これぞ一位のパフォーマンスだ!
「第二位の副賞は、ホテルハンプールのスイートルームの宿泊券と、ホテルハンプールが誇る豪華料理が好きなだけ食べられるレストランチケットが五十枚だ〜!」
ギイとオンハルトの爺さんに花束と分厚い封筒が渡される。
笑顔でそれを受け取った二人はもう一度観客に手を振ってから後ろに下がった。
それを見てふと思った。
「あれ、そういえば、確か第三位以上は賞金が出たはずなんだけど、そういえば賞金の紹介が無かったなあ。もしかして予算オーバーしたかな?」
思わずそう呟いて、司会者の横に立っているアルバンさんを見てみる。
「あれ、だけど背後にいるスタッフさんが持っている封筒って、多分賞金目録が入ってた封書だと思うんだけど違うのかな?」
首を傾げつつ、まあすぐに分かるだろうと思って、心配事もまとめて明後日の方向にぶん投げておいた。
うん、完全に思考が現実逃避してるな。
「さあ皆様! お待たせいたしました〜! いよいよ残るは第一位の表彰のみ!」
呆然とする俺を置いて、超テンションの高い司会者の声が響き渡る。
「そして皆様もご存知の通り。第一位も同着となりましたので二名いらっしゃいます。順番にお呼びしましょう」
大歓声の中、わざとらしい仕草で司会者がハスフェルを見て手を振る。
「第一位! 銀髪の戦神ハスフェルとグレイハウンドのシリウス〜! 前回よりも一つ順位を上げての見事な第一位です。まさに戦神の名に恥じないゴール前の激闘を制しての第一位です!」
一瞬、シャムエル様がハスフェルの右肩に現れて頬にキスを贈って消えるのが見えた。
あれだな、前回俺にしてくれたみたいに勝者への祝福ってのを贈ったんだろう。
のんびり見ていると、シリウスの手綱を離したハスフェルは軽く頭を下げたシリウスの頭に、何と軽々と飛び乗ったのだ。おいおい、今のジャンプ力、一体予備動作無しで何メートル飛んだんだよ。
そして、これまた心得たシリウスが大きく頭を振ってハスフェルを舞台まで一気に弾き飛ばす。
もう、会場は拍手大喝采の大喜び。
そしてくるっと一回転して舞台に颯爽と降り立ったハスフェルの横にギイが進み出て並び、背筋を伸ばして両腕を上げて左右に広げて思いっきり力瘤を作る。そう、いわゆる元祖マッチョポーズ。
大歓声と二人の名前を呼ぶ声が怒涛のように押し寄せる。
お前ら、何揃って俺の登場難易度を爆上げしてくれてるんだ。
これ、どうするんだよ。前回のレベルどころじゃないだろうが。
遠い目になった俺は、必死になって逆に考えて見た。
ええと……俺じゃないと出来ないパフォーマンスって、何がある?
チラッとマックスを横目で見ると、もう尻尾は高速回転扇風機状態。何も言わなくても今すぐにでも俺を吹っ飛ばしてくれそうだ。
だけど、どう考えてもあの運動神経は俺には無い。こちとら舞台まで吹っ飛ばされたら、顔面から舞台に激突して血塗れになる未来しか見えないよ。
涙目になってパニックになりかけた時、小物入れの隙間から細い触手がニュルンと伸びて俺の腕を突っついた。
『ご主人、アクア達になにかお手伝い出来ないかな?』
心配そうに念話で声を届けてくれた小物入れの中のアクア達の存在を思い出し、俺は一つのアイデアを思いついて必死でアクア達に説明した。
『任せて〜! そんなの簡単だよ〜!』
自信満々で得意気なその答えに、俺はもう座り込みそうなくらいに安堵していた。
よし、これなら何とかなるだろう。
「そしてもう一人の第一位をお呼びしましょう。まさに史上最強の魔獣使いのケンとヘルハウンドのマ〜〜〜〜〜〜〜〜ックス! 前回同様に、ゴール前での激闘を制しての見事な二連覇です! いやあ、これぞ早駆け祭りの醍醐味と言わんばかりの大激戦でした。本当に素晴らしかったですね!」
司会者の声が聞こえて、俺は大きく深呼吸をした。
今いる場所は、舞台正面の地面、つまり舞台から一段大きく下がった位置にある。一応階段は用意されているけど、あれだけのパフォーマンスを見せられた後であの階段を使う勇気は俺には無い。
となると、要するに自力で舞台に上がれば良いんだよ。
そして今司会者が言った通り、俺は魔獣使いだ。
顔を上げた俺は、小物入れの蓋を開いた。
それを合図に待ち構えていたピンポン球サイズに分解したスライム達が一気に飛び出してくる。
そして地面に落ちた瞬間に一気に大きくなった。
前列の見えていた人達は大きくどよめくが、後ろの方の人達には見えない。
シルヴァ達の歓声も聞こえて俺は嬉しくなってきた。
「よし、いくぞ! スライムトランポリンだ!」
俺の合図でアクアを先頭にレインボースライム達が円陣を組んで輪になる。そのまま一気に大きくなり、直径5メートルくらいの輪になって止まる。その際に一気に縦に伸びたおかげで、円陣を組んだスライム達を後ろの人達も見る事が出来た。要するに直径5メートルのレインボー煙突の出来上がりだ。
会場が一気にどよめく。
そこへサクラが煙突の上まで飛び跳ねビヨンと伸びて煙突の上部に膜を張る。これで高さ3メートル、直径5メートル強のスライムトランポリンの完成だ。
マックスを振り返ろうとした時、シャムエル様が俺の肩に現れてそっと頬にキスをくれた。
「勝者に祝福を」
言うだけ言って唐突に消えてしまった。
「あれ、一緒に跳ぼうと思ってたのに消えちゃったよ。まあ良いや」
そう呟くと、今度こそマックスを振り返って右手を差し出す。
一声吠えたマックスは、俺の腕を軽く咥えてそのままスライムトランポリンの上まで吹っ飛ばしてくれた。
悲鳴と歓声が上がるが、俺はそのまま足から膜になってくれているサクラの真ん中に飛び込んだ。
ポヨ〜ンと、若干間抜けな音を立てて俺はそのまま2メートルほど飛び上がってまた戻る。
飛び上がるたびに歓声が上がり、何度も飛び跳ねる間に土台のスライム達が少しずつ小さくなってくれる。
1メートルくらいの高さまで戻ったところで、俺はそのまま勢いをつけて舞台まで一息に跳んだよ。
まあこれくらいなら俺でも出来る。もちろん空中回転は無しだけどね。
舞台に着地して振り返って手を振ると、もの凄い大歓声と拍手が聞こえて俺は内心でガッツポーズをした。
よし、これならハスフェル達のパフォーマンスにも負けてないぞ。
しかし、舞台にいた面々は、ぽかんと口を開けて俺を見ているだけだ。
ドヤ顔で胸を張る俺。
次の瞬間ハスフェル達は揃って吹き出し、大きな手で拍手をしてくれた。
もう一度観客を振り返って、俺は胸を張ってドヤ顔で手を振ったよ。同着とは言え一位で、しかも二連覇なんだからこれくらいしても良いよな。
会場中の拍手と歓声を独り占めした俺は満足して一つ大きく深呼吸をすると、まだ目を見開いたまま呆然と固まってる司会者を笑顔で振り返った。