お疲れ様の朝
「はあ、疲れたよ〜!」
ホテルの部屋に戻った俺達は、もう何をする気力もなく今日はこのまま解散となった。
とりあえず、まだ明日はここにいていいみたいだから、ゆっくり休ませてもらおう。
疲れはもふもふ達に埋もれて寝て治すに限る。
装備を全部脱いだ俺は、いつものようにサクラに綺麗にしてもらってからベッドで待ち構えているセーブルの上に倒れ込んだ。
胸元にはタロンとフランマが並んで突進してきて二匹並んで俺の腕の中に収まった。胸元にフランマ、投げ出した俺の手に頭を突っ込んだのはタロンだ。そして背中はいつものようにラパンとコニーが巨大化して収まり、足元にはティグとマロンとヤミーが大型犬サイズになってマックスの代わりに収まる。
うん、足元のもふもふ度合いが最高ランクだ。
「毛布を掛けま〜す」
スライム達が上掛けに使っている大判の毛布を広げて掛けてくれる。
狼達とソレイユとフォールは、ベリーとくっついて団子になるらしい。
「では消しますね。今日は本当にお疲れ様でしたね。おやすみなさい、良い夢を」
優しいベリーの声が聞こえて部屋の明かりが一斉に消える。
「うん、確かに疲れたよ……おやすみ」
セーブルのやや硬めの毛に顔を埋めながら、襲いかかってくる眠気と戦いつつ何とか返事をする。
ううん。セーブルの枕も良いけど、やっぱりニニとマックスのもふもふとむくむくが恋しいよ……。
二匹のいる場所は分かってるし、もちろん安全だし大丈夫なんだけど、やっぱり寂しいものは寂しいんだよ。
「ニニ、マックス……」
他の子達ももちろん大好きだよ。だけどやっぱり俺にとってはあの二匹は特別な存在だ。
小さく大切な二匹の名前を呼んで、俺はそのまま目を閉じて眠りの国へ気持ちよく墜落していった。
俺の呟きに顔を上げたセーブルがまるで慰めるみたいに優しく、投げ出されていた俺の腕をそっと舐めてくれた事に、そしてそんな俺達をベリーが優しい目で見つめていた事にも、もう眠ってしまった俺が気付く事は無かった。
ぺしぺしぺし……。
「……」
「反応全く無し。まあ、気持ちよさそうに寝てるねえ」
「起こしますか?」
「まあ、昨日は大活躍だったからさあ。まだ今すぐホテルも出なくて良いみたいだから、好きなだけ寝かせてやって良いんじゃない?」
耳元でシャムエル様と誰かが話す声が聞こえてぼんやりと目を覚ました俺は、相変わらず全く動かない自分の身体に呆れつつ、聞くとは無しに話す声を聞いていた。
「じゃあ、せっかくだからもっとくっついて寝ようっと」
「ああ、ずるいソレイユ。私だってくっつきたいのに」
「それじゃあこうしようよ。お顔の横なら左右にくっつけるでしょう?」
「良いわね。じゃあそうしましょう!」
ソレイユとフォールが嬉しそうにそう言って、いそいそと俺の顔の左右に丸くなって張り付く。
ええと……今俺の顔面は多分、丸くなったフォールの脇腹に顔を突っ込む形で収まってるんだと思われます。
何このもふもふパラダイスは。一体何のご褒美ですか?
俺が無言で幸せに浸っていると、タロンがまた俺の手の平に頭を擦り付けてセルフよしよしを満喫し始めた。
それを真似たのか、フランマまでもが起き上がってもう片方の手の平に額をこすりつけ始めた。
うああ、これまた萌え死ぬ〜! ダブルセルフよしよしだ!
何をしてる。今、目の前に奇跡のもふもふパラダイスな世界が展開してるんだぞ。今すぐ開くんだ。俺の目よ〜!
しかし、残念ながら俺の目は全く全然、これっぽっちも開きませんでした。
ついでに言うと、頭はもうすっかり目が覚めてるんだけど、寝返りも打てないレベルに俺の身体はまだ完全に熟睡中です。
諦めてぼんやりしているとまたいつの間にか眠ってしまったらしく、次に目が覚めたのはお昼をとうにすぎた時間だった。
いくら疲れてるって言っても、いくら何でも寝過ぎだと思うぞ。
「あ、やっと起きたね。おはよう」
セーブルの頭の上に座って尻尾の手入れをしていたシャムエル様が、目を開いた俺に気付いて顔を覗き込んできた。
いつの間にかソレイユもフォールも、それからタロンもフランマもいなくなってて、俺は代わりにヤミーとマロンを抱き枕にして寝ていたみたいだ。
あれ、いつの間に抱き枕が交代したんだ?
「うん、おはよう」
不思議に思いつつも何とかそう返事をする。
「もうお昼過ぎだけどね」
「あはは、でもおかげですっかり元気だよ。腹減ったし起きるか」
起き上がって、ベッドに座ったまま大きく伸びをする。
「ええと、ハスフェル達は?」
強張った体を伸ばしながらそう尋ねると、シャムエル様が俺の膝の上によじ登って上がってきた。
「ついさっき起きて来て居間でゴロゴロしてるよ。ランドルさん達とクーヘンはまだ寝てるね。昨日はかなり遅くまで飲んでて、相当お疲れみたいだから、まだしばらくは起きないんじゃない?」
笑って頬をぷっくらさせながらそんな事を言う。
うああ。そのぷっくらな頬を俺に突かせてくれ〜!
脳内で叫びつつ、笑ってシャムエル様をセーブルの頭に戻して立ち上がった俺は、まずは顔を洗うためにサクラと一緒に洗面所へ向かった。