驚きの順位
「おお、これは驚きの順位となりました! 何と、この早駆け祭の歴史の中でも数度しかない事態になりましたよ。これは賭け券の払い戻しはどうなるのでしょうか? 皆様、お手持ちの賭け券は、絶対に手放さずに持っていてくださいね〜お願いしますよ〜」
戸惑う司会者の声が響き、俺は自分の胸元を見る。真っ白な俺の胸元とハスフェルの胸元に記された緑のライン。
ああ、さらば二連覇の夢……。
しかし、よく見るとマックスの鼻先には緑の印がある。
そして改めて見てみると、シリウスの鼻先も緑色の印が入っている。
ん? ドユコト?
頭にクエスチョンマークを行列させている俺に、満面の笑みのスタッフさんが駆け寄ってくる。
手にしているのは、見覚えのある金の縁取りのついた真っ赤なマントだ。って事は……?
「おめでとうございます。ハスフェルさんとの同着一位です。同着の場合、確認が必要となりますので表彰式まで少し時間がかかるかもしれません。申し訳ありませんがこのままお待ちください」
見ると、ハスフェルにも金の縁取りの真っ赤なマントがかけられている。俺よりマントがかなり小さく見えるのは、まああの体格なら致し方あるまい。
スタッフさんは、マックスとシリウスの首にも大きな布を被せて行った。あれには『第一位』って書かれてたんだよ、確か。
身を乗り出して見てみると、予想通りにそこには第一位の文字が燦然と輝いていたのだった。
「おめでとう。まさかの同着だったとはね。いやあ、最後の追い込みは凄かったね振り落とされるかと思ってドキドキしたよ」
マックスの頭に乗ったシャムエル様が、そう言いながら何故だか今にも笑い出しそうな顔で俺を見ている。
俺の顔を見ては笑いかけ、また顔を見ては口元を覆い、とうとう最後は堪えきれずに吹き出した。
「なあ、その笑いは何に対する笑いなんだ? 俺の顔に何か付いてるか?」
もふもふ尻尾を突っついてそう尋ねると、尻尾を俺の手に叩きつけてからまた吹き出したシャムエル様が、どこからか小さな手鏡を取り出してこっちに向けてくれた。これで顔を見ろって事なんだろう。
ええ? ちゃんと顔は洗ったから、よだれの後とか寝癖がついてるとかはないと思うんだけど、一体何がどうなってるんだ?
戸惑いつつ手鏡を覗き込んだ俺は、写った自分の顔を見て堪える間も無く吹き出してしまった。
なんと、俺の顔面を水平にぶった切るようにして、鼻筋と垂直になるようにして緑色のラインが綺麗に記されていたのだ。
これはあれだ。
ゴールの瞬間、振り落とされまいとして必死になってマックスにの体に身体を倒して、文字通り全身でしがみついていたからだな。
普通なら胸元に入る印が入れられなくて、唯一見えていた顔面に印がついたんだろう。
別に良いけど……別に良いけど、これはあまりにもみっともなさ過ぎる!
思わず左手で顔を覆った俺は、小さく笑って首を振った。確か表彰式が終わっても消えてなかった記憶がある。もうこうなったら、話のネタにしてやる。
緑の印については勝者の印なんだから気にしないぞ! と、開き直った俺は、不意に他の皆の順位が気になって慌てて周りを見渡した。
すると、ありえない光景が目に入って、思わず目を見開く。
予想通りにクーヘンもギイもオンハルトの爺さんも、そしてランドルさんも、見事に全員が銀の縁取りのタスキをかけている。
しかし、その横でオンハルトの爺さんと手を叩き合ってるウッディさんとフェルトさん、そして前回棄権したあの二人にも銀色の縁取りのタスキが掛かっていたのだ。
「あれ? 確か、五位と六位は白の縁取りのついたタスキじゃなかったっけ? しかも人数が多いぞ。表彰する人数が増えたのか?」
そう呟いて、それぞれの従魔達の首にかけられた布を見てみる。
ギイのデネブとオンハルトの爺さんのエラフィにはどちらも第二位の文字が、そしてクーヘンに第三位、ランドルさんには第四位の文字が書かれていたのだ。
そしてウッディさんとフェルトさんには第五位、リベンジ組には第六位の文字がそれぞれ書かれていたのだ。
つまり、俺とハスフェルが同着で一位が二人、ギイとオンハルトの爺さんが同着で第二位が二人、クーヘンが三位でランドルさんが四位。でもってウッディさんとフェルトさんが同着で五位が二人にリベンジ組の二人がこれまた同着で六位が二人って事?
ええ? そんな事、あり得るのか?
「いやあ、ものすごい勝負でしたね。前回を超えるゴール前の物凄い追い込みと激闘。私、もう何がなんだか分からずに、途中から中継を忘れてました」
照れたように司会者がそう言い、あちこちから笑いと拍手が起こる。
「現在、正式な着順の確認作業を進めておりますが、おそらくこのままの順位で確定する模様です。賭け券の払い戻しの詳細につきましては、後ほど本部より正式な発表がなされるとのことですので、皆様、それまで絶対にお手持ちの賭け券、捨てないでくださいね。失くしたら再発行なんてありませんからね〜」
あちこちから笑いと悲鳴が上がるのを見て、俺達もようやく顔を見合わせて笑い合った。
どうやら、何とか無事に早駆け祭りの三周戦は終わったみたいだな。