郊外へ出よう!
「じゃあ、これでお願いします」
寄付や継続支援の場合、ギルドの口座から引き落としが出来ると書かれていたので、ハスフェル達と相談の結果、俺の口座から毎月金貨五十枚分を引き落としてもらうようにお願いした。
まあ、はっきり言って口座にはとんでも無い金額が入ってるのでもっとお願いしても良かったんだけど、継続支援なら個人ではこれくらいが相場だって言われてこの金額に落ち着いた。
万一口座に金が無くなるとその月以降は引き落としはされなくなるので、その際には再度手続きが必要なんだってさ。了解。念のため時々は口座の残高を確認するようにします。
申込書の控えをもらって、ギルドの宿泊所で庭付きの部屋を四部屋お願いしておく。まあ今夜はもしかしたら野外でテント生活かもしれないけど、バッカスさんの店が開くまではまだいるつもりだからね。
クーヘンが家に泊まってくれていいって言ってくれてるんだけど、これは遠慮してるんじゃなくて俺がマックスやニニと一緒に寝たいんだよ!
エルさんとギルドのスタッフさん達に見送られてギルドを出る。
街の中では相変わらずの大注目だが、進めないほどじゃない。時折呼ばれる声に笑って手を振りながら城門へ向かう。
念話での相談の結果、とにかくまずは何でもいいから郊外へ出ようって事になった。
この、溜まりに溜まった何とも言い難いイライラや鬱憤は、郊外で思いっきり走って憂さ晴らしをしようと意見の一致を見たからだ。
城門を出てからしばらくはおとなしく街道の端っこを一列に並んで歩く。だけどやっぱりあちこちから声を掛けられ手を振られ、俺達は誤魔化すように笑っては手を振り返した。
「ああ、もう我慢出来ないぞ。俺は抜ける!」
意外に最初に音を上げたのはギイだった。
「走るぞ!」
そう叫ぶと、一気に街道沿いに植えられた低木樹の茂みを飛び越えて、そのまま街道の外に広がる草原へ飛び出していった。
「ああ、ずるい! 俺も行くぞ!」
叫んだ俺は慌ててマックスに合図を送ろうとしたが、すでにその時にはマックスは飛び上がっていた。
「うっひょ〜!」
予備動作なしの突然の大ジャンプは、低木樹の茂みどころか一定間隔で植えられている大きな街路樹さえも見事に飛び越えて草原へ勢いよく飛び出していった。
見事なアーチを描いて飛んだマックスの背の上で、俺は情けない悲鳴を上げて必死で手綱にしがみついていた。
だって、ものすごいジャンプの頂点では完全に無重力状態だったんだぞ。
遊園地のフライングカーペットも真っ青だって。相変わらずマックスの運動能力半端ねえっす。
全員が次々と街道から飛び出し一気に草原を駆け抜ける。
街道からは大歓声と拍手が沸き起こってたけど、別に構わないよな?
「行け〜マックス〜!」
俺の叫ぶ声にマックスがさらに加速する。
遅れずにハスフェルの乗るシリウスと、ギイの乗るデネブがピタリと左右に付き、俺の真横、少し離れたところをオンハルトの爺さんが乗るエラフィがこれまたすごい勢いで走ってついている。
「あの赤い葉っぱの木まで競争!」
マックスの頭の上に乗ったシャムエル様の声に、俺達全員の叫ぶ声が重なる。
さらに勢いを増した俺達は、横一列になったまま一気に目標の赤い葉っぱの木を通り過ぎた。
「誰が一番?」
しばらく流して走り、一つ林を抜けた先にあった別の草原で止まる。
林を抜けるときに若干散らばったハスフェル達も俺のところに集まってきた。
「では、発表します! 一位、オンハルト! 二位、ハスフェル! 三位がギイで、四位がケンだよ。だけどこれもほぼ同着だったね。いやあ皆速い速い」
シャムエル様が目を細めて楽しそうに教えてくれる。
「よっしゃ〜!一位取ったぞ!」
「うああ、ビリかよ。く〜〜これは悔しい!」
オンハルトの爺さんの叫びと俺の叫びが見事に重なる。
「よし、次は負けないぞ!」
「こっちこそ、次こそは勝つからな!」
互いの健闘を称えて拳をぶつけ合っていると、猫族軍団とセーブルがようやく追いついてきた。
「全く、獲物を追ってるわけでもないのにあんなに必死で走って。馬鹿じゃないの」
「本当よね。何が楽しくて無意味にあそこまで必死になって走れるのかしらね」
ソレイユとフォールの会話に他の子達までがうんうんと頷いている。
「ええ、駆けっこ楽しいじゃんか」
思わずそう言うと、割と本気で呆れた顔で見られた。
相変わらず、猫族軍団には駆けっこの楽しさは分かってもらえないみたいだ。
上空を旋回しながらついて来ているお空部隊に手を振り、俺達はまたそのまま勢いよく草原を走り出したのだった。
「ああ、何も考えずに走れるって最高だな!」
頬を打つ風に目を細めつつ、そう叫んだ俺とマックスは目の前に飛び出した倒木を一気に飛び越えてそのまま乱立する木々の隙間を縫うようにして走り続けた。
街を出る時に、胸の中にわだかまっていたいろんな言葉に出来ない未消化の気持ちが、走っていると何だか全部スッキリとどこかへ飛んで行ったのを感じていた。
やっぱりこんな風に自由に走るのが良いよ。
手を伸ばしてマックスのむくむくな毛を撫でてやりながら、俺は声を上げて笑ったのだった。




