昼食と留守番
「はあ、ちょっと腹が減ってきたな」
それぞれの従魔達を思いっきり走らせ続け、大きな森を一つ越えたあたりでようやく止まる。
「確かにそろそろ昼だな。どうする?」
林の横で止まった俺の呟きに、ハスフェル達が同じく止まって辺りを見回す。
「何処か、良い場所があったらそこで食事にしようか。その後はどうするかなあ」
とにかく人のいないところに行きたくて街を出てきたけど、別に無理してジェムモンスターと戦いたいわけじゃない。第一ジェムは余りあるくらいに有るから無理する必要もない。
「それならケンは、シルヴァ達に供えるお菓子でも作ったらどうだ。俺達はちょっとそこらで憂さ晴らしをしてくるよ」
「憂さ晴らしって……」
呆れたようにそう言ったが、彼らはどうやら本気のようだ。まあ、彼らの心配を俺がするのも失礼だろう。
「良いなそれ。じゃあそうしようか。どうする? ここで良いか?」
「それならこの先に綺麗な水が湧いている場所がある。そこで良いんじゃないか」
ギイの言葉に、このままもう少し林沿いに移動する。
「あ、本当だ。綺麗な泉発見」
林の奥にあった平地は所々に岩がむき出しになっていて、その岩のうちの一つの裂け目から綺麗な水が噴水のように吹き出していた。その溢れ出した水はすぐ横にある岩に流れ落ちて、大小の段々になった水盤を作り出していた。そして水盤から溢れた水は、足元の地面に小川となって林の中に流れていた。これって川の源流って事だよな。ちょっとすごい水量だ。
「これは飲める水?」
大小の水盤を覗き込みながらそう尋ねると、マックスの頭の上にいたシャムエル様が嬉しそうに頷いている。
「もちろん飲めるよ。なかなか良い水だね」
そう言って、一瞬で水盤の縁に移動してちっこい手を水の中につけた。
「ううん、冷たくて気持ち良いねえ」
「どれどれ、おお本当だ。ひんやり冷たくて気持ち良いな」
下の段の水盤に手を入れてみて、思った以上の冷たさに驚きつつ、あまりの気持ち良さにがっつり手を洗っちゃったよ。
水が豊かって、良い世界だなあ。
「じゃあ、作り置きでいいな」
早速作ったサンドイッチ各種とコーヒーを取り出して、各自好きなように取ってもらう。
ううん、一気に人数が減ったせいか、あんまり料理が減っていないように感じるのは俺の基準がおかしくなってるせいだな。標準的な常識って大事だよな。気を付けよう。
苦笑いしつつ、シャムエル様用の俺が作ったオムレツサンドを二切れと鶏ハムサンドを取り、ちょっと考えてソースカツサンドとクラブハウスサンドも取っておいた。
何しろ、最近のシャムエル様は食う量が半端ないから、絶対にオムレツサンドだけでは済まないものな。
マイカップにたっぷりのコーヒーを入れて席につく。
当然のように大きなお皿を取り出したシャムエル様が機嫌よくステップを踏んでいる。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャン!」
最後は片足立ちで見事な回転を披露して、決めのポーズだ。
「おお、すごいすごい」
笑って拍手してから、差し出されたお皿を受け取る。
「どれにする?」
「オムレツサンド一切れと、あとは全部半分ずつください!」
まさかの半分こ。まあいいけどね。
苦笑いしつつ、言われた通りにオムレツサンドを丸ごと一切れと、残りは全部半分に切って綺麗に盛り付けてやる。
差し出された蕎麦ちょこにはコーヒーをたっぷり入れてやり、ショットグラスも差し出されたのを見て、立ち上がって急いで自分用のグラスにいつもの激うまジュースをミックスして入れてきたよ。
「はい、どうぞ。これで全部だな」
ジュースもショットグラスに入れてやって、目を輝かせて大人しく座って待っているシャムエル様の目の前に並べてやる。
「うわあい、どれも美味しそう。では、いっただっきま〜す!」
機嫌良くそう宣言すると、両手で持ったオムレツサンドにやっぱり顔面から突っ込んでいった。
相変わらず食べ方が豪快だね。
それを笑って見ながら、俺の自分のオムレツサンドに齧り付いた。
うん、自分で作って言うのも何だが、美味いなこれ。
大満足の昼食を終え、しばらく休憩してからハスフェル達はマックスやニニをはじめとした肉食系の従魔達を引き連れて出掛けていった。
セーブルと草食チーム、それからお空部隊は残ってくれて交代で林の辺りで食事にするんだって。
「そう言えば、セーブルって肉食じゃないんだな」
今までもどちらかというと、ベリーと一緒に果物を喜んで食べているところを何度も見た。普段は外では猫族軍団と一緒に移動しているけど、考えたら狩りについて行ってるのは見た事が無い。
「そうですね。必要とあらば動物の肉や魚も食べますが、絶対に肉でないと駄目ってわけではありませんよ。どちらかというと、どんぐりやリンゴなどの木の実や果物、あとはキノコやちょっとした昆虫なんかが好きですね」
「じゃあ雑食って感じか。そっか、動物園の熊って確かに果物とかどんぐりとかを食べていたなあ」
何となく肉食のイメージだったけど、熊って意外に草食寄りの雑食なんだ。
「いつも一人だけ狩りに行けなくて申し訳ないと思ってたけど、残ってても別に大丈夫なんだな」
「そうですね。そこらの林で昆虫や木の実程度はすぐに見つかりますからご心配なく」
ちょっとドヤ顔でそう言ったセーブルは、嬉しそうに俺の足に擦り寄ってきた後、少し離れた地面に座った。
「留守番する時の俺の警備担当だな。ありがとうな」
手を伸ばして大きな頭を撫でてやってから、綺麗に片付いた机の上を見てサクラを抱き上げた。
「じゃあ、スイーツタイムに突入だな。期待されてるみたいだから頑張らないとな」
サクラを机の上に乗せると、俺は師匠のレシピ帳を取り出して椅子に座った。
さて、何を作ろうかねえ。