朝食と今日の予定
「おはよう。すっかり寝過ごしたよ」
身支度を整えて居間へ出ていくと、確かにハスフェル達がゴロゴロしていた。
ハスフェルとギイは、それぞれの従魔であるレッドクロージャガーのスピカとベガを抱いてソファーに転がっているし、オンハルトの爺さんは一人用の椅子に座って、のんびりと剣を磨いていた。
「おう、おはようさん。俺たちもさっき起きたところだよ」
「おはよう。ってか、もう昼過ぎだってな」
笑ってそう言い、急いで机の上にサンドイッチやコーヒーを取り出す。
「ランドルさん達とクーヘンは、まだ起きてないみたいだな」
「みたいだな昨夜は遅くまで飲んでいたみたいだから、まだしばらく起きてこないんじゃないか?」
笑ったハスフェルの言葉に俺も笑って頷き、とりあえず腹が減ったので、まずは自分の分を確保することにした。
コーヒーをマイカップに注ぎ、師匠特製のオムレツサンドを二切れと、野菜サンドを取り、少し考えて鶏ハムサンドもふた切れお皿に乗せる。
「最近、シャムエル様の食べる量が半端ないんだよなあ。あれ以上太ったら……あ、そっか。別に俺と違って本当の体ってわけじゃ無いって言ってたもんな。もふもふな手触りが良くなるだけだから別に良いのか」
「別に、私はこれ全部食べても太りません!」
そんな事を考えていたら、突然右肩に現れたシャムエル様がそう言いながら俺の頬にもふもふな尻尾を叩きつけ始めた。おお、これは堪らん。良いぞもっとやれ。
いつもの簡易祭壇にサンドイッチの並んだお皿とコーヒーの入ったマイカップを並べる。
「お祭り参加お疲れ様でした。俺の最後はちょっと締まらなかったけど、勝ったところを見てもらえて嬉しかったよ」
いつものように手を合わせて目を閉じる。
しばらくして目を開くと、収めの手が俺の目の前にあってちょっと驚く。
「うぉ、何だ?」
驚く俺に構わず、収めの手はそっと俺の顔の鼻の辺りを右から左にゆっくりと撫でてからいつものように頭を撫でてサンドイッチに向かった。
順番にいつものように撫でてから、俺に向かって手を振ってから消えていった。
「あはは、そっか。ちゃんと俺の二連覇の証の緑のラインも見てくれたってか」
右手で鼻の上を撫でてから、苦笑いした俺はもう一度祭壇に手を合わせた。
そう言えば、あの顔面をぶった斬ってくれてた緑のラインは、サクラがすっかり綺麗にしてくれたおかげでもう跡形もない。
確か前回も一晩寝たら胸当てについてた印が消えてたから、多分それくらいで消える仕様になってるんだろう。どんな仕組みかはさっぱりだけどね。
空っぽになった祭壇を見て少し笑った俺は、サンドイッチの並んだお皿とマイカップを持って席に戻った。
待ってくれていた三人にお礼を言ってから、改めて軽く手を合わせる。
「で、どれにする?」
そう言いながら、お皿の横で今使ってるのと変わらないくらいの大きな皿を持っって軽やかなステップを踏んでいるシャムエル様を見る。
「オムレツサンドとそっちの鶏ハムサンドもください!」
予想通りの答えに、笑った俺は丸ごとふた切れお皿に並べてやる。
コーヒーは、蕎麦ちょこにスプーンを使って入れてやってから、ようやく自分の分を食べ始める。
うん、やっぱり師匠が作るオムレツサンドは美味しいよなあ。
はあ……そしてコーヒーが美味〜。
ちょうど俺達が食べ終わってまったりしていたところで、クーヘンが起きてきた。
「おはようございます。すっかり寝過ごしてしまいました」
照れたようにそう言いながらクーヘンが入って来たそのすぐ後に、明らかに二日酔いだろうと思われるランドルさんと、こちらいつも通りのバッカスさんの姿があった。
「おはようございます。俺達もさっき起きて、今食事が終わったところですよ。まだまだありますからどうぞ好きなのをとってください」
残りが少なくなっていたコーヒーのピッチャーを追加で出してやり、俺ももう一杯おかわりのコーヒーを入れる。
嬉しそうにサンドイッチを選ぶクーヘンとバッカスさんと違い、椅子に座ったまま呆けているランドルさん。
これはかなり二日酔いが酷そうだ。
笑った俺は、こっそり玉子がゆを小鍋に一人前取り出してコンロにかけて温めてやり、そっとランドルさんの目の前に差し出してやった。ついでに麦茶も一緒に並べておいてやる。飲んだ日の翌日は、水分補給はしっかりとな。
「おお……これはありがとうございます。いただきます」
嬉しそうにそう言ったランドルさんは、そのまま手を合わせて小鉢に取った玉子がゆを食べ始める。
「はあ、美味しいです。いやあ、飲んだ日の翌朝に当たり前のようにこれを出して下さるケンさんの優しさが染み渡ります」
妙にしみじみとそんな事を言われて、照れ臭くなって誤魔化すように咳払いをしてコーヒーを飲んだよ。
「さて、もう今日はゆっくりで良いよな。明日以降はどうする?」
このホテル暮らしも悪くはないんだが、マックスとニニが身近にいないのはやっぱり正直言って寂しい。なので俺的にはギルドの宿泊所へ戻っても良いかと思ってる。
「それならうちへ来てくださいよ。部屋は掃除してありますから泊まれますよ」
クーヘンが当たり前のようにそんな事を言ってくれる。
気持ちは嬉しいんだけど、やっぱりそれでも二匹は外の厩舎だもんな。そう考えると、従魔を全部部屋にあげていいギルドの宿泊所は、やっぱり特別なんだよな。
ううん、でもせっかくだからクーヘンの店の様子も見ておきたいし、バッカスさんのお店の件も気になる。
悩んで、同じく二杯目のコーヒーを飲んでいるハスフェルを振り返る。
「それなら今日はもう休みって事でここでゆっくりして、明日は従魔達を連れて郊外へ出るか。このところずっとホテル住まいだったからな。俺もちょっと外へ出て思い切り走りたい気分だ」
その提案には俺も同意しかない。
「確かに、部屋にいる従魔達はずっと小さくなったままだもんな。じゃあ、俺は今日はここでサンドイッチを作る事にするから、ハスフェル達は好きに休んでてくれよ。クーヘンとランドルさん達はどうしますか?」
ランドルさんとバッカスさんは、顔を見合わせて頷き合う。
「それなら我々はこのままマーサさんのお店へ行かせてもらいます。すでにギルド連合から青銀貨の発行は頂いているので、正式な契約をして家の鍵をもらってきます。話を聞く限り、大きな傷みなどは無いようなので、店舗の方はほぼそのまま使えそうなんですよ。家の家具も最低限ですが生活できるだけの備え付けの家具があるし、店の商品棚などもそのまま使えそうなのがかなりあるみたいです。炉の状態を見てからになりますが、ここまで来たら、出来るだけ早く開けたいですからね」
バッカスさんの言葉に俺達も笑顔で頷く。
どうやら昨夜の飲み会で、クーヘンの店のオープンまでの大騒ぎを聞いたらしく、クーヘンとバッカスさんは顔を見合わせて楽しそうに大笑いしていた。
「店を開けるって、本当に人生の一大事だもんなあ。でもせっかくだから、俺達にもちょっとくらい手伝わせてくださいよ。掃除でも何でもしますよ」
「ありがとうございます。手がいる際には、ぜひお願いします」
笑顔のバッカスさんと手を叩き合い、その後俺はキッチンへ、ランドルさんとバッカスさん、それからクーヘンも一緒に、三人はマーサさんのところへ出かけて行った。
さて、それじゃあ俺は在庫が少なくなってるタマゴサンドでも作るとするか。




