ランドルさんからの質問
「それにしてもあのスライムトランポリン、すっごく楽しそうだったね。シルヴァ達が、向こうへ戻ったら絶対やるんだって言って大騒ぎしてたよ」
その言葉に慌てて振り返って舞台袖から観客達を見渡したが、舞台正面の最前列にいたはずのシルヴァ達の姿はもうどこにも見当たらなかった。
「もしかして……もう帰っちゃったのか?」
「うん、まあね。三周戦が終わったら、早駆け祭りは終了だからさ」
「そっか……」
せめてさよならぐらい言いたかった。
だけど、一位になった所は見てもらえたんだし、あんなに楽しそうに屋台のお菓子を食べているところも見られたんだから、もうそれで良いと思うことにしよう。
「そっか、祭りを楽しんでくれたんなら良かったよ」
しみじみそう言うと、何故だかシャムエル様が俺の頭の上に現れてよしよしと俺の頭を何度も撫でてくれた。
べ……別に、泣いてなんか無いやい!
「お疲れさん。まあなかなかに楽しい時間だったな」
テントに戻ったハスフェルの言葉に俺達も揃って笑顔で頷き、それぞれ互いの健闘を称えて握手を交わした。
「あの、ケンさん。ちょっと教えていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
握手の後、ランドルさんが何やら真剣に思い詰めた顔で俺の側に来る。
「何々? 俺で分かる事なら何でも教えるよ。改まってどうしたんだ?」
「あの、さっきのスライムトランポリン。それから舞台の上でスライムの上に乗って跳ね回ってましたよね。それに以前テントの中で見たスライムベッド……あれって、俺でも出来るようになりますかね?」
おお、ここにもスライムトランポリン希望者がいたぞ。それに、スライムベッドもご希望らしい。いいよいいよ、これぞテイマーや魔獣使いの醍醐味。従魔の活用法だよな。
「ええと、多分出来ると思うけどなあ。もうランドルさんは魔獣使いの紋章を持ってるんだから、従魔達と言葉を交わせるよな? 今の俺達がやってるみたいに」
「ええ、もちろんです。まだ少しぎこちないところもありますが、頑張って滑らかに話せるように意識して皆と言葉を交わすようにしていますよ」
すごい。ちゃんと努力してる。よしよし、これなら大丈夫そうだな。
「じゃあ後は、肝心のスライムを複数集めるところからだな。従魔達は慣れればそれだけどんどん賢くなってくれるから、主人のやりたい事を詳しく理解してくれるようになるよ」
……で、良いんだよな?
俺の従魔達だけ、シャムエル様特典でチートで賢いとかってのは……無いよな?
若干不安になって右肩に戻っていたシャムエル様を見たが、シャムエル様は嬉しそうに何度もウンウンと頷いてくれた。
「大丈夫だよ。その考え方で合ってます!」
シャムエル様が断言してくれたので、安心したよ。
「そうなんですね。じゃあもっと仲良くなれるように頑張ります。それにこの後は、バッカスの店が開くまではこの街にいるつもりなので、しばらく近場でスライムを探してみる事にします。ええと、それともう一つ。スライムは色違いで集めた方がいいんですか?」
これまた真剣な顔で聞いてくるので、何だかおかしくなってきた。
どうやらランドルさんは何事にも真剣に取り組むタイプの人みたいだ。
「スライムトランポリンやスライムウォーターベッドをやりたいだけなら、数さえ集まれば別に何色でも構わないと思うけどなあ。ただ、以前も一度言ったけど、色んな色のスライムをこれくらい集めると、きっと驚く良い事があるからお楽しみに」
ランドルさんの横で一緒になって真剣に聞いていたクーヘンとランドルさんが、揃って不思議そうに顔を見合わせる。
「そう言えば以前、一日にテイム出来る数には上限があるって話の時にもそんな事を言ってましたね。ええ! 気になります。何があるって言うんですか?」
「そうですよ、勿体ぶらずに教えてください!」
二人が揃って抗議するのを見て、俺は笑ってアクアとサクラを手の上に乗せて見せてやった。
「じゃあそんな二人に大ヒントだ。今ここにいる二匹。無色透明と透明ピンク色。こいつらは世界中どこにでもいる色の定番のスライムです。俺はノーマルカラーって呼んでるよ。でもって、こっちの七色の子達はどの色も生息地域が限られているので、この近隣だけではもしかしたら集まらないかもしれない色のスライムだよ。俺はまとめてレインボーカラーって呼んでる。まずはこれを集めるのをお勧めするな」
そう言って、今度はレインボースライム達を並べて見せてやる。
あえて七色でレインボーって言ってやったんだけど、その意味に気がついてるかな?
「まあ他にもまだまだ色の種類はあるみたいだから、どこまで集めるかは各自の好きにすればいいと思うよ。集める際には、以前も言ったけど一日に出来るテイムの上限数にだけは絶対に気を付けて、無理のない範囲で楽しくテイムしてください。以上!」
最後はちょっと改まって言ってやると、嬉しそうに笑った二人が揃って直立した。
「ご教授ありがとうございます!」
それから、三人で顔を見合わせて笑いあったよ。
まあ彼らもそのうちに、レインボー七色プラスノーマル二色でゴールドスライムに合体! ってのをいずれ発見するだろうから、そこで自力で隠しキャラを見つける楽しみを知ってもらいたいものだよな。
納得したらしいランドルさんとクーヘンは、ハンプールの近隣でスライムが捕まる箇所があるかどうかやレインボーカラーの入手方法について、顔を寄せて真剣な顔で相談を始めていたのだった。