、木べらでさっくりと混ぜ合わせればバニラ生地は完成だ」
あっという間に出来上がったバニラ生地を用意してあったお皿の上に固めて取り出したら、一瞬で綺麗にしたボウルに、次のココア入りクッキー生地を張り切って作り始めるスライム達を見て、俺はもう笑うしかない。
相変わらず優秀なスライムアシスタントのおかげで、俺はここまで、材料を計って作り方を指示しただけだよ。
「お菓子を作ってると卵白ばかりが残るから、後で玉子を追加して卵焼きでも作るか」
張り切ってるスライム達を見ながら何となくそう呟く。
この時の俺はまだ知らなかったんだけど、師匠のレシピにはちゃんと卵白を使ったレシピも色々用意されていたんだよ。
ありがとうございます師匠、アフターケアも完璧っす。