お疲れ様の祝勝会と慰労会
「お待たせしました。この後はホテルハンプールで祝勝会と慰労会があるので移動します。出発のご準備をお願いします」
商人ギルドの職員さんからそう言われて、のんびりとテントで寛いでいた俺達はそのまま従魔達全員と一緒にホテルハンプールへ移動したよ。
「そういえば確か、前回はレースの後に戻って来たらここであの馬鹿達が負けた腹いせに刃物を持ち出してニニを襲おうとして、返り討ちにしてそのまま捕まえたんだっけ」
テントを出ながらそんな事まで思い出してしまい、ちょっと虚無の目になった俺だったよ。
もちろん自分達だけで勝手にホテルまで移動出来るわけもなく、前回同様に軍から派遣された警備兵達に付き添われての移動だったんだけど……当然、俺達を見つけた人達が騒ぎ出して完全に優勝パレード状態。
大歓声と慣れない大注目にヘタレな俺のメンタルはまたしてもゴリゴリ削られてしまい、ホテルに到着した頃にはもう疲れ切ってシオシオのヘロヘロになってました。
ちなみにランドルさんも慣れない大注目に疲れ切ってたみたいで、ホテル到着後に真っ先に向かった厩舎では、お互いの疲れた顔を見て、乾いた笑いで背中を叩き合って慰め合ってました。
ホテルの厩舎のスタッフさん達は、珍しい俺達の従魔を見て大喜びしてくれ、結局アクアだけ俺の小物入れに入ってもらってそれ以外の子達は全員預けて会場へ向かったよ。
一応、出来ればヤミーには鶏ハムを少しでいいからあげてくださいとお願いしておいたよ。
アクアだけ手元に残したのは、前回みたいに会場で何かのジェムを出してくれって頼まれた時のためってのと、万が一にもクロッシェの存在を仕事熱心なホテルの厩舎のスタッフさんに気付かれない様にするためです。
だって、万一にもスライムの内部に未消化のものがあるって思われて、何かの処置をされたりしたら困るからだよ。
俺の平穏な異世界生活のためにも、もうこれ以上のごたごたは勘弁願いたいです!
通された大広間は、前回と同じく壁一面を埋め尽くす絢爛豪華な食べ放題の料理と、ものすごい人数の関係者の人達で溢れていた。
そして当然だけどここにいるほぼ全員が、俺を見ては満面の笑みで個人戦連覇のお祝いと共に握手を求めて来た。
もう、俺の本日の愛想笑いのストックはありません。完売です。入荷予定は未定です!
せめて燃料補給のためにもそこの豪華料理を食べさせてくれ〜!
と、内心で半泣きどころかマジ泣きレベルの涙を流しつつも悲しいかな元営業マンの性……期待されたら出ない筈の愛想笑いも出てきてしまうんだよな。
数え切れないくらいの人達と、ひたすら挨拶をしては握手をする。二連覇のお祝いを言われてお礼を言って愛想笑いをする。そしてまた別の人と挨拶をして握手をする……。
まさかのRPGのトラップ、無限ループがここにあったよ。
慣れない事にもう本気で倒れそうになりかけた頃、ようやく挨拶の嵐から解放されて、俺も追加が山盛りになった料理を食べる事が出来た。
「確か、前回もこんな感じで前半は水も飲めなかったんだよなあ……」
黙々と生ハムと燻製肉の間を往復しつつ、時折他の料理も食べては合間に白ビールを飲む。
ここにもあったよ無限ループが。うん、だけどどれも美味しいからこれは良い無限ループだな。
ハスフェル達もそろそろ挨拶の嵐から解放されて、それぞれ好きに料理に突入している。
食欲に負けて愛想笑いを放棄した俺達と違い、クーヘンはまだ笑顔でいろんな人と話をしている。
そして驚いた事にランドルさんとバッカスさんが、クーヘンや商人ギルドのアルバンさんと一緒になって挨拶回りをしている。バッカスさんの隣に一緒にいるドワーフは、職人ギルドか、或いはドワーフギルドの関係者なのだろう。
どうやらバッカスさんはランドルさんの身内扱いでこの会場に来ていたみたいで、同じく身内扱いで会場に来ているマーサさんやクーヘンのお兄さん達ともしっかり挨拶を交わしていて、物作りの職人同士どうやら気が合ったみたいで、そのあとも何やら楽しそうに話をしていたよ。
「そっか。バッカスさんはこの後この街で店を開いて商売をするわけだから、良い機会だからランドルさんの相棒って立場を生かして、ここで顔を売って街の人達に繋ぎを作っておこうって作戦なわけか。さすがに抜け目がないなあ」
時折シャムエル様にも俺が食べてる燻製肉を横から齧らせてやりながら、俺はもう後半はほぼ野次馬状態で会場の人達を眺めていた。
「何だい何だい。主役がこんなところでサボってていいのかい」
からかうようなエルさんの笑い声に、俺は食べていた生ハムを慌てて飲み込んだ。
「良いんですよ。まあ、次の祭りまでの間にレース勝利者がするはずの宣伝活動もやらない流れの冒険者なら、扱いはこんなものでしょう。ってか俺はもうもう疲れてヘロヘロなのでどうか気にしないでください。こっちは放置されてる方が気が楽ですよ」
冷たくした吟醸酒をちびちび飲みながら、そう言って笑って首を振る。
まあ、今後の継続した繋がりが期待出来ない流れの冒険者である俺達と、街に店を構えたクーヘンやこれからこの街での店を構えての商売を予定しているバッカスさんとでは、街の重役達の対応が違うのはある意味当然だろう。
ってか、俺にそんな期待をされても困る。どうせすぐに出て行くんだから無理だって。
俺が言いたい事なんてわかってるであろうエルさんは、笑って肩を竦めただけでそれ以上何も言わなかった。
大盛況の祝勝会と慰労会が終わった後は俺達はそのまま従魔達を引き取ってホテルの部屋に戻り、クーヘンとランドルさんとバッカスさんは、エルさんやアルバンさん達と一緒に商人ギルド主催の二次会に行ってしまった。
これは前回クーヘンがやったみたいに、バッカスさんの新しいお店の宣伝活動を含んでいるんだろうからまあ当然か。
ランドルさんは長年の相棒であるバッカスさんの為に一緒に行ってるのだろう。ご苦労様だね。




