表彰式の始まり
「え〜皆様。大変お待たせ致しました。只今より早駆け祭り三周戦、勝者全員によるウイニングランの開始です!」
司会者の声が響き、騒めいていた街中が一斉に大歓声と拍手に包まれる。
「ほら、二連覇の勝者に先頭を譲るよ」
笑顔のハスフェルにそう言われて、スタッフさんの案内でゆっくりとマックスを進ませる。
去年よりも人数の多い、総勢十人によるウイニングランだ。
俺の乗るマックスを先頭に、ハスフェルの乗るシリウス、ギイの乗るデネブと確定した順位通りに列になってゆっくりと、ついさっき死ぬほどの思いで全力疾走した道を歩く。
街中の人達が俺を見ている。どこを向いても人だらけで皆笑顔だ。時折俺やマックスの名前が聞こえたら、笑顔でそっちに向かって手を振るくらいには俺も余裕が出て来た。
まあ、手を振ったら返ってきた雷みたいな物凄い大歓声には、ちょっと本気でびびったけどね。
半周して赤橋の辺りへ来た時、俺はかなり必死になって周りを見渡してシルヴァ達の姿が見えないか探していた。
そりゃあ念話で懐かしい声は聞こえたし、有料観客席からは屋台のお菓子や料理を嬉々として食べている姿を遠くからは見つける事は出来たよ。
だけど、だけどこの一位の真っ赤なマントを羽織った俺を見て欲しかった。
よくやったねって言って、拍手をして、笑顔で拳を突き合わせたり手を叩き合ったりしたかったんだよ。
だけどそんな俺の願いも虚しく、人混みの中にも、そしてここまで良い香りが漂ってきている屋台の周りにも、目指す四人の姿を見つける事は出来なかった。
そのまま進み続け、とうとう本部前まで戻ってきてしまった。
「結局会えずじまいか。何だか寂しい気もするけど、案外これでいいのかもな」
小さなため息を吐いて吹っ切るようにそう呟いた時、舞台正面、つまり表彰台の真正面に陣取る一団が目に飛び込んできて、その瞬間に俺は堪える間も無く豪快に吹き出した。
そこにいたのは、もうこれ以上無いくらいの良い笑顔のシルヴァとグレイの二人だった。
そして二人は、屋台で買ったのであろうがまたとんでもない巨大なお菓子を手にしていた。
右手で鷲掴んでいるのは、彼女達の顔くらいの大きさは余裕である超巨大などら焼きみたいなので、左手には何と、ピンポン玉くらいはありそうな大きな団子を全部で十個くらいぎっしりと串に刺した、まるで武器かと見紛うばかりの長い串団子を持っていたのだ。
そしてその後ろでは、泡立つ白ビールの入った大ジョッキと、これまた大きな肉の串焼きを持つレオとエリゴールが、こちらも満面の笑みで手を振っていたのだ。
「おいおい。お菓子を持ったままそんな勢いで手を振ったら貴重なお菓子が落ちるぞ」
思わずそう呟くと、聞こえたらしいハスフェルとギイが同時に吹き出して咳き込んでた。
「おや、あそこにいるのはシルヴァ達ですね。やっぱり来られていたんですね」
当然彼女達の事はクーヘンも気が付いたらしく、嬉しそうに頷いて彼女達に向かって手を振っていた。
「お帰りなさい。勝者達よ。では表彰式に移らせていただきます。さあ、従魔や騎馬と共に舞台前へどうぞ!」
笑顔の司会者の言葉に、俺達は従魔から飛び降りて手綱を引いて舞台前に作られた広い空間に並んだ。
舞台の上には一段高く作られた台があって、これがいわば表彰台になっている。
「確か前回もここから舞台へ一気に飛び上がったんだったよな。今回も上手く出来るかなあ」
苦笑いしながら舞台を見上げてそんな事を思う。
実を言うと、走ってる間中必死になってマックスにしがみついていたせいで、足と手が結構……いや、かなり疲れている。ううん、ちょっと膝がガクガクになってるかも。
軽く足を振って飛び跳ねて、何とか誤魔化しておく。でも若干不安だ。うん、今回は無理はしないでおこう。
「では個人戦の表彰式から行いたいと思います。ですがその前に、主催者本部より重要なお知らせがございます、どうぞお静かに」
改まった口調で司会者がそう言うと、舞台前は一瞬で静まり返る。
「今回は皆様ご覧の通り、本っっっっっっ当に物凄い大激戦となりました。同着一位は過去にも何度かあったのですが、二位も二人、そして五位と六位も二人ずつで、合計十人の選手が表彰台に上がるという、史上初めての結果となりました。しかしご安心ください。ギルド連合は頑張りましたよ〜!」
得意気なその言葉に、静かになっていた観客達がどよめく。
「ではここで、今回の主宰ギルドである商人ギルドのギルドマスターから詳しいお知らせをさせて頂きます」
マイクをアルバンさんに渡して司会者が横に立つ。
軽く咳払いをしたアルバンさんが、マイクを受け取って観客に向き直る。
「ええ、ご紹介に預かりました商人ギルドマスターのアルバンです。では、皆様が一番気になっているであろう事をまずは説明させていただきます」
やや緊張した面持ちのアルバンさんは、スタッフさんが持ってきた大きなホワイトボードを指差しながら詳しい説明を始めた。
つまり、賭け券の払い戻しがどうなるかって事。
何でも、今回から賭け券の種類が増えていたらしい。
いつもはそれぞれの単勝とチーム戦の単勝だけなのだが、いわゆる複勝、つまり三位までに入る一頭を選ぶってのと、3連複、つまりこれも順位は問わずに三位までに入る三頭を選ぶっていうのが加わってたらしい。ちなみにチーム戦は、今まで通りの単勝のみ。
どうやら同着の場合も全て的中扱いとする事と決まったらしく、それを発表した途端に観客達は大喜びの拍手喝采となった。
「それは嬉しいだろうけど、予算的に大丈夫なのかね?」
まあほぼ当初の予想通りの順位になってるので、単勝で当たってもそれほどの高額にはならないだろうけど、それでも二倍だ。複勝や3連複なら的中馬券が更に増えるって事だもんな。ギルドの予算的に大丈夫なのか心配になってきたよ。
「大丈夫ですよ。今回の賭け券の販売数は、歴代一位の最高売り上げを記録したそうですからね。少々還元したところで問題にならないと思いますよ。賭けは胴元が一番儲かるように出来ているんですって」
笑ったクーヘンの説明に、何だか妙に納得した俺だったよ。
そして、前回棄権したリベンジの二人が順に呼ばれて舞台に上がるのを、俺達も拍手をしながら呑気に眺めていたのだった。